世界のハイカーが憧れるアイスランドのハイキング・トレイルといえばロイガヴェーグル(Laugavegur)。首都レイキャビクのメイン・ストリート名も同じ名前なので混同しないよう。
ロイガハイキング・ルートで、そこには文字通り山あり谷あり、川あり、温泉ありで、非常に美しい景色を楽しみながら歩くことができるーーー天候がよければ!
前回、同じ場所の温泉の話を書いたばかりだ。その二週間後に別の山岳道ルートがオープンしたため、懲りもせず(?)また行ってきました。そして今回の目的はハイキング!
やっとハイキングだお〜!!

ランドマンナロイガル、何度訪れたのだろう?アイスランドへの拠点移動前に一度。その後は温泉目的が主ではあったけれど、単純に場所を見に来たり、近くを通ったついでに寄ったりと、たぶんなんだかんだで結構な回数を訪れている。
そして毎回来る度に、「いつか時間を作ってハイキングをしよう。近隣ぐるり一周コースならたぶん大したことがない」と彼が宣っていた。
「こちらアイスランド」の愛読者はもうお分かりだと思うが、彼の言うことを信じてはいけない。彼の言葉はそうだといいなと思います!という希望的憶測でしかない。根拠ゼロの発言だとだと思わないと痛い目にあう。痛い目にあった例として去年これがあった。
彼の言うことを鵜呑みにして痛い目に何度もあっているので(私が甘い!)、最近は用心して念をおす。念を押しても推測で物事を返す傾向にあるため、その根拠を出せと迫る。そうすると「大丈夫だよ」と返ってくる。何が大丈夫なんだ?私は根拠を出してほしいと言ってるのに、答えは「大丈夫」って意味が通じない!
これまでいつも大丈夫ではなかったから、念を押してるんだけど・・・。
さて、ここからが今回のご報告。その前に前回のランドマンナロイガル訪問のおさらいも置いておきますね。
2025年6月14日、天気は良好、風もない。絶好のハイキング日和だ。
・・・と書いていくと、いかにもここでのハイキングが初めてのようだけれど、実はこれが2回目だ。1回目は山登りをさせられて全くいい思い出がない。調べたところ2023年7月3日だった。
これもちょっとだけ騙された感のある話で、ランドマンナロイガルへハイキングへ行こうと言うので気軽にオッケーしたのはいいけれど、行き先がどうも私が思っていた場所ではない。
「まずは全貌を見ようじゃないか」と体のいい理屈をつけられた。私は全然乗り気じゃないぞ。そして例によって「簡単だよ」とも付け加えられた。
私は高所恐怖症ではないが、鬼のように安全第一主義だ。ここは異国で言葉が通じない。まともな病院は国立病院だけだし、そこは地元人さえなかなか予約が取れず、命にかかわらない物事は後回しにされる。こんなところで怪我はしたくない。なので自然相手の物事は、考えうる限りの攻防をとる。
その一番の防御策はハイキングへ出ない、である。そんなのはつまらないので、もちろん行くけれど、危ないことはしないし、不安なら足を踏み入れない。

でもまぁ、何というか、いつもの調子で押されて、やだヤダと思いながらもある程度まではついて行ったのが1回目のハイキング=山登りだった。うー、怖かった。高さが怖いのではなく、足元が滑るのが恐怖なのだ。景色は確かに良かったけれど、写真を見返すまで景色を思い出せないほど、道中が嫌だった。分かっていながら付き合ってあげた私はやさしい。本当に心やさしい!
「次はヘリコプターで向こうの頂上まで連れて行ってくれたら付き合う」が感想だった。ちょこっと騙されて連れて行かれたことを、ちーとばかり恨んでる。ブツブツ、ブツブツ。
今度こそ、そのようなことはない。はず。

初っ端から考えが甘かった。水が全て引いているとは思わなかったけれど、これほど残っているとも思わなかった。ウォーターシューズは持ち歩いてるので問題はないけれど、タイトなスパッツを履いてたので、スカートの時ほど楽ちんではなかった。

まず通るのは温泉の源泉パイプの場所なので、通年暖かい場所であるため、植物も少し特殊な感じだ。そこを通り抜けると、すぐ目の前に雪道を少し進まなくてはならないことがわかる。二週間前は雪道が閉鎖され、手前の崖から登っていくコースを強制的に進まされた。


道中、ほとんど雪は残っていなかったけれど(ゼロではなかった)、雪解けでぬかるんでいる場所はあり、アイスランドでの季節は夏の括りとはいえ実質的には春でしかない。


ロイがヴェーグルからのハイキング、トレッキングにはいくつかのルートがあり色分けされている。「私たちはどの色のルートなの?」と彼に尋ねたが、「大丈夫だよ」が返事だった。も〜〜!!
いや、私が事前に調べておけばいいって話なんだけど、毎回ミステリーツアーのように、走り出してから行き先を決めることが多いので、到着するまで分からなかったりする。今回は彼が前日からハイキングしようか?と言ってたので、当然調べてると思っていた私がまたもや甘かった!
人通りは多いし、迷ったらすぐに分かりそうなコースなので、まぁいいやということで歩き続けた。よく整備されていて歩きやすく、小さい子供でも全然問題なし!という感じだった。

カラフルな山に囲まれながら、溶岩大地を抜けていく。難しいコースでは全くなくて、楽しく歩いていける。あちこちの山の形や、山のてっぺんの方にあるゴツゴツした形も面白い。路傍の石は鋭いナイフでスパっと切れたかのように表面がツヤツヤでピカピカだったりと、地学の知識があればもっと面白かったのだろうと思いながら歩いた。



途中、何箇所かにしたの写真のような標識を見た。私が来たのはランドマンナロイガルからだから、ここまで1.5キロなのか。ほぼ平坦な道なので、写真を撮りながら、周囲を眺めながら、なーんてことなく歩いてしまった。

フラフティヌスケール(Hrafntinnusker)はここから10キロ!去年行った氷と温泉が同居してるあの不思議な場所のことだ!
この氷の洞窟は確かキャンプ場から2キロ程度の場所ではなかっただろうか。へ〜〜、ここからそこへつながってるんだーーーと、ハイキング素人の私は思ったが、ロイガヴェーグルのトレッキングに憧れるハイカーであれば、当然知っているべき情報のようにも思えた。ロイがヴェーグルの次に来るキャンプ場がフラフティヌスケールなのだから。
私が歩いた場所は「さわり」にすぎないとはいえ、なるほど、確かに風光明媚、絶景続きのコースであろうし、55キロを3日間くらいなら私でも歩けそうな気がする。
けれどここはアイスランドだ。天気は変わりやすいし、風がなければ快適に進めるけれど、これで風や雨があったら私は泣く。歩きたくなくなる(贅沢!)。
先へ進もう。



歩くにつれ周囲の景色が刻々と変化していく。ノホホンとそれだけを見て歩けるわけではなく、基本的には足元絶対注意だ。石が多いので躓くとすぐに怪我や骨折につながる。特に年金世代の私は転ぶのは禁物だ。
見晴らしポイントの近くの山から白い湯気が見えている。ここらへんが温熱が一番地上に近い場所らしい。温熱地帯らしい景色が見られたし、硫黄の匂いも周囲に充満している。

このルートは本当によく整備されている。整備されすぎてワイルド感に欠けるともいえる。けれど、安全重視、自然保護重視にしないと荒らされていくばかりなので、これは全てにおいてメリットがあることだと理解した。
この辺からまた岩ゴツゴツ地域に入り、ランドマンナロイガルのセンターへ戻っていく。この近所のどこかで道が分かれて、本格的なロイガヴェーグルに繰り出したり、他のコースへも進むことができた。私たちは軽装備だし、私はこのお手軽ぐるりコースの予定なので、最短距離で帰ることができればオッケーだ。

最短距離と書いたけど、実際はごく小さな寄り道をあちこちでした。夏の間は通れるようだけど、まだ雪が残ってるからNGっぽい場所までの支線がいくつかある気配だった。
それにしても本当に天気のいい日だった。この写真でその空気感が伝わるだろうか。たぶん日本は猛暑で茹っているところかと思う。アイスランドの夏は日本の春のような気候で、風がなければ歩いていると汗ばんでくる。あぁ、気持ちがいい。語彙なんてなくていい。この気持ちよさを毛穴いっぱい感じて帰りたい。

気持ちよく歩いたハイキングコースもそろそろ終わりとなる。山登りをした時、下の川沿いを見ると人がよく通ってた。きっとそこらへんを歩いているのだろうと思いながら川沿いの土を踏み締めた。

下の写真が向かい側の山の上から見下ろした時のものだ。きっと上の写真の私は、山の上からよく見えているに違いない。
山に連れて行かれたのは嬉しくはないけど、こうしてちょっとした語りのネタにはなったのかと思うと、まぁいっかぁ〜。いや、それよりも、上からも下からも両方のハイキングを体験できたことは、ハイキング愛好者にとってはとても羨ましいことなのかもしれない。
山からの写真を見ると改めていい場所を歩けたものだと少し感激。

歩いていた川の対岸の山は緑に見えていると思う。実際に緑というか緑青(ろくしょう)で、光線の具合や雨に濡れているか等により濃淡は異なる。日本では緑色の山(森林は別として)は見たことがなく、こういう色が山から剥き出しに見えているのがとても不思議な気がした。

短い距離ではあるけれど、山の上から見下ろす写真と、地上から見上げた写真の両方があって興味深い。


そうして川の横を抜けて平野部に戻っていった。今更だけど調べたところ、このルートはランドマンナロイガル・サークル・トレールと呼ばれ、約5キロの道のりとのこと。ゲ、5キロもあったんだ。寄り道をして5-6キロかと思っていたので、結局7キロ以上歩いていたかもしれない。
高低差は少ないとはいえ、上り坂、下り坂が皆無ではない。雪の中も数度歩いた。日帰りのお手軽、お気軽コースではあるけれど、やっぱりそれなりの体力は必要なのかな。って、私、意外にも健脚ですよね。普段は家の中でパソコンに向かってじ〜っとしてるだけなんだけど。

絶景も見慣れてしまうと普通の景色にしか見えなくなってくる。それでもレイキャビクに戻って写真を見ると、あぁここはやっぱり類稀なる秘宝の真珠なのだと改めて目の裏の景色を追う。
スタート地点の写真と、この平野部で撮った写真の時間を見ると4時間強をかけてこのコースを歩いたようだった。やった、制覇した!というほどの距離でもないけど、普通に嬉しかった。
途中、岩の上に腰を下ろしコーヒーとクッキーのティータイムもしたし、短い寄り道もあちこちした。4時間はあっという間だったし、楽しいお散歩だった。
この日は夜8時からハルパでのコンサートに行きたかったので、急いでレイキャビクへ戻った。普段なら、景色を見ながら少しゆっくりめに運転をするところを、今日ばかりは一目散にレイキャビクへ。コンサートの後、例の「宇宙一美味しいホットドッグ屋」で夕食として食べたホットドッグが、結構美味しくてマジに宇宙一でいいかと思った(笑)。
翌日、特に筋肉痛はなかったものの疲れて随分と寝坊をした。翌々日も朝寝坊だった。この日の疲れは随分と尾を引いて、結局一週間近く「身体がだるーい」とため息をついていたかと思う。
「はぁ、歳には勝てないわぁ」なとど言ってはいけないんだけど、言葉にせずとも身体の回復の鈍さがそれを如実に語っていた。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
