今年2024年は今回が最後なので、郊外の景色やクリスマス前のレイキャビクの様子などをランダムにお伝えしようと思う。
まずは12月の初旬、少しだけ晴れた久々の週末に近郊へ出てみた。
ここは7回目の噴火のあったスンドヌーカギーガルや、2021年から毎年のように噴火したFagradalsfjallとも近い。ここも温熱地帯で、地から蒸気があがっている場所もある。
きっと雪景色がきれいだろうということで足を伸ばした。距離的にはレイキャビクから手軽に行ける範囲ではあるけれど、途中からは未舗装道で四駆でしか行けない道になる。ケイリル(Keilir)という山のハイキング・コースの入り口へと続く道だ。
周囲は新雪が一面に降り積もり、黒い溶岩の上にホイップクリームをたっぷりと塗りつけたような、こっくりとした色をしていた。こういう景色はいつ見てもうっとりする。
風のない穏やかな日で、予想よりも雲は多かったけれど、早々と落ち始めたオレンジ色の光が雲に反射していたのも美しかった。どこを見ても清々して丹精だ。
そんな雪景色から一転して、緑の苔がまだ残る黒い大地から湯気が昇る場所がある。
周囲は雪一色なのに、この一帯だけ青みの残る苔と黒い土が見えている不思議な場所だ。大地からはシューシューと音をたてながら湯気が上る。近隣で噴火があったため、ここでの地熱活動が突然活発になったということではなく、以前からこの場所からはいつも湯気が出ていた。
この後、トルットラディンギャ(Trölladyngja)という渓谷の向かい側まで行ってみようとしたけれど、上り坂が雪深く、あと500メートルという手前で諦めて引き返した。こういう時は諦めが肝心!
静寂しかない郊外を離れ、街へ戻れば、毎年変わり映えのしない電飾がレイキャビクの中心街に張り巡らされている。毎年なぜこうも変わり映えがしないのかーーー。
写真ではわかりにくいが、右手上の壁のところに、13人のクリスマス・ピープルの一人が動画で映し出されている。市内・近郊のあちこちで、13人の誰かが活躍中。どこに誰が映し出されているかの一覧があってもいいものだが、まだ見つけ出せていない。
唯一、近年新たに登場したのが手伝いをしない悪い子を食べてしまう恐ろしいクリスマス・キャットだ。これは毎年数百万円をかけてレイキャビク市が設置している。
小高い丘の上に聳え立つハトグリムス教会もこの時期になると電飾がほどこされる。たまたま前を通った時は青みがかった紫色一色だった。この教会は自宅のバルコニーからも見え、時によってピンクだったり、マルチカラーだったりする。
今年の国会議事堂前の並木は派手だ。ありとあらゆる木に電球が取り付けられている。毎年思うのだが、こんなことをされて木は苦しくないのだろうか?LEDの光は生体にあまりよくないのではないか?そんなものを生きている木にまきつけ、24時間点灯し続けるのは木々に酷ではないのか?個人的にこれはやり過ぎだと思うし、決して美しいとも思えないのだが・・・。
並木のある同じ公園のベンチが新しくなっていた。ゆったりと寝っ転がれる長さがあり、ベンチの前の部分をよく見てほしい。なんと、足置きがある!日本に多い「意地悪ベンチ」とは逆を行く、「どうぞごゆっくりベンチ」だ。こうでなくちゃというベンチのお手本だ。
このコラムが公開される12月21日は、今年一番日照が短い日になる。つまりは冬至だ。日照時間4時間7分7秒だそうだ。日の出は朝というか昼の11時22分、日の入りは15時29分になる。太陽が昇るといっても地平線の少し上を這っていく程度なので、暗くて気が滅入るようになる。
アイスランドに移って最初の数年はそんな暗い冬も楽しめたが、5年を過ぎた頃から徐々に闇が多い日々が嫌になってきた。実際、鬱になる人も多いと聞く。
街の電飾はそんな季節を少しでも明るくという、せめてもの願いなのではとも感じる。
ずっとあまりに街中に出ていなかったので、新しい店がいくつか目についた。その一つは、ダウンタウンの私がスケボー広場と呼ぶインゴゥルフストルグ(Ingólfstorg)に面した場所に店舗のあるジェラート屋のガエタ(Gaeta)が、メインストリートであるロイガヴェーグル(Laugavegur)にも店を出していた!ここのジェラートはピカイチ美味しい。
それから、10人も入れなかった極小店舗で頑張ってきたラーメン・モモ(Ramen Momo)もこの通り沿いに出店した。彼が行こうというので、入ってみた。
値上がりが厳しくラーメン一杯が3500円以上。日本のラーメンを知る私には涙の価格だ。それでも彼が食べたいというので、お付き合いだと思いオーダーした。ラーメンなのか担々麺なのか分からないし、スープにシナモンが入っているなど私には言語道断。しかしここは外国だ。日本ではないので、言いたいことだらけなのをグっと飲み込み、一番安全そうなロブスター・ミソをいただいた。
スープというよりソースに近い濃さである上、麺の周囲がヌルヌルしていて、ズズズとススりにくい。全般の味は悪くないし、特にすり身とエビがまざったような具は結構美味しかった。温度もそれなりにアツアツで(外国のラーメンはスープの温かさでガッツリ熱くない場合も多い)、値段を考えなければまぁ満足。
この店のおすすめ度はといえば、外国のラーメンとはどんなもんか?という好奇心のある人向け。もっともラーメンに限らず、スシでもテンプラでも外国のそれは日本のそれとは違うため、それが前提でないと何も食べられない。逆に言えば、その差を楽しめるのであれば、日本では食べられない種類のラーメンがここにある。
街中には土産物屋がまたまた増えていた。個性的な芸術志向の高級な感じの品揃えの店もあれば、安い人件費の海外で大量生産しましたという物品が中心の店もある。後者の店は大抵、大きなパフィンのぬいぐるみが置いてある。通称パフィン・ショップと呼ばれる。前者の値段は高くて当たり前、後者とて決して安くない。
12月に私が楽しみにしているのはクリスマス自体ではなく、クリスマス市だ。週末になるとあちこちでマーケットが開かれる。手作りの品なども悪くないし、アイスランドは移民が15%以上を占める国でもあるため、移民が出身地からの名産品を輸入販売していることも多く、意外にも国際色が豊かで楽しい。
そんな中、毎年必ず行くのがハルパ・コンベンションセンターで行われるフード・マーケットだ。アイスランド最大級の食材市だ。
この食材市には、地方の農場や漁師などからの物産もあり、この時期だけのお楽しみの味も多い。我が家では天然の鱒の燻製、鴨のパテ、海鳥のマリネなどを仕入れた。
12月の半ば、彼の時短休暇日の天気がよかったので、近隣をまたドライブした。日の出は朝といっても昼間の11時半。月も同時に見えていたのが美しかった。
この画面では写真の月が見えないので、下の枠内をクリックして直接Twitterで見てほしい。昼間の月が見事だ。ちなみに元気な馬は通年外に出されている。
さてさて、ひとつ大切なことを最後に。各国の大使やアイスランド国民にとても愛された日本の鈴木大使がアイスランドを離任された。鈴木大使は政治経済のみならず、積極的に現地の文化人ともお付き合いいただき、私の周囲でも大変に評判がよかった。アイスランドにおける邦人を代表する日本の顔なので、次も文化フレンドリーな大使でありますように。
今回は雑多なことを詰め込んでみた。12月のアイスランドの雰囲気が少しでも伝わっていますように。
2024年も「こちらアイスランド」をご愛読いただきありがとうございました。
今年3月にこのコラムが4年目を迎えたところで執筆回数を週一から月二回にしたところ、驚くほど時間の余裕ができた。毎週書いていた時は、水曜日になると土曜日のコラムをどうしようかとソワソワし始めて、四六時中心が落ち着かなかったので、このペースの方が落ち着ける時間があってありがたい。
変わりばえのしない内容ですが、来年も引き続きご愛読いただければうれしいです。みなさま、どうぞよき新年をお迎えください。2025年は日本の政治が少しでもマトモになりますように!
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。