2025年3月20日をもって当コラム「こちらアイスランド」は連載5年目を迎える。そしてあと二ヶ月もすれば200回記念となる。
こう書くと、日本人は何かにつけて祭り事にするんだなぁと思う。だって、取り立てて何も言わなければ、誰も気づかずに通り過ぎる単なる時間の経過にすぎないのだから。
それでも、5年目も200回も素直に嬉しい。
人生60年以上生きてくると、5年目(=実働4年間)なんていうのは、それほど長い時期ではない。生きてきた年月の20分の一にも満たないからだ。
5年目は当コラムのことだけではない。鮫島氏が朝日新聞を辞めて独自メディアの「Samejima Times」を立ち上げた歴史と変わりない。
私もよくぞ続けてきたと思うけど、鮫島さんもSNSやこのサイトを足がかりにYoutubeへの進出も果たした。第一の大きな関門とされている10万人のチャンネル登録者を突破し、現在15万人に迫ろうとしている。
「これからはYoutubeだ!」
ということはかなり前からいろいろな人が言っていたし、かくいう私もアイスランドに拠点を移した当初、それをトライしたことがあった。知られざるアイスランドの側面を日本人の目線で紹介したい、と。
そういった企画は今でもいろいろと脳内にはあるけれど、動画は撮ることはできても編集が大変だ。私のYoutubeの試みはほどなく挫折した。
それに私はやっぱり書くことが好きなのだ。書くことは苦にならない。話題が見つからず四苦八苦することはあっても、題材を見つければ書くのは早い。
そんなことを思いながら去年のコラムを振り返ると、4年目突入の時は日本での雑記と共にこんなことを書いていた。
要するに、日本に戻っても自分の居場所がいまいち無い、という話だ。(5年目突入から、突然話を逸らせてスンマセン)
去年の年末に父がなくなり、私はとうとう片親になった。とうとうというか、今年で私は年金生活者の仲間入りをする。そこまで両親が揃っていたことが奇跡だった。
父が亡くなり、足腰が悪い母は2階へ行けない。「あなたの好きなようにして」と母から言われた。が、しかし、が、なのだ。
ここは母の家だし、母にはいろいろと考えがある。私が父の洋服ダンスを処分したいと言うと、「家具を買い替える時に下取りしてもらいなさい」と言ってくる。いや、私は洋服ダンスを買う予定がない。買う予定なのは事務机用の椅子程度だ。あとは使い勝手を見ながら買い増したいし、家具はすでに十分あるので増やしたくない。
私が不用品と識別するものを階下に持っていく度に、「これはまだ使えるから取っておいて」と言われては、整理することはできないーーーという事態になるのは、十分に想像ができた。
大まかなところは私がくる前に整理されていても、家具やら小さなものは残っている。母が「とりあえず」と2階に押し込んだ物品も半分は整理したが、半分は残っている。
私には無用の品物でも、母なりの考えがありとっておいたものが多い。それをいきなり全部は処分できない。「同じようなものが5組あるから、3組は整理させて!」という感じで少なくすることはできるが、全て消滅させるまでには至らない。
そんなドタバタもやりつつ、自宅からある程度洋服は実家に移動したので、人に会う際に着るものには困らなくなった。けれど、まだまだ「自分の居場所」にはほど遠いーーーという所感は贅沢だろうか。
母は足腰が弱りながらも、まだがんばってこの家で暮らしたいという。気持ちはわかる。
公共の支援を使い、自費でも細々としたサービスをお願いして何とか日々を維持している。
「老後って、自分の身体が動かなくなるから人様の手を借りなければならなくなる。結構お金がかかるわよ」と母は言う。母の生活を見ていると、確かにそうだと思わざるを得ない。
ちなみに、このコラムが掲載される3月15日に母は91歳になる。母は一人娘である私の心の支えに、できる限り長くなり続けようとしてくれている。頭脳もいいし滑舌もしっかりしてるけど、足腰は弱り歩行が辛くなってきた。手にもしっかりと力が入らなくなってきて、確かに鍋底の端の方がきれいに洗えていないことが多くなってきた。
そんなヨボヨボした老婆ではあるけれど、彼女の中には生活者としての叡智がびっしりと詰まっている。日々暮らす生活態度はしっかりとした芯が通っている。
戦争を体験した人の多くが、そういった信念に基づいた生活をしているような気がする。一度、それは書き連ねても悪くないだろうとも思っている。
コラム5年目突入が明後日の話題になっていったけれど、こんな感じで引き続き、勝手気ままに日常の雑感やらアイスランドのことを書いていきますね。本体の政治コラムと併せて、引き続きどうぞよろしく。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。
