四駆乗りになって4年目。日常のほとんどが「次の休日に晴れたらどこへ行く?」の考えに占拠される。それが人生の目的のようになってきた。私、本当に社会人か?!
これほどドライブの虜になるとは少し不思議な気がするけれど、自然が多くて静かな場所に住みたいとず〜〜っと思っていた。なのでひどく意外ではないのかもしれない。とはいえ、桁違いの大パノラマの絶景ばかりを見るようになるとは思わなかった。
今年の夏は天候不順で、晴れの日が半日と続かないことが多く、彼の夏休み中は思うようにあちこちへ出られなかった。雨や強風続きでパっとしない2024年の夏。悲しいけれど、もう夏を感じるキラキラの太陽光ではない。夏を満喫する前に夏が終わってしまった(悲)。
あれほど蒸し暑くて大嫌いだった夏を、これほど所望するようになるとは意外だ。環境で人はこれほど変わるのかと自分でも驚く。夏よ来い!私の肌にジリジリと焼ける感覚を味合わせてくれ!
8月に入り彼が仕事に戻り、狙えるのは週末だけだ。土日続けて天気は悪くなさそうだったので、予報に大幅な変更がないことを祈りつつ、キャンプ用品を車に積み、土曜の朝家を出ながら行き先を決めた。
計画性がないというより、天気の都合に合わせているだけだ。
幸いにもハイランドが晴れそうなので、数年前から狙っていた場所へ行くことにした。
第一日目(土曜日)はF261号からHungurfit(フングルフィット)ルートを使いF210号へ。このHungurfitルートを使うのが目的のひとつ。そして、F210号からHrafntinnusker(フラフティヌスケル)ルートを使い氷の洞窟へ行くこと。
こう書いても訳わからずだろうし、アイスランド人でもこういった道を理解する人はあまりいない。特殊な趣味の部類に入るので、訳がわからないままにしておいてください。記載するのは、私自身用のメモです。
F261号に関しては以前、以下のコラムで書いているので、ご参考にどうぞ。
F261を外れて、これから17キロのHungurfitルートを使い、F210へ抜ける。Hungurfitのようなこういったルートにも道路番号はあるとは思うけれど、一般的には浸透していない。Hungurfitというのは、山小屋の名前だ。味気ない番号よりも、山小屋の名前の方が地理的にもピンとくる人が多いのかもしれない。
Hungurfitの道はいきなり可愛らしい渓谷の川を何度も渡ることになる。どうやら大型車には難所のようだったけれど、我が家の小型ジープは楽々だった。
ここを抜けると、ひたすらローギアで山を登るコースに入る。とりあえずというか、南部のこの周辺の道路はすべて風光明媚だ。
近年よく「脳がバグる」という表現を見るけれど、その表現がぴったりな風景が続く。やたら続く。絵に書いたような風景が目の前にも、横にも、背後にも続いている。
ここは川を渡った時の波紋が美しかった。きっと日本では夏の残暑に喘いでいるのではと思う。台風も来るし。アイスランドの風光明媚な写真で、目だけでも涼んでもらえればと思う。
という道中の話を延々ともできるけれど、先を急ごう。17キロはあっという間で、確かに登り下りが急な箇所は多めだったけれど、特に問題はなく、道路の状況も悪くなかった。ここからF210に出て、次はまたDalakofinn(ダラコゥイン)という名前の山小屋の方角へ進む。
もしもこの投稿を読み、実際に行こうという人がいたなら、ぜひ十分に気をつけてほしい。道路状況を事前によく把握することと、地図を頭に叩き込んでおくか、紙に印刷しておく等、しっかりと勉強してから行ってほしい。そうでないと迷うと思う。標識がない分かれ道もあるからだ。
そして本格的にHrafntinnuskerという標高1000メートルのところにある山小屋への道を走る。
正直途中の道は険しかった。まずは川を渡ったのはいいけれど、タイヤの跡が消えていて、どこへ進んだらいいのかわからなくなり、再度川を渡って元の道にもどることが一度あった。対岸に戻って見回すと、あった!進むべき道路の一部が浸水により見えなくなっていて、私たちは主に逆方向を見ていたのと(きっと同じように迷った車がいて、タイヤの跡があったため)、太陽光の向きの関係で、本来の道の跡が向こう岸からは見えなくなっていたようだった。
無事に道を見つけて、はぁ〜と一息つきながら、順調に進んでいく。周辺の山はハゲ坊主というのだろうか、苔も生えていなくて地の色が剥き出しなのか、それとも土気色した苔の種類なのか?大きな景色を見て道を走っているだけではなく、植物のことももう少し知りたいと最近とても感じている。
夕方だったので、周囲が若干暗くなってきている。私は早いところキャンプ場かどこかに落ち着きたいと思っていたけれど、彼はせっかくここまで来たから、氷の洞窟へぜひとも行きたいということだった。
みどりの山、カラフルな山、山肌むきだしで石がゴロゴロしているだけの景色も味がある。小川の縁取りとして、蛍光色の藻か苔のようなものには、毎回目を奪われる。花も同じで、明るい色に心が躍る。そしてそのような景色でも、自然が作り出した造形には強く心を動かされる。
そうして分岐点までくることができた。アイスランドのハイランドにありがちとはいえ、手書きの簡素なものだった。もうひとつの道は、道路標識にも書いてあった、山小屋のHrafntinnuskerへと通じる。本当は少しその道も走りたかった。夕刻が迫り、油を売っていると、日が落ちる前にキャンプ場へ到着できない可能性があるので、諦めた。
Hrafntinnuskerへの道は夏場でも大型車でないと無理と言われている。小屋の手前の道がずっと氷だという。それがどの程度のものなのか、実際に見てみたかったのだ。
Íshellarの方向へ進むと、すぐに面白そうな色の場所が目に入ってきた。先を急いでいたけれど「止めて!」と短時間停車してもらった。ここも、温熱の蒸気が噴き出していた。
ここからがものすごい悪路で、たぶん我々が走ってきた未舗装道の中でも最悪だった。道路にはそこら中に太い溝があった。これは水が道路を削ったものもあれば、道がぬかるんでいる時に車が通り、道路をえぐっていった形跡もあった。車輪が大きな車であればあまり心配はないかもしれない。小型車のタイヤだと、溝に落ちた場合下手すると抜け出せなくなる。
厄介なのは、こういう場所は電波が届かず、助けを求める手段がない。交通量はあってなきようなものなので、車が通るのを待っているとーー死ぬ?!
運転上手のパートナーに恵まれているため、ここは彼に任せて乗り切った。2度ほど車の外に出て、通れそうなルートを見極めたことがあった。
そして到達した場所は、全く想像しなかった光景だった。第一、こんな場所に氷の洞窟なんてあるのか?というのが最初に思ったことだった。
え?いったいこれってどういうこと?
確かに氷の塊がある。塊に黒い年輪のようなものがあるということは、何度も噴火に晒されてきたという証拠だ。以前ここは氷河だったに違いない。なのになのに、目の前に温熱地帯があり、シューシューと蒸気が噴き出している。
もちろん、氷河の下に火山がある場所が存在することは知っているけれど、これほどわかりやすい形で温熱と氷が共存している場所は、この場所の他にあるのだろうか?
知識としては知っているけれど、目の前にそれをポンと出されると、どうにもすぐには理解が追いつかない。そしてここは標高900メートルの高地だ。周囲を見ると、道中にも見てきたけれど、地熱の蒸気があちこちに見える。改めて、改めて、本当に、なんじゃこの土地は?!
水源はなんとかなるような気がするから、温泉を作ろうと思えば作れそう!というのは不謹慎かな。環境破壊になるし、滅多に来られる場所ではないから、誰もやらないだろうけど。
有名観光地ではないので、大型バスは来ない。来られない。よほどの物好き(?)か、Hrafntinnuskerの山小屋に泊まった人であれば、割合簡単に歩いてこられるそうだ。それも氷の上を。
ここが異次元でなければどこが異次元なのか?そう思えるほど、不思議な光景だった。アイスランドの絶景はもう見慣れている。氷の洞窟も、撮影の仕事の同行などで何度も行っている。温熱地帯も、氷の塊も、パーツとしては見慣れている。けれど、いわば火と氷を同じ場所に見るのは初めてで、いまだに自分の中でよく消化しきれていない気がする。それだけ異質な組み合わせだった。
山小屋から歩いてきたというアメリカ人に会い、おすすめは?と尋ねられたので、ケルリンガルフョットルを紹介しておいた。実際に行くといいな。あそこも素晴らしいから。
洞窟は安定しているように見えていた。けれど、アイスランド人の彼からは「夏も終わりだし、何があってもおかしくないから奥へは行くな」と何度も言われた。もう少し奥まで行ってみたい気はしたけれど、彼の言いつけを守って入り口で少し写真を撮ってすぐに出てきた。
洞窟の前にある大きな氷の塊は、きっとこの夏崩落したものだろう。年々歳々、この洞窟は小さくなっているという。当然か。小さな塊も数多く落ちているので、足早に外に出た。
ちなみに、この洞窟用の駐車場にあった車はルビコン2台、私たちの後から来たランドクルーザー、そして我が家のジムニーだった。たぶんこたがジープでこの地へ来ることが可能なのは、この時期だけだと思う。その他の時期は、雪や川の水量が多くて危険だ。
同じ道を戻らず、HrafntinnuskerからF225(Landmannnaleið)側に出てきた。
予備のガソリンは持ってこなかった。けれど、近場のキャンプ地であればそこに宿泊し、明日の朝ハイランドから一番近いガソリンスタンドへ行けば十分なので、Landmannahellur近くのキャンプ場を使うことにした。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。