オランダのロッテルダムで毎年行われる、ノース・シー・ジャズ・フェスティバルで藤井風を見てきた。ノース・シー・ジャズは、スイスのモントルー・ジャズに次ぐヨーロッパで最大級のジャズ・フェスティバルだ。
そこでの藤井風(&彼のバンド)の感想を一言で書けば、「えがった」。
なぜ急に東北弁になるのか分からないが、とにかくしみじみえがった。
さて、このレポートをどのように、どこから書き始めればいいのか。あまり長々と書かないようにしたいけれどーーー。
あれは私が日本に帰国中の今年初めの頃だった。藤井風が遂に欧米に羽ばたくという。それがノース・シーでのライブの発表だった。その時にはまだこれが欧米のツアーになるとはアナウンスされていなかった気がする。アジア・ツアーはアイスランドから遠くて行けなかった。オランダであればアイスランドから3時間程度で飛べる。ジャズ・フェスには耳のいい音楽ファンが世界中から集まってくる。演奏にも力が入ることだろう。

まずは夫に「ノース・シー・ジャズに藤井風が出るそうなので、私は行くことにした。同行する?」と声をかけた。「僕も行きたい」というので、藤井風が出演する土曜日と、次の日曜日の二日間フェスを楽しむことにした。フェスは3日間で金曜日もあったが、私自身がそこまでジャズを知らないためパス。
フェスのチケットは1日140ユーロ約25000円だ。チケ代だけで2名X2日間10万円となる。私が言い出したことなので、彼に支払わせる訳にはいかないだろう。藤井風にかかる費用は私がもった。そこに宿泊費と交通費、食費もある。計算すると怖いことになりそうだ。人生この先自由に動ける時間は限られてきた。腹はくくることにした。

ドイツ、イギリス、フランス、オランダ、スイスと彼のヨーロッパ・ツアーは順不同に発表されていった。他の公演チケットも取ろうとしたが様々な理由でとれなかった。一回でも生風を浴びることができればいいや、と思うことにした。
それにしても、全公演を追っていた強者ファンも多かったようだ。まずは絶対的に藤井風が好きだという情熱、そして根性と先立つものがないと成り立たない。凄いなぁ。
藤井風の音楽に関する私の気持ちは以前に記したことがある。
彼も私もロック・フェスはお手のものだが、ジャズ・フェスは初めてだ。このフェスティバルはジャズが看板ではあるけれど、ポピュラー寄りのアーティストやエスニック系の音楽も扱われるという。とはいえ、ばりばりのロックは扱っていないようだった。
結局このジャズ・フェス旅行は我々の夏休みも兼ねることになり、彼がフェス前後にアムステルダムとアントワープにも宿泊できるよう手配してくれた。ありがとう!
フェスティバル当日、私たちはアムステルダムから電車でフェスが行われるロッテルダムへと移動した。本来は直通のはずだったが、トンネルが使えないとかで一度だけ乗り換えを強いられた。
ロッテルダムに到着してまずは腹ごしらえをした。その時カフェの隣の席に、藤井風ファンの間では「ウィンディ」の相性で知られるキャラ(ぬいぐるみ)が置かれるのを見た。早々に風ファンと遭遇だ。
声をかけたところ、オランダ在住のご夫婦で、当日アムステルダムから移動してきたそうだ。その後、会場でも何名かの日本人ファンと言葉を交わした。たまたま言葉を交わしたのが欧州在住者ばかりで、日本から来てライブを追いかけているという方はおひとりしか話をしなかった。


ホテルはロッテルダムの中心街近くで、会場のロッテルダム・アホイまで電車で4-5駅のところだった。ホテルから駅まで徒歩7-8分という場所で、会場最寄り駅の出口から会場までは徒歩約4分程度だった。ちなみにグーグル地図では徒歩9分とか7分とか出てきたが・・・。
ノース・シー・ジャズはロッテルダム・アホイという複合施設で行われる。演奏会場はすべて屋内で、その数は10ヶ所以上あっただろうか。数千人規模から、数百人まで千差万別で、会場がスタジアム形式で立ち見はアリーナのみで二階には席があったりなかったりと、会場ごとに規模やレイアウトが異なっていた。総動員数は3日間で6-7万人と言われる。屋外にはところ狭しと飲食店があった。
ジャズという音楽ジャンル、140ユーロのチケット代、周囲のホテルはフェス価格で通常時の2倍に跳ね上がる。当然、経済的に余裕のある層がやってくる。つまりは平均年齢が上になる。それでは年齢層はどのくらい?と問われても、具体的な年齢はわからない。40代くらいか?
確かにそこで見たのはロック・フェスで見かける年齢層でも顔つきでもなかった。ロック・フェスやライブ会場でキッズに混じる我々がジジババ世代すぎることは常に痛感している。そういう意味では、ジャズ・フェスではご同輩を多く見かけたともいえる。
目的はダーリン(Darling)という会場だ。藤井風が20時40分から演奏する。でもその前に、開場直後に私は物販へと走った。藤井風のTシャツとキャップ(帽子)がほしかった。物販は3ヶ所あり、そのうちダーリン会場に一番近い場所でかろうじて大きなサイズのTシャツが残っていた。
なんでも前日はいろいろなサイズのTシャツがあったが、あっという間に売れてゆき、藤井風が演奏する当日会場直後にはサイズXL以上しか残っていなかった。何かが残っていただけマシということで一枚記念にTシャツを購入。45ユーロ(約8千円弱)だった。
思ったよりも随分とかわいく、しっかりした生地のTシャツだ。大いに自慢したい。

ダーリン会場を探し当てると、驚いたことに座席が置いてあった。前の方には日本人が占拠しているようだ。藤井風のパフォーマンスまでずっとこのままであればいいのだが、途中で椅子が撤去される可能性はある(結局はそうなった)。どちらにしても座る場所があるのはありがたい。
私はとにかく藤井風を見るまでは気が気ではなく他のアーティストを見る心の余裕がない。サマラ・ジョイは魅力的だったが、このダーリン(=いとしい人)と名付けられた会場に居座ることにした。
彼には「椅子は確保しておくから、他のギグが見たいなら行っていいよ」と話した。「ライブ最中に誰も座らない椅子が確保されているおはパフォーマーに対して失礼だし、僕は君といっしょに行動する」ということだった。その判断は正しい。
この会場に最初に登場したのはグラミー賞をいくつも獲得しているジェイコブ・コリアーだった。カラフルでカジュアルな服装で、太陽のように明るくはきらきらと言葉を発する若者だ。彼も藤井風同様にYoutubeから飛び出した人だ。ティーンの時に自分の声を多重録音した曲を掲載したところ、クインシー・ジョーンズから声をかけられ、モントルーのジャズ・フェスで初顔見せをしたミュージシャンだ。
ちなみに去年6月、私はジェイコブのレイキャビク・ライブを見ている。
会場の椅子は、ジェイコブの「部屋」の設定だということが、話を聞くうちに理解するところとなった。なるほど、プログラムには確かに「ジェイコブの部屋」と書いてある。字面は見ていたが、その意味を理解していなかったということになる。
ちなみにジェイコブは今回のこのフェスティバルのアーティスト・イン・レジデンスとして、毎日出ずっぱりだった。金曜は自分のバンドでの演奏、土曜日はこの「部屋」、日曜日はオーケストラとの共演だ。
自分の「部屋」なので、友達が彼の自室を訪れたかのようにいろいろな話をしてくれた。最初のオーディエンス・コーラスの部分を除いては、最後にビートルズを一曲カバーした程度で、あとは全部トーク!それもマシンガンの如し早口トーク!よくこんな早口英語が理解できるようなったものだと、ひょんなところで自分の英語聞き取り能力に感心した。


要は自分が好きだと思うことを妄信的にやるのがいいんじゃん?!ということを、自分の体験を通して語ってくれた。それは藤井風と重なる物事でもあった。
ジェイコブが終わると、椅子を撤去するため全員が会場の外へ。席はいい場所を確保していたけれど、追い出されたので腹ごしらえへ。とりあえずご飯を食べて、少しゆっくりしてから再び会場へ。
私はその場に居合わせていなかったので真相は分からないが、一旦会場外へ出されたことにより、再入場の際、日本の風ファンの間で場所取りのいざこざがあったと聞く。
私が会場に戻ったのは、藤井風の前のアーティスト出演40分程度前だったと記憶している。その時点で半分程度はまばらに人が入っていた。
海外のロックフェスでは、進めるだけ前に進んでオッケーというのがある。少なくとも私はそう思っているし、前の方へ行きたい時はいつもそうしてきた。なのでこの時も進める場所まで前へ行った。
数曲だけ見たい時は退場しやすい出入口付近にとどまるが、出入口は混んでいる時も多く、少し前へ行った方がスペースに余裕があることも多い。安全のためにも、なるべく多くの人が入れるようにということでも、通れるスペースがある限り前へ行って問題はない。
そうして進んで行くと、すでに前の方は日本人ファンですし詰め状態。その壁は確固としたものだったので、そこで私たちはとどまることにした。


そして定刻5分遅れくらいでNaomi Sharonが登場した。ご当地ロッテルダムに自宅のあるシンガーだ。ナオミという名前から日系か?と思ったが、どうやらそうではないらしい。
耳馴染みのいい音域と声質を持つ表現力豊かなネオ・ソウル系のシンガーだった。着席であれば歌詞や彼女の表現力を更にじっくりかみしめられたかもと、立ち見であることが若干悔やまれた。同じような曲調が続くため、ショーとしてはもう少しメリハリが欲しかったけれど、ジャズ・フェスティバルにふさわしい実力のシンガーで、藤井風へとステージのバトンを渡すアーティストとしてはとてもいい人選だった。
そしてやっと登場するのが藤井風だ。かぜさ〜〜〜ん!!!

ここまで引っ張ってナンだけど、やっぱり長く書きすぎたみたいなので、風さんのライブに関しては後半へ!
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
