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こちらアイスランド(87)鮮やかな色と愛らしいしぐさ。人気者のパフィンはここで見よう!〜小倉悠加

アイスランドの国鳥でもないのに、やたら人気があるのがパフィン(ツノメドリ)だ。

パフィンは見た目が華やかで、鮮やかな鳥だ。嘴(くちばし)の部分がオレンジとイエローの、くっきり目立つ色に加えて、身体は白黒のパンダ色。胴体がずんぐりむっくりで、素早くかっこよく飛び立てないところが幼児っぽく、愛らしく思わずにいられない。

今回はそんなパフィン子をご紹介したい。

毎年、彼の夏休みにはアイスランド一周に出る。今年もそれを目指して出発したし、二週間近くレイキャビクを離れてはいた。けれど、天候が悪く訪れるのを諦めた場所が多々あった(くやしぃ〜)。

7月下旬のその日も、別の場所へ行く予定だった。往復9キロのハイキングで、Stórurð(ストゥルウルヅ)という場所を目指す予定だった。それも彼のお友達を含めて4人で。

アイスランドの観光地には流行があり、その地が国際的に有名になることもあれば、地元人の間にしか知られないこともある。私たちも時流に乗り、一昨年はあのStuðlagil(ストゥヅラギル)へ出向いたし、Þakgil(サクギル)へも行った。

東アイスランドの高地Stórurðは、氷河があった名残で周囲は険しく切り立つ岩石に囲まれ、そこにオアシスのように美しい水をたたえる湖があるそうだ。うーむ、そそられる。標高400メートル以上の場所にあり、途中までは車で行けるので、少しばかり標高差をそれで消化できる。

私は特にハイキングが好きという訳ではないため、標高差と距離を考えると正直乗り気ではないし、日頃の運動不足を考えると手強そうだ。「足手まといになるだけでは?」と彼に行きたくないという意志は示したが、「話題の場所だよ〜」とそそのかされ、無理なら途中で戻ればいいかと出発した。

その日の天候はまずまずのはずが、現地へ行くと濃霧。霧の中を進んでも道中迷う可能性も高いためNGだ。少し待てば霧は去るか?と一縷の望みをかけて近隣で待機することにした。そこが東アイスランドのパフィンのメッカBorgarfjörður eystri(ボルガフョルヅル・エイストリ)だった。

ボルガフョルヅル・エイストリは130世帯が住む小さな街で、去年も訪れていた。その時の目的はアイダーダウン、アイダーダックの保護区を見せてもらうことだった。

今年も後日、保護地区の近くでキャンプをすることになるが、この日は彼の友達もいるし、待機するだけなので、時間潰しにパフィンを見に行くことにした。

パフィン子達は、この街から5キロほど離れた小さな港に隣接するHafnarhólmiという場所に住まう。フィン達は5月ごろから営巣をし始め、ヒナが生まれて一ヶ月半後には去っていくため、8月の半ばには姿が見えなくなる。なのでパフィンの姿を見ることができるのは季節限定。一年のうちでもごく限られた数ヶ月間のみだ。

ヨーロッパのパフィンの60%がアイスランドで営巣すると言われ、このボルガフョルヅル・エイストリには約1万羽が生息する。パフィンは一夫一婦制で(ほんと?!)、オスとメスとで交代に卵を温める。そして毎年、同じ巣に戻ってくるらしい。

かつて人間は自由にパフィンを捕獲して食べていたが、現在では数の減少による絶滅を防ぐため、捕獲が許される数はごく限られている。

パフィンの肉は食べたことがあるし、最初にアイスランドを訪れた頃は、スーパーで冷凍肉が売られていた。今は全く見かけない。

現在でも、季節になれば高級レストランでは季節限定でパフィン肉を出すところもある。

肉は脂身のない赤身で、結構クセが強い。自分で調理した時は少しコリコリした感じで、レバーっぽい臭みがあった。後にレストランで食べた時の肉は柔らかく、臭みも抑えられていた。海鳥の卵に魚臭さがあり、それが旨味ではある。たぶんパフィンの身もクセがあり、それを生かすも殺すも、つまりは下準備やら調理法なのかな、と。近年はなかなかメニューに出会えないため、食す機会を逸している。

パフィンがひょこひょこ歩く姿は愛らしい。骨がしっかりしているのか、ずんぐりむっくり型で、飛ぶのが下手に見える。どうやら飛び上がる際の加速がつきにくく、バタバタと不恰好に羽ばたくしかないようだ。要はかっこよくない、スマートではない。けれど、ダイビングは得意らしい。体重が重いから飛ぶよりも落ちる方が得意ってことね。

はっきり言って声はかわいくない。見た目のかわいらしさに反するようなダミ声で、グワーグワーっという感じの音をたてる。動画で聞こえる少し高めの鳥の声は、岩壁の中腹に陣取る白い海鳥の鳴き声だ。

パフィンはアイスランドのどこにでもいる訳ではなく、営巣する場所は限られる。ラッキーなことに私は今まで、ウエストマン諸島のヘイマエイ島、アイスランド最西部のLátrabjarg(ラトラビャルグ)、Dyrhólahey(ディルホゥラエイ)、それからフェロー諸島でパフィンを見てきた。

そんな中でも今回の場所は、とてもバランスがいいと思った。人が鳥に危害を加えないことがわかっているのか、遊歩道内であれば人間が動いても鳥は動じない。観察小屋もあるため、風や雨が強い日でも、暖かな環境の中でパフィンの姿をじっくりと追うことができる。

人工物のない、自然の中で数多くのパフィンを見ることができるという点では、ヘイマエイ島が一番のおすすめだ。ヘイマエイであれば、パフィンに出会える場所は数カ所あり、自然のまま彼らを観察することもできれば、観察小屋の中から見ることもできる。

また、ラトラビャルグは野鳥が多く営巣する絶壁が見事だし、西部のフィヨルドや滝と合わせてプラニングすれば、素晴らしい自然観光が実現する。ディラホゥラエイ周辺は他の場所よりもパフィンとの距離は遠くなるけれど、南海岸観光のついでに寄ることができる。

パフィンの寿命は20-25年間だという。毎年同じ巣に戻ってくるそうなので、同じ場所へ行けばいつぞや見かけた鳥がそこに居る可能性が高い。(たぶん)一期一会ではないことに少し驚く。

パフィンを見て昼食をとった後、予定とは別の場所へハイキングに向かった。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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