アイスランドの秋は一瞬で去っていく。ハイランドの道路を通行できるのも、たぶんあと数週間だろう。その後は雪でスタックする可能性が高くなり、小型ジープで高地を走破するのは無理になる。
今年の秋は彼の海外出張や私の仕事の関係で、9月から10月初旬に動ける週末がごく限られてしまった。2025年9月28日の日曜日、「これが今年最後かもね」と絶好調の天候の中、高地を走りに出かけた。
レイキャビクから日帰りでリーチできる範囲で私たちが大好きなのは、フャットラバックと呼ばれる地域だ。
「こちらアイスランド」の読者であれば、すでに何度も書いているので覚えてしまった方もいるのではと思うほど、私は頻繁にこの地域の名前を出してきた。
一番最近は、1ヶ月ほど前に行ったこの時だった。
フャットラバックと呼ばれる地域には大きな二本の道路が通っている。ひとつはヘクラ山の北側を通るランドマンナレイズ(F225号線)で、もうひとつは南側を通るフャットラバック・シヅリ(F210号線)だ。
大きな渡河がないので北側の225号線〜208号線を通り1号線に抜けるのが山岳道入門には最適だ。なので、知り合いにはその道を勧めることが多い。
レイキャビクから北部へ行く際、1号線を使わずに行くというなら、迷わず35号線をお勧めする。35号線は四駆である必要さえない。ただし雪深くなると動けなくなるのはどの道路でも同じだ。
1ヶ月前に走った際、というか、F225号線には多くの支線があり、時間が許す限り走るようにしている。
そういった支線は平行に走る南北の間をつなぐ道路が多く、風光明媚な場所が多いため、どうしても北側の道路を離れて更に北に進むような道路は敬遠しがちだ。
「次回時間があったら」と言い続け、何年も後回しにしてきた道路があるため、今回はそこを制覇しようと決めてやってきた。
わかっていたこととはいえ、どうも出だしはよくない。山の方向へ向かうのではなく、平坦な土地が続き、普通道の26号線とほぼ平行に走っているような気さえする。でもまぁ、放牧していた羊を秋に集める柵が出てきたので、ちょっぴり観光。とはいえ、もう羊を集めた後の時期ではあるけれど。



この場所を去った後、取り残された羊を5頭ほど見かけた。上手に逃れたものだ・・・。農家では一頭ごとにタグを付けて管理している。欠けている羊が見つかるまで探すので、たぶんこの5頭も間もなく見つかって回収されることだろう。
路上に時々霜を見た。山の影になった部分だけがきれいに白くなっている。太陽光の移動に従い霜は溶かされるため、10センチほどの山の影の外側だけが白く太陽に光っていた。


さして風光明媚ではなくとも、初めて走る道は楽しい。この先にどのような風景が待っているのか、知らない風景が目の前に開けてくることに毎回心が躍る。ばっかじゃないかと思うほど、新しい道を走るのが好きになっている。
小さな山を超えたのか登ったかしたので、新たに川が見えてきた。水のある光景はどこでも美しい。なぜそれほど水に惹かれるのか、自分でもわからないほど水のある場所が好きだ。
水は生命の源である本能だろうか?水は動き、流れていて、常に変化している。そんなところも好きなのかもしれない。
この支線を走っていると、何やら色褪せてた標識が見えてきた。Valagjaと書いてある。ギャウというからには地がえぐれているか割れているか、そういう感じのところなのだろう。
支線から出る孫支線だけど、たぶんそれほど長くは走らされない気がして右手に曲がって進んだ。
そして出てきたのが不思議な峡谷というか、やはり地がボコンと窪んでいる場所だった。




写真ではオレンジ色が強く出てしまっているけれど、実際はもう少し茶褐色の色だった。左側の緑色は苔だろう。不思議な光景・・・。
ヴァラギャゥ(Valagja)。初めて来た場所だ。色彩がきれいだし、ギャゥといっても地球の割れ目のような感じではないけれど、峡谷っぽくもある。こういう時に、地学の先生がそばにいるといいのにと毎回思う(他力本願!)
このギャウから走って5分もしないうちに、本線のF225号線に戻ってきた。結構あっけない距離だった。北側はさすがにのっぺりした風景だったけれど、山を超えると楽しい景色と出会えた。やっぱり新しい道は開拓すべきだ。




さて、ここらへんからどの道を使ってレイキャビクに戻るのかと私は思っていた。だって、これ以上行ったところで前回のようにこの道を1号線に出るまで走り、家路につくようなことはしたくない。それをやると走行距離が500キロを超えるし、日照が短くなっているからだ。
この先にあるものといえば、ランドマンナロイガル。今年はあれこれで5度は来てるから、もういいっしょという感じ。
なのに彼はそこまで行くという。え”〜〜、なんでぇ??!!
彼はたぶん温泉に入りたかったのだと思う。私は敬遠したかった。週末で混んでいそうだし、温泉に入る前後(つまり着替え)が面倒だからだ。



ランドマンナロイガルの駐車場は夏の間は事前予約が必要だ。けれど、それも9月14日までのこと。この日は9月28日なので予約は必要なかった。けれど、私等が行った時に、川の前の駐車場にはあと3-4台しか止められないほどギチギチに車が詰まっていた。
おどろいたことに、ランドマンナロイガルには新しい遊歩道ができていた!!
今年のシーズン当初に私はこんなコラムを書いている。温泉へ行くためには、徒歩での渡河が必要だった。たぶんこれを回避して、安全確実に、そして自然破壊を最小限にするためには、これが一番いい方法だと考えたのだろう。
以前は駐車場を出て一旦センターまで行き、そこから駐車場に戻る方向へ歩いて温泉へ到達しなければならなかった。
新たに作られた遊歩道により、駐車場から直接温泉へ迎えるようになった!これは便利!!
ただ、車ごと渡河をしてセンター側へ行かない限り、その遊歩道を使いセンターへ歩くことになるため、センターへ行く人も温泉へ入りたい人も、全員屋外脱衣場の前を通ることになる。ただでさえ脱衣所は屋外だ。人通りが多くなるのは落ち着かないよね。それが短所かと思う。
案の定、温泉は人がわんさか。今から入ろうと着替えている人もいる。入れ替わりはあるとはいえ、たぶん私等が入っても人数的にはこんなものだろう。
私が温泉に乗り気でないことを彼は悟っているので、「それじゃせめてビューポイントでも行こうか」と。
はいはい、その程度はお付き合いいたします。
お手軽なビューポイントからの馴染みの光景、そして例によって私はお馴染みのまったくアウトドアらしからぬ格好。



盛夏に来た時は緑だった湿地が、今は紅葉になっていた。アイスランドの秋は本当に短くて、たぶん今はピークではと思う。
「温泉に入らなかったから、帰りは南側の道に出ようか。ケルドゥル(Keldur)のルートを使うってどう?」と尋ねられた。ルートはいくつかある。ケルドゥルがどのルートだかあまり覚えてないけど、Raudfossの駐車場から伸びてる道と言われてわかった。
「いいね、いいね。その道、いいね」と、少し違った道が選択されたことに喜ぶ私。
最近自分でも思うんだけど、こういう山岳道が好きすぎて、なぜ道が好きなのか理由が自分でも分からず、知らない間に道路オタクになっていって、自分で自分が理解しがたくなってる。とはいえ、アイスランド人もびっくりの道路知識で、仕事には爆役立ちしてるからいいけど。



例によって(?)小型の四駆では走れません標識が!大丈夫、ジムニーですでに走っている道だし、むしろ大型車よりも小型車の方が有利な場面もある。
車窓に見える苔むす山々や砂漠のような道。刻々と変化し続ける風景を見ながら、アホの一つ覚えで「きれいね〜、きれいね〜。この景色大好き!」を何百回と唱える。すっかり彼はこの日本語を覚えてしまった。
この道沿いで、ひとつ気になっている場所がある。場所というよりも標識だ。標識が支柱から落ちているのを初めて見たのが2022年。去年もまだ落ちたままだった。今年はどうなったか?


おぉ、戻ってるじゃん!
標識がちゃんと支柱についてる!!直してもらってよかったね。支柱から外れた姿を初めて見たのが2022年。その前からだったのかは分からない。とにかく今年はお化粧直しが完了してよかった。
ここまで来たので、ついでなので滝を見に行った。決して小さくないし、いい感じの滝にしては名前がなくてかわいそう。そして、滝への道を行き止まりまで先に行ったところはこんな光景だった。


あとはもう、南フャットラバック道(F210号 Fjallabaksleid sydri)を使い、1号線に戻ればいいだけとなる。
南側のこの道は、今年は水が道に多く、ただでさえ水が引かない場所の水位が高く、大型車であっても渡河は控えるようにこの夏ずっと注意が記載されていた。
なので私たちは使わなかった道だけど、この場所から1号線へ抜ける程度は全く問題ないと思い使うことにした。
特に問題は確かになかったけれど、道のところどころに湖かと思うほど大きな水たまりがあり、なるほど、この地域でこの水たまりだと、水が多い地域はさぞひどいだろうというのは容易に想像できた。



F210号にも定点がいくつかあり、この滝もそのひとつ。年に数回は来ることが多いのに、今年はたぶんこれが最初で最後かな。
最後の写真が道路の大きな水たまり。水たまりの中には空の様子が映し出されている。実際には茶色の濁った水なのに、映し出されるのはなぜか白い雲混じりのしっかりと青い空。この中を車が進んで行くと、一瞬車が空の中に吸い込まれていくような、不思議な光景に出会えた。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
