アイスランドの真珠と呼ばれるハイランド(高地)の一角に、「赤い滝(Rauðufossar)」と「赤い瞳(Rauðauga)」と呼ばれる場所がある。鉄分の多い赤土をつたう”赤い滝”はアイスランドに国内に数箇所あるが、赤い瞳はたぶん世界でも有数、または唯一ではないかと思う。
「赤い瞳」の何が不思議かといえば、瞳の真ん中の部分から水が湧き出している。たいそう鉄分の多い水であるため(舐めてみたが確かに鉄の味がすごかった)、川底が赤くなっているのではと思う。
この水は1000メートル近い高地から流れ出しているため、それが「赤い滝の枝(Rauðufossakvísl)」という名の流れとなり、高地を彩る川となっている。
この赤い滝いは、場所がわかっていればF225号線沿いから見ることができる。もちろん遠くから眺める程度だが。
と書くからには、近づくためにはハイキングをすることになる。私自身がアイスランドのハイキングに慣れたせいもあるけれど、ひどく難しかったり危険な場所はなく、難易度としては軽度と見た。けれど、往復10キロは距離があるため、難易度を中度と評価しているサイトや文献も多いかと思う。風光明媚な場所で歩いていて飽きない。子供連れや犬連れ(!)もよく見かけた。


それではハイキングへ出発しよう。赤滝も赤瞳も同じルート上にある。赤い滝までであれば往復4キロ弱。瞳まで足を伸ばすと往復で10キロ近くになる。標高差は滝までが100メートル、瞳までは250メートルだそうだ。ただし、それは地図上での標高差で、実際には一旦下がってからまた登る箇所が結構あるため、実際の登り降りはきっと350とか400メートル近い標高差ではと思う。


登るなら登る、下るなら下るとはっきりして欲しいけれど、自然の物事は直線でも人間の都合でもない。なので一旦数十メートル上り、また数十メートル下がり、また登るという、とても効率の悪い道を進まざるを得ない。苦労せずに進みたいけど、登り坂は避けられないので、体力温存で疲れないように歩幅を小さくして登って行った(それが体力温存になるのか正解は実は知らない)。
30-40分も歩けばこの赤い滝がドンと見えてくる。

滝が流れている部分だけ地肌が赤い!これは長い間の疑問だった。先日、地学の先生にお会いした際、溶岩は鉄が含まれ、それが酸化すると赤茶色になることを教えていただいた。確かに!自転車も鉄の部分が赤茶色に腐食することを思い出した(そこ・・・)。
どうやらこの場合は、水に鉄分が多く含まれ、それがこの色になっているような気配だ。この滝の上流も下流も、水の流れがある部分のみが赤茶色をしている。
さて、ここまでで2キロ弱。瞳までの片道の距離は5キロなのであと3キロ残っている。この滝を見て帰る人もいれば、先を目指す人もいる。我々は後者だ。
ここから少しの間は急勾配だ。ハイキング・トレイルは整備されているので歩きやすいし、怖くもない。それでもハイキング・ポールがあった方が安心安定がいいし、最近の私たちは必ずこの日本のスティックを持って出る。

急勾配を半分程度しか登っていないこの場所で、すでに絶景。まるで絵画に描いたような色をしているけれど、実際の色だ。
急な登りを上り切った場所でパノラマを撮ってみた。右手の方に少しだけ、小さく赤い滝が見えている。パノラマだとものすごくデフォルメされてしまうけど、雰囲気は分かるかな?

滝が落ちる場所を見てみたかったけれど、そこへ到達するには時間が必要なので、一旦はハイキング道をずれたけれど、結局すぐに舞い戻った。
この後は台地の上の部分をひたすら数キロほど歩いていく。とはいえ、目に映る景色は刻一刻と変化していく。
ハイキングは疲れるだけで面倒だと思っていた。いや、まだそう思わないこともない。車で走った方が早いし、景色の移し変わりも確かに早い。疲れないしね。

でも、こうして何度かハイキングに出てみると、足で地を踏み締める感覚は好きだし、小さな変化にその場で足をとめて観察できるのもとてもいい。
この日は天気は良好、風もないという予報だったので出てきたけれど、実際は曇り空で風も若干強かった。見晴らしのいい平坦な場所は風がニット帽を突き抜けて寒いので、レインコートのフードをかぶってしのいだ。誰だよぉ、天気がいいから行こうって言ったやつぅ〜。


赤い滝から1時間も歩いただろうか、川底の赤みが増してきて、川幅も広くなってきた。それから、途中、小さな川の氷が溶けておらず、氷上を歩いたことも記しておきたい。
このハイキングルートを歩く前夜、体験記などをみていると、それほど大きくない川を渡っている写真をいくつか見かけた。なので、念のためにウォーターシューズとタオルは持参していた。
その川とどこで遭遇するのかと思っていると、なんと氷の塊と出会った。また、川の水が少ないので川の真ん中に時々顔を見せる地面をぴょんぴょんと上手に飛んで渡った場所もあった。水嵩が多い時であれば、川に入っての渡河を避けられなかったことだろう。



こんな感じで川底が一面赤茶一色になり、滑り台かと思うような緩やかな流れの横を登っていくと、真正面に滝が見えた。その奥にはまだ雪が残る山も見えた。へ〜〜!!きっとこの奥にラスボスがいるに違いない!

この滝もじっくりと見たいけれど、この上がどうやら終点のようだ。先を急ごう。
そして登場したのが、この目!目!どう見ても目!!!夜更かしをして目不足で赤くなった目!
噂には聞いていたし、写真も何枚か見ていた。でも、本物の目は本当に不思議だ。だって本当に目なんだもん!

不思議だ、不思議だ。ここが川の源泉なのだ。この目の真ん中の奥深いところから、水がこんこんと湧いているのだ。文字通り涙が止まらない状態。間欠泉のように水を噴き上げる訳ではなく、常に一定量の水を供給し続けているようだ。別角度から見てみよう。

青空を反射しているのが目の部分で、そこからなだらかに水が落ち、右奥のところでまた水が落ちる、それが少し前の写真にある滝の上の部分になるーーーという説明で分かるだろうか。
目はそれほど巨大ではなく、アイキャッチにした私の大きさと見比べてもらえば分かると思うが、直径10メートル程度かと思う。
それにしても、この黒目の部分から水が湧いている。中に潜ったというような話は聞かないし、命を落とすだけのような気がするから誰もやってはほしくないけれど、潜水カメラを入れたらどうなっているのか分かるだろうか?黒目の奥の構造が気になる!
私達は滝の土手の部分に腰を下ろし、遅い昼食をとった。
復路は往路をなぞるだけだ。少し前に見た景色を逆に辿っていくだけとはいえ、美しい景色は気持ちがいい。けれど、疲れるものは疲れる!特に平坦な道を長々と歩いていくのは惰性でしかなくなることも多い。
疲労を感じながら歩く時間は短くしたい。距離は短くならないけど。さて、どうすればいいのか。馬車の迎えもないため、「早く歩く」しか答えがない。
下り坂はホイホイと勢いをつけて下り、平坦な場所は周囲を見ずに足元だけを見てゴールを目指した。車に戻ると「突然君が走り出して驚いた」と言われたけど、あれって駆け降りてたの?早足でしかないと思うんだけど。彼の基準がわからん。
最後に、彼が撮ってくれたお気に入りの一枚をば。

ほわほわで真っ白のコットングラスがかわいらしかった。
ちなみにこのハイキングに出たのは2025年7月27日でした。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
