政治を斬る!

こちらアイスランド(179)オーバーツーリズムの波紋。ランドマンナロイガルもスコゥガフォスもあそこもここも駐車場有料化、自然の景観は誰のもの?〜小倉悠加

オーバーツーリズム。不可解なカタカナ日本語だ。直訳すれば観光過剰だろうか。許容を超える観光客が訪れて、その土地にさまざまな問題がもたらせるため、「観光公害」といった方がピンとくる。

アイスランドは観光国としては新興の部類に入る。観光公害がじわじわと、そして確実に押し寄せている。

アイスランドは総人口38万人のごく小さな国だ。国土は10万平方キロメートルで人口密度は低い。のべにすれば密度は低いが、日本と同じで人口のほとんどは沿岸部に集中している。特に人口が多いのはレイキャビク周辺だ。

その他の場所は小さな村落がポツンポツンとあるだけで、村落に数十名も住民がいれば立派なコミュニティに数えられる。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

そんなところに観光客が押し寄せる。2023年にアイスランドを訪れた観光客は約230万人だった。総人口の6倍以上の人数がこの国を訪れた。

アイスランドは2023年に、約1兆4千億円の外貨を獲得したと言われる。そのうちの47%が観光で、次いで漁業28%、アルミの精錬18%が主な収入源だ。かつては漁業立国で90%以上の外貨を漁業から得ていた。海里問題もあり、漁業ばかりには頼れないと脚光を浴びたのがアルミの精錬だった。なぜアルミなのかといえば、安いグリーンエネルギー(水力)を利用できるからであった。

それがひっくり返り始めたのは2008年の経済崩壊がきっかけだった。アイスランドが安全かつ安価な旅行先になったのだ。それを助けるように(?)2010年にエイヤフャットラヨークトルが噴火した。

噴き上げられた火山灰でエンジンに支障が出る可能性があるとされ、安全のためヨーロッパの航空便が1週間ほど足止めされた。そこでアイスランドは大きく報道され、エイヤフャットラヨークトルの舌を噛みそうな名前が面白おかしく取り上げられることも後押しとなり、世界中から注目を浴びたのだった。

物価が安い、治安が抜群にいい、水がタダな上に美味しい、景観が美しい等が世界に知れ渡り、観光ブームが到来。たちまち経済はV字回帰となった。

それからの5-6年間ほどは観光ブーム万歳だったし、政府観光局もさまざまなキャンペーンを打ち出し、さらに観光客を呼び込んだ。以下、ChatGPTが調べてきたアイスランドへの旅行者数の推移だ。

2008年: 502,000人
2009年: 493,000人
2010年: 488,000人
2011年: 566,000人
2012年: 672,000人
2013年: 807,000人
2014年: 998,000人
2015年: 1,329,000人
2016年: 1,789,000人
2017年: 2,243,000人
2018年: 2,293,000人
2019年: 約2,000,000人(推定)
2020年: 478,000人(COVID-19の影響)
2021年: 約700,000人(推定回復開始)
2022年: 約1,500,000人(さらなる回復)
2023年: 約2,300,000人(推定)

この数で如実にわかると思うが、2008年からの5-6年間で数が二倍に増え100万人に到達し、あれよあれよという間に二百万人を超えていく。

この時期、私自身も観光客としてアイスランドに通っていたので、数のうちに入っているし、観光客数の違いを如実に感じてきた。

例えば、2000年初頭から2010年までは、まだ街中を歩くと知り合いに会ったものだった。その後はもう観光客が増えすぎて街中に出たくなくなり、現在では街中を歩いている八割が観光客だ。知り合いの顔は時々見るけれど、以前のような街の雰囲気は全くない。ガラリと様変わりした。

おっと、昔はよかった風なババ臭いことを書いてごめんごめん。

ここ数年、特にコロナを経て如実に増えたのが、駐車場の有料化だ。駐車場の整備には費用がかかるので、まぁ仕方がない。

大自然の景観が公共の土地ではなく、私有地の場合もある。ゴールデンサークルの間欠泉として有名なゲイシールも私有地だし、最近有名になりつつあるブルアフォスも私有地内だ。今までは地主の心意気で解放されていたけれど、観光客が増えると環境保全や安全面を考える必要が出てくる。駐車場や遊歩道整備には費用がかかる。地主の心意気だけではどうにもならず、駐車料金の請求にそれが反映されていく。ま、仕方がないけどね。

でもさぁ、ここまで観光客が増えなければ無料だったんだよね・・・、と思ってしまう。

首都圏から近い観光地はそれなりに整備が追いついたし、商魂逞しくショップでも出せばそこそこ売れるし、ウィンウィンといえば、そんな感じだった。

けれど、けれど、ここ数年でいろいろとショックな物事が出てきた。ショックなのは自分勝手な思いに過ぎないとはいえーーー。

近年車が多くなったなぁとは思っていたし、去年は駐車スペースがなくて途方に暮れそうになったのがランドマンナロイガルだ。

エイヤフャットラヨークトルに続いて舌をかみそうなランドマンナロイガル、こんな場所です。

高地の真珠と呼ばれるこの場所が、今年からついに駐車場有料化!それも事前予約に!

この近くにリゾートを建設するという話があり、そちらの方に気を取られて、駐車場が予約制になるとは知らなかった。開始は2024年6月18日から。ギャ〜〜。実は我々、その前日の6月17日に行ってたのです。

アイスランドの内陸部、高地といえば山岳地帯の山道を使う必要がある。山道は未舗装道で、四駆専用道がほとんどだ。大きな石がゴロゴロしていたり、とてもじゃないけど二駆では無理な道が多い。

道が正式に開通しているのは夏の数ヶ月のみで、道がカキンコキンに凍ってる冬は自己責任で通るのは自由といえども、いろいろな意味で大変にハードルが高い。

アイスランドが観光ブームになる前は「秘境」と言われた場所だ。駐車場に困ることなどあり得なかった。いや本当に、時代は変わったのだ。

レイキャビクのメインストリートが、知り合いに出くわす場所でなくなってから久しい。そこに観光客しかいないのも慣れた。地元民は近づかない地域だし、私も滅多に行かない。知り合いがやってる店も、個性的な店もいなくなった。どうせ私の居場所はないからもういいよと、少し投げたくなる。

首都はそれでいいけれど、秘境と言われる高地までがその波に飲まれていく。整備が必要だ、混乱が起こらないようにしたいという気持ちは理解できる。でも何だかぁ何だかねぇ・・・。

以前にも書いたかもしれないけれど、大好きなケルリンガルフョットルの拠点地は既に高級ホテルが建設され、高級リゾート化された。キャンプ場はお情けで(?)残ったけどさぁ・・・。

ここはオーバーツーリズムというより、金儲けですね。「ビジネス」だ。なぜみんなこういうことをビジネスと呼ぶのだろう?商売と言えばいいのに。だって商売でしょう。ビジネスという響きにずる賢いニュアンスを感じて私は好きになれない。「商売」の方が潔くないか?日本語の中で使われるカタカナ英語は、本当に厄介だ。排除したい。

南海岸の大瀑布、スコゥガフォスの駐車場も有料になるという。現在の駐車場は手狭で、雨が降るとぬかるむし、トイレの数も足りない。現在の駐車場から少し離れた場所に大規模な駐車場を作っている。スコゥガフォスは1号線沿いでもあり、仕方がないとは思う。けれど、あちこちの有名観光地で、気が向いたら駐車してサクっと写真をとることができなくなっていく。

それを「観光公害」と呼ぶのかは分からないけれど、保全できる以上に観光客を呼び込むのは得策ではないし、地元民が遠ざかっていくのも本筋ではない。

自然の景観は観光客のためにあり、税金は払ってるけどアイスランド人が楽しむ場所ではなくなっていく。

なんだか、悲しくないか?

自然の景観は心の糧ではなく、商売の種でしかない。

全部が悪だとは思わないけれど、バランスは考える必要があると激しく感じる。

とはいえ、私がその解決策を持っている訳ではなく、歯痒い思いを噛み締めながら静観することしかできないのが情けない。

観光関係での外貨獲得率が高く慣れば高くなるほど、アイスランドの自然はアイスランド国民から遠ざかっていく。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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