政治を斬る!

こちらアイスランド(166)ボンカレーやポカリが、ゴッホ、フェルメール、ルノアール、モネ、クリムト、ムンクなど、世界の名画を一同に魅せる美術館に化けるとは!〜小倉悠加

知らなかった。鮫島さんと超ニアミスだったとは。

鮫島氏は仕事で徳島へ向かった。私はお気軽一人旅の帰路だった。鮫島さんの阿波踊りの記事を見て、「え?」と驚き、尋ねてみると、どうやら彼は午後2時に徳島空港に到着し、私は羽田行きの便に乗るため、3時過ぎに同じ空港に到着していた。

気楽なひとり旅だったので、鮫島さんが講演をすると知っていれば、延泊していたかもしれない。ちょっと残念。

私はひとりでアイスランドと日本を行き来もするけれど、気楽な一人旅は滅多にない。いや、学生時代以来、初めてだったかもしれない。

きっかけは実家で国内旅行の新聞広告を眺めたことだった。その広告内で唯一知らない場所が「大塚国際美術館」だった。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

広告には京都や大阪、松山、金沢など、誰もが知る有名地が連なっていた。なのに、全然聞いたことがない美術館。そこがなぜ京都の古都巡りと同等に扱われるのか、大いに興味を持った。

「お母さん、大塚国際美術館って知ってる?」

「聞いたことがある気がしないでもないけど、わからないわ」

毎日テレビと新聞を見る母でも知らないという。ちなみに私はテレビも新聞もゼロの毎日だ。

検索してみると、記事が数多く出てきた。どうやらそこは大規模な美術館で、陶器に名画を焼き付けたものだという。最初に目にしたのは、バチカンのシスティーナ教会を天井画とともに再現した写真だった。圧巻だ。

ふ〜ん、ちょっと興味あり。この教会の絵は見たいと思っていたし、絵画だけではなくその環境も再現されているという。うむ。よさそうだ。行きたい。本物のバチカンまで足を伸ばすつもりはないから、いい機会かもしれない。

そこでツイッターにこんな質問を投げかけてみた。

いろいろな方々から、とてもいいというコメントが続いた。その言葉を後押しに、それではと出向くことにした。幸いマイルが徳島往復できる程度貯まっていた。これを使えば往復の運賃が浮く。

航空運賃がないのでホテルを奮発し、気軽で少しだけゴージャスなおひとり様旅行!を予約。とても楽しみになってきた。

なのに、なんとその前日に関東が大雪に見舞われた。大雪の当日は欠航も相次ぎ、ギャー翌日どうなるんかぁ??!!!と少し不安になった。

冷静に考えてみよう。たぶん航空便は飛ぶ。一番厄介なのは、早朝にタクシーを捕まえることだ。

それから、横浜から羽田まではバス移動が一番楽だ。けれど大雪当日YCATのバスは運行をやめた。翌日も出ない可能性があるから、電車でも行けるよう時間を調べた。あとは徳島への便が欠航にならないよう、七福神からアッラーからキリストまで、古今東西の有力神者に祈った。

という経緯で突然の一人旅。やってきました大塚国際美術館。あの大塚製薬が建てたんですね。ボンカレーとかポカリスエットとか、売り上げは私も少しは貢献したかな?

来る前に予習をしておいた。全てを見るには4キロを歩く。1日では見終わらない可能性もある。

ローカルなバスに乗ること40分、やってきました大塚国際美術館。山の中に建てたそうで、外観からは建物がほとんど見えない。

中に入るとすぐに受付があり、事前に購入しておいたバーコードのチケットを読み込んでエスカレーターで展示場へ。入り口付近のコインロッカーに荷物を入れて、いざ出陣!

いきなり出くわすのが、このなんちゃってシスティーナ教会。この美術館の特徴である「環境展示」の典型がここだ。環境展示とは、オリジナルの展示空間を再現して絵画を展示することであるという。へ〜〜。

もうこれだけで圧巻だ。ここにはアダムとイブや天国と地獄、キリストがどうのというキリスト教の宗教画に必ずあるストーリーが満載だ。

そうだ、私が信心深くないことをここに謹んでお伝えしておきます。

絵画のクオリティ、複製技術もさることながら、教会の礼拝堂ごと再現してしまったという規模感に度肝を抜かれる。いや、美しいですよ。非常に。圧巻。ここだけでお腹がいっぱいになり、来てよかった感が100%満たされた。

この美術館がすごいのは、これがまだ導入部分のほんの一部に過ぎないことだ。

いや、ちょっと待て、なんというか、脳が追いつかない。システィーナ教会だけはよかったけれど、あまりにも次々と見どころが出てき過ぎて、脳がバグってくる。

この「最後の晩餐」のように、修復に修復を重ねて原画とは似ても似つかなくなった画と、原画に忠実に再生した画もあり、ラッキーにもボランティア解説を聞くことができたので、濡らした和紙に修正絵の具を吸い取らせて原画を甦らせた等、大変に興味深い話を聞くこともできた。

エル・グレコの大祭壇衝立画のフレームは18金でできていて、当時1億円をかけたというので、現在なら3億というところか?!

とにかく、なんちゅーか、すごい・・・。

そしてこの全ては陶器に焼き付けてあるそうで、なので色褪せることもないという。一つだけ難点を言えば、陶器なので大きさに限りがあり、大物の絵画は数枚の陶器版を組み合わせるため、どうしてもそこには線が入ってしまう。けれど、だからこそ「これは原画ではありません」というのがわかって、少し安心できたりする。

何度も書くが、脳がバグる。世界のあちこちの美術館や、特別展示会等で見てきた作品が、ここに、容赦なく、普通に、一同に会していすぎる。ありすぎる!!

誇張なしに私はクラクラとしてきて、途中一度、売店へ行き、自分を普通の現実に戻した。

ボンカレーは私が平常心を取り戻すのを手伝ってくれた。

気を取り直して、再度展示へと繰り出す。けれどすぐに気が遠くなりそうになる。次は中世からルネッサンス、バロックから近代・現代の絵画が、系統だてて置いてある!

うわぁ、これは実に素晴らしい。なるほど、この絵画とこの絵画をこうして展示すると、なるほど特徴がよくわかるし、変化もよくわかるわ〜。なる〜、なる〜と、1月初旬にすっ転んで強打した膝の痛みも忘れて歩き続けた。

これでもか!と名画を投げつけられる。画家名を書くのがイヤになるほどの名が揃いだ。写真を拡大すれば、みなさんが知ってる名画が数多く目にとまるに違いない。

あぁこれはルーブルで見た、オランジェリーにあった。これはニューヨークのメットで見た、これは確か西洋美術館になかったか?ゴッホはゴッホ美術館でたっぷり見たし、フェルメールも東京に来た時、何時間も並んで超人混みの中拝ませてもらった。あぁレンブラントもいいね。ピサロもユトリロもシャガールもボナールも大好き。ゴーギャンのこのゴツっとした濃厚な生命感も好きだぁ〜〜〜!!!のような連続で、特に美術好きだと思ってない私でも、驚愕の瞬間が続く。

個人的に少しがっかりだったのは、モネの睡蓮だった。というのも、30数年前にオランジェリーで見たあの色彩と雰囲気がまだ思い出せるほど、あれは感動の大作だった。屋外に置いてしまうと、その日の光線もあったのかもしれないが、どこか色褪せて、「あの」雰囲気が感じられないのだ。

しっとりと露に濡れるフランスの庭の雰囲気でも、シンと落ち着いたオランジェリーの建造物の雰囲気も感じられなかった。私には、この作品が置かれるべき繊細さがどこか欠けているように思えた。あぁ、写真を見てわかった。背後の白い柱が嫌いなのだと思う。あれが邪魔すぎる。

モネのこの大作とて、この美術館では数多くあるみどころの一つでしかない。とんでもない美術館だ(褒めてます)。

意外だったのは、私がボッティチェリ好きだということだった。知らなかった・・・。普通にレノアールとかモネが好きだと思っていた。けれど、今回一番好き好き大好きだと思ったのはボッティチェリの「プリバベーラ」だった。

どこらへんが好きかと言えば、この花!可憐な花ですよ、花。素足に可憐な季節な花。瑞々しさの権化がここに。昔から私は花柄に弱く(女性はそういう人が多いのか?)、この絵画のコンセプトと若干似たような感じで、レオナール・フジタの「花の洗礼」のリトグラフを持っている。

この絵を舐め回すように見て、じーと見て、足元の写真などを撮り、「ビーナスの誕生」はチラっと見て終わった。

貝の上に立つビーナスを見る度に、50歳でホタテ貝のビキニを着て写真を撮ったマキエマキさんを思い出してしまい、印象がちぐはぐなのだ。

近代・現代美術を見に行くには、上階の別館へ行く必要がある。途中少しだけ外を通る場所がある。鳴門の海を眺めらることができる。

大自然に恵まれるというか、トンビやたぬき等に要注意ということで、土地柄を感じずに居られなかった。

別館にはまずウォーホールがいて、現代のポップアートが少々。その通路を抜けると、衝撃作があった。ゲルニカだ。

このサイズのゲルニカは圧巻だ。人間の遅かさ、冷酷さ、悲惨さをこのような芸術に仕上げた狂気が通りがかる人を鷲掴みにする。この美術館内で最も衝撃を受けたのがこの作品だった。陶器であることの線がなかったら、完全に打ちひしがれて帰っていたかもしれない。

古代はぼちぼちだったけど、中世、バロック、ルネッサンスの系統だてた展示は、これまたギャ〜っと叫んでしまうような名画!名画!これでもか名画!だらけで、一同にこんなの集めちゃって違法じゃないのか?と神経が変になってくる。

美術はわからなくても、ミーハーに楽しめるのもいいね!

そのダメ押しが近代もので、別館のセクションもしっかりと見応えがあった。特にエコールドパリの画家を集めたここは好きだったなぁ。パリに住む外国人画家ではなかったけれど、その潮流としてモディリアーニの一角にさらりとローランサンが展示されているところなども、気が利いてるぅ〜。

とまぁ、驚きのマシンガン絵画のおかげで、充実のなんちゃって美術ライフを過ごすことができた。

何キロ歩いたのだろうか。頭の先から尻尾の先まで歩いた。情報によれば4キロだそうだ。どうりで疲れた。足もさることながら、目もシパシパしている。限界なので、予定よりバス一本早く切り上げた。

とても久しぶりのおひとり様で、仕事以外でひとりでホテルに泊まることなどあっただろうか?思い出しても、どうしても思い出せない。

今回は航空運賃が浮いたこともあり、思い切って海側の部屋を指定した。部屋は広々で、バルコニー付き!この部屋、とっても居心地がよかった!温泉は大浴場や露天が別口にあり、そこでも呑気に過ごした。

夕食はおひとり様の豪華フレンチ。ワインペアリングまでして少々飲み過ぎた。

翌日、美術館へ行く選択もできた。けれど、彼がいっしょに来たいと言うだろうことを見越して、2度目はその時にとっておけばいいかと思った。

帰る前に、鳴門の渦などをチラっと見に行き、そして徳島空港へ向かったのだった。鮫島さんとのニアミスは知る由もなかった。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

筆者同盟の最新記事8件