政治を斬る!

こちらアイスランド(180)青い水とトロール岩が美しい東アイスランドの秘境Stórurð(ストゥルウルズ)新たな観光名所になるのか?〜小倉悠加

今年も夏休みがやってきた。

今年は天候不順なのかパっとしない天気が続いている。それでも「夏」を感じたく、夏の天気を求めてにわかじたてで北部へ移動。7月半ばから10日間ほど北東部で過ごした。

幸い、2-3日は20度越えを数時間体験することができた。アイスランドの夏の気温はそんなもの・・・。アイスランドの夏は気温ではなく日照の長さだとはいえ、もう少しなんとか気温が上がらないものかと思うのは、贅沢だろうか。

毎年ほぼ無計画で家を出てアイスランドを一周する。無計画は「ほぼ」なので、ところどころはどこに泊まるか決めていた。それが今年は全くの無計画。マジそれやる?というくらい無計画で、彼からの指示は

「最短で5日間、最長10日くらいになるから、そのつもりで荷造りを!」ということ。

事前にぴっしり計画をするのが好きな日本人気質が私にはまだあるため、こういうのはあまり好きではない。けれど、天気のいい場所へ移動したい気持ちは同じなので、太陽が顔を見せる場所に移動!という意味で理解した。

という具合に比較的天候のいい北部で数日間をキャンプで過ごし、彼の親友がいる東部へ移動した。

その間、走りたかったF道(山岳道)がことごとく閉鎖されたままで、時間を潰すのに少しばかり難儀した。今年は時期はずれにドカ雪が降ったため、F道のオープンが遅れている場所が多かった。

北東部にいる間、ジープ道を新たにいくつか開拓。来年走るぞ!という場所ができたのでうれしい。

そして、2年前に計画したものの、天候不良で行けなかった場所へ今年は行ってきた。2年前の出来事は以下に投稿した通りだ。

今年は天候がまずまずだったので、出向いてきた。

前述のコラムにも書いたが、Stórurð(ストゥルウルズ)は東アイスランドの高地の秘境で、そこには数々の巨石と美しい青い水を讃える場所があるという。アイスランドは秘境の宝庫で、秘境でない場所があるのか?というほど、リーチしにくい場所が多い。

観光地なのに秘境と呼ぶのはどうなのか?とは思うが、そこはまぁ雰囲気というか、ご愛嬌ということで。未だに隠れ家レストランがなぜ宣伝するのか理解できないので、同じことですね、きっと。

どうも私は人を信じてしまっていけない。アイスランド人なのだから、地元なのだから、やっていることを理解しているだろうと思うのだが、それが間違いのもとになる。ちゅーことは理解しているのに、またやってしまった。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

その日、私たちは遅い朝食を食べ、ハイキングへと向かった。2年前に一度計画した場所だ。ここ数年話題になっている場所だ。ハイキングを開始できるパーキングはいくつかあり、私たちは一番標高が高いところに駐車をした。

先日この近くを通った時、駐車場は満杯だった。今回は、標高が一段低いところの駐車場が満杯で、私たちが目指した場所は先着の車が一台しかいなかった。ラッキー?!

ハイキングルートの説明。人気が高いのは3ルートに絞られる

人気の高いルート「らしい」ということで選んだという。往復同じ道でもいいが、せっかくなので復路は別ルートを選んだという。選んだからには、あれこれを考慮したのだろう。

出発は13時ちょうどとなった。

まずは上り坂が待っていた。後から知ったことだが60メートルの上り坂で、この景色を見るためだった。

「初っ端から最高だね!素晴らしい見晴らしじゃないか!」と友人氏はご機嫌だ。

確かに見晴らしはいいし素敵だけれど、

「この程度なら適当にどこかのF道を走ればいいだけだよね」とばかり、夫と私は無言で顔を見合わせた。

北部3日間のキャンプ生活中にあちこちを走り、既に目が絶景慣れしていた。これなら苦せずして車で走り、適当に駐車して眺めればいい程度だ。

そしてこの小高い山を降りていったーーー登る必要がなかったってことじゃん!

友人氏はご機嫌だ。「えがった、目の保養になった」とばかりルンルンしている(ルンルンは死語か?!)。

夫も私も連日のキャンプで疲れ気味だ。無駄な工程は避けたい。そして険しいとも険しくないとも言えないような道を延々と歩いていった。岩がゴロゴロしているところもあれば、結構歩きやすくなっている場所もある。アイスランドのハイキングにありがちなコースだ。

そして、雪が残りオープンしていないF道があることからも分かるように、ハイキングルートにも雪が残っていた。

幸いなことに、半分溶けてズブズブと足が入り込むような雪ではなかった。雪の下が土地であればいいのだが、時に雪の下は小川の流れだったりする。なので、勢いよく足を雪に突きつけ、底が抜けると怖い思いをする。雪の下の様子がわからないため、雪を打ち抜かないよう気をつけて歩いていった。

そんな場所を小一時間ほど歩いただろうか、結構行けども行けども目的地には届かない。

「あのさ、このハイキングって全行程どの程度見込んでるの?」と遅まきながら尋ねた。

「ルートの看板を見なかったの?片道7.5キロだよ。復路はもっと短いはず」と。

え?!そんなに長い道のりなのか。往復で5-6キロだと思ってたがな〜〜。

「ということは往復で10キロ以上が確定?行った先でも歩くだろうから、15キロ弱ってこと?!」

このハイキングを甘く見ていたことがわかり、衝撃が走った。ゲ〜〜。でもここまで来ては戻れない。去年も噴火でいきなり20キロ歩かされたし、まぁこなせないことはないのだろう。

それにしても私、健脚じゃないか。60代半ばにして、いきなり15キロだの20キロ歩けと言われて、ブースカと文句を垂れながらも毎回こなす。普段の運動不足を補うというか、いきないそういうの普通やらないよね?!

ふと目線を上げると、とても素敵な光景が広がっていた。「門」と言われるDyrfjöll(ディルフョットル)が視界に現れていた。ディルフョットル山の尾根がポコンと空いた部分があり、その峠は「門」と呼ばれ親しまれている。

確かにこの門をこれほど間近に見たことはなかった。なかなかいいもんだ。けど、この道のり、長いわぁ。

ハイキングは嫌いではないけれど、私は足元にものすごく注意を払う。転びたくないからだ。もちろん誰だって転びたくないだろう。これが日本ならば、もう少し油断すると思う。日本人で日本の保険もきくし、言葉も普通に通じる。

ここはアイスランドだ。基本的にアイスランド語の国だ。英語はどこでも通じるとはいえ、英語は話の母国語ではない。何かあった際、英語で状況を冷静に話せるとはとても思えない。日本語の通じない場所での医療は絶対に嫌だ。注意すれば怪我は回避できる。だから、道路が凍っている時は徒歩で外に出ないようにするし、出歩く時は極力へっぴり越しで転んでもすぐに対処できるようにしている。

一言で言えば、臆病なのだろう。

なので、足元が悪いアイスランドのハイキングは、足元しか見ていない。意識的に目線を上げないと、外の風景が目に入ってこないのだ。風景を楽しみたいけれど、怪我はしたくない。用心深すぎるのかもしれないが、それでいい。

百里の道も一歩からで、とりあえず右脚の次に左脚を出し続けて行ったら到着した。ふ〜〜〜。なんだかゴロゴロとした面白い感じの石がたくさんある。トロール団地か?

背後を振り向くと、雪の上をアリンコのように人が歩いている。ふっへー、よく歩いてきたわ。下はいいけど、登るの辛そう、と根性がないことを丸出しにに考えた。でも、来ちゃったからには戻るんだろうな。誰が?ってお前だろうという、面白くないツッコミを自分の心の中で入れていた。

地理的にいかに素晴らしい場所かをご説明できず失礼します。

到着したすぐそこには案内板があり、「こうやってグルリと回ってくださいね」的な案内になっていた。現代の物事にありがちなのか、この角度から撮るとインスタ映えがするというマークやハッシュタグまで記載があった。

ここに到着してお終いじゃなくて、更にグルリと歩け、かよ・・・。

「もうここで十分。あなた達はぐるっとしてきて。私はここで待ってるから大丈夫」と言うと、

「ここまで来たのだし、たいした距離じゃなさそうだよ。いっしょに行こうよ」と、ヤダヤダ期の子供を宥めるように言われた。

そだね、たぶんこの道をもう一度歩こうとは思わないだろうから、行っておくわと、意思の弱さを見せた。

たぶんそれほどの距離ではなさそうだけど、これがまたキツかった。

だってぇ、順路の標識が雪に埋もれてわからず、仕方がないから足跡さえない雪の上を歩いていった。雪の上とはいえ、その下に水があることはわかりきっている。足を打ち抜いたら終わりだ。男性陣よ、先に行ってね。私は後からソロソロついていくから。

ルートは雪だけではなく、やたら細くて崖みたいな場所や、地滑りしてドイツ人の若い男の子がひっくり返ってた場所を通ったり、全く一筋縄にはいかなかった。強面の犬を連れた若いカップルが引き返してきたからどうしたのかと思ったら、飛び石を使い急流を渡る必要があり、犬がパニックになるのを恐れたそう。なんともーーー。

そんなこんなで、ゆっくりと座ることもできず、休憩といっても5分10分あったかなかったかという感じ。このお年頃には辛い行幸だった。というか、まだ半分残っているので、「だった」と過去形にすることもできずで、本当に帰れるんだか?と心配したことはいうまでもない。

復路は往路よりも・・・楽だということはなかった。

なにせ疲れが既に溜まっている、その上、復路はやたら川渡りが多い!風光明媚ではあるし、基本的に下りなので登る力はいらないけれど、注意散漫は怪我のもとなので気が抜けない。

下りはお決まりの石ゴロゴロの急斜面やら羊の上に見えている小川のような流れが多く、飛び石を使って渡れたとしても、優雅に歩ける訳がなく、結局は飛び石を使って飛び越える感じだった。ところによっては写真のように雪が残る場所も。さすがこの流れに残る雪は上を歩くと足が抜けてしまいそうだ。当然下を通っていった。

路傍の小さな可愛らしい花や、のんびりと草をはむ羊に癒されながらピリリとしてきた空気の東アイスランドを歩いた。やたら疲れて最後の方はテキトーに即興歌をバカっぽく歌いながら歩いた。

当初、往復5時間程度とアイスランド人男性に見積もられていたハイキングは、7時間を要した。

朝昼兼用を食べて以来、彼が持ってきた少量のおやつ以外、エネルギー源がなかったのも痛かった。彼はバックパックをもってきていて、水一本(途中で水は調達できた)と個別包装の大きめのクッキー一枚、板チョコ半分しか持っていなかった。7時間の長丁場だと分かっていれば、もっと持ってきていたと思う。第一、朝食だと思っていたので手加減して食べたので、たぶん私は圧倒的にエネルギー不足だったと思う。

歩き始めた当初から、あまり足が動かなかった。これまでのキャンプ疲れもあるとはいえ、こりゃまずいなとも思ったので、ハイキング当日は予定を確かめて、しっかり食べようと反省。でも、アイスランド人、いい加減だし、自分たちが大丈夫だから、自分たちの尺度でしか物事を推し量れない。

私がなんと言おうと、「大丈夫、大丈夫」としか言わないし、結局私も最後までついていくから、「ほら、大丈夫だっただろう」と軽く言われてしまう。うーん、結果オーライには違いないんだけど、中身が違うんだけどなぁ。というのは、日本人的なひどく些細なことを気にする何かなのだろうか。または私個人の特性?

そして例に漏れずアイスランド人男性組は下調べをしていかなかった!

このぐるりと一周っぽいコース、アイスランド人男性2名にもキツかったらしく、「もっと楽なルートはあったのだろうか?」と話し始めた。

え?お前ら事前に調べてなかったのか!と、私が調べ始めた。というか、最初にあった看板をきちんと読めば分かったことなのだがーーー。

私たちが辿った往路はVatnsskarðと名付けられた道のりで、7.5キロ所要時間2.5時間となっている。「もっとも距離が長く起伏が激しく風光明媚。人気の3コースの中で最もハードである」とされている。風光明媚はいいけど、もっとも長距離でハードというのはいただけない(涙)。

復路はNjarðvíkと名付けられたルートで4.5キロ。所要時間2時間とされている。ここを復路として下ってきたので助かったけれど、往路として登りでやっていたら、相当キツかったと思う。飛び超える川も20ヶ所近くあったのではないだろうか。

ということは、ギャ〜、一番大変なコースを選んで歩いたようだった。知らぬが仏だ。

ここまで真面目にお読みくださったみなさんは、あれ?往路と復路が別で、もしや駐車場も別の場所では?と思った人は鋭いです。

このルートの取り方は同じ駐車場に戻ってこない。誰かがオリジナルの駐車場まで戻って車を持ってくることになる(私は早々に「私は歩き終えた駐車場で待っているので、誰か車は持ってきてちょ」と宣言してあった)。

ちなみに一番簡単なのは片道7.1キロのVatnsskarðsvegurコースで、ここはほぼ平坦に行って帰ってこられるという。

「なんでそれを選ばなかったんだろう・・・。事前に調べておけばよかった」と夫は宣ったが、事前に調べても地図を持ってこなかったとか、絶対に間抜けをやる人たちなので、私が調べない限りダメなことはわかってる。

それじゃなぜ私は事前に調べなかったのか?知ると「疲れそう、やだ、メンドイ」と、本当に行かないことになるので、これまた知らぬが仏であることを知っていたのです。

そうして、21時オーダーストップ5分前に私たちはレストランに滑り込んだ。男性はハンバーガー、私は魚が食べたかったので北極イワナ。

この魚の大きさとポテトの量を見て、夫は私が残すだろうと思っていたらしい。私自身そう思っていた。けれど、なにせ15キロ近くの簡単ではない道を歩き続けたのだ。食欲がない訳がない。ペロリときれいに完食した。

お腹が満たされたところで、再度よく考えてみた。

往復合計4.5時間と言われるコースを7時間かけた。往復は単純に行って帰ってくる時間であり、Stórurð内の見学時間は入っていない。Stórurð内は非常に歩きにくく、思ったよりも時間がかかった。それに加えて休息も必要だ。

20代の若者ならまだしも、我々は還暦を超えた立派なお年頃だ。いろいろな条件を考えると悪いペースではなかったような気がする。

Stórurðは素晴らしかった。けれど、あれだけ苦労して2度行く場所かといえば、疑問だという結論にもなった。特に、一番風光明媚と言われるルートを両方歩いたので、見るべきものは全部見た感が強い。それでも、条件が合えば、次は一番簡単なコースなら歩くかもしれないとも思っている。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。