やっとアイスランドに戻ってきました!
うれしいといえばうれしいし、嬉しくないといえば嬉しくない。
嬉しくない原因は、実家の母のこと。日常生活が思うようにいかなくなってきた92歳の母を置いて出るのは辛い。玄関先で泣かれてしまった。
母はホーム施設に入ると言っている。私が日本滞在中にその施設は見学へ行き、代表者とも話をしてきた。父がいたホームの2倍くらい大きな部屋で、居心地がよさそうだった。手続きはまだしていないし空き部屋もないので、私がいなくなって落ち着いたら手続きを始めるという。
なんだか虚しい。
母は日々生活していくだけでも大変なのに、実家は3ー4人の家族がちょうどいい感じで住める広さがある。一人暮らしの高齢者が管理するには荷が重い。実家はとてもきれいになっている。母は元来きれい好きなので、自分ではできないところや行政で面倒を見てもらえない部分のお掃除は、個人で外注してまできれいにしている。母の努力や工夫には本当に頭が下がる。
事情はともかく、母と実家で少しでもいっしょに過ごしたことはせめてもの親孝行と思いたい。

レイキャビクの自宅に戻った数時間後に嵐がやってきた。私がケプラヴィク国際空港に降り立った時も強風で何度か上空を先空しての着陸だった。天気が強風から嵐に変更になり、その後はキャンセルになったフライトもあったと聞いている。無事に帰宅できてよかった。
日本滞在中には会いたい人に会い、食べたいものを食べることができた。けれど、せっかく私が日本にいるのに母といっしょに過ごさないと寂しそうな声が聞こえてくるため、映画や美術展などには行かなかった。
とはいえ、アイスランドのパートナーが3週間日本に滞在したので、今回も彼といっしょに国内旅行へは出た。行き先は出雲だ。彼の誕生日は年末で、私は日本に来てしまっていたため、誕生日の埋め合わせを兼ねて出雲の旅をブッキングしたのだった。

目的は出雲大社ではなく足立美術館だった。ん?足立ってことは足立区ではなく出雲の方にあるのか?
実は私も最初は足立美術館というのは、東京の足立区にあるものだと思っていた(いやぁ、無知で失礼します)。そうではなく、実業家の足立全康(あだちぜんこう)氏が創設した美術館のことだった。
日本庭園が非常に有名で、20年間以上毎年日本一の日本庭園として選出され続けている。
テレビで庭園を見た母が、「あなた、ぜひ実際に見に行ってきて」と私に自分の希望を託した形でもあった。
去年は彼とバス旅行で飛騨高山へ行った。彼にしてみれば聞いたこともない地名の突拍子も無い場所へのバス旅行だった。けれど、道中が素晴らしかったし、白川郷や飛騨高山は彼の琴線にもとても合っていたようで絶賛された。
今年も彼にしてみれば聞いたことがない場所だけど、たぶん気にいるだろうと思って引っ張っていったのだった。
「こちらアイスランド」ならぬ「こちら日本旅行者」になってしまうけれど、忘備録ついでに少しだけ旅のレポートを。
出雲へは航空便で羽田から移動した。東京から出雲は距離がありすぎて、交通は「飛ぶ」の一択だった。時間があればガタゴト列車の旅の風情も捨て難いんですけどね。
3泊した中で、一番天気のいい日に足立美術館へ出向いた。
噂に違わぬ美しい日本庭園で、どうやって手入れをするのだろう?と思うほど、細部まで神経の行き届いた端正な庭だった。
ここなら四季折々、いろいろな景色が楽しめるだろう。季節としては中途半端な時期に来てしまったけれど、仕方がない。関東からだとかなり僻地にあるので、来られる時がご縁なのだと思う。


売りは庭園だれど、魯山人の器もあったし日本画も濃厚なコレクションだった。そんな中で意外にも心を掴まれたのが絵本の原画で、明るく楽しく力強く、(この年齢で)絵本をコレクションしたいと思ったほど気に入った。
翌日はガタゴトと可愛らしい電車に揺られて松江見物へ。下の写真がその車両。こんな電車を見たのも乗ったのも初めてで、この風情を見たとたん、小学生の遠足のようにうれしくなってしまった。

冷たい小雨どころか盛大にジャバジャバと雨が降る中、まずは彼が見たいというので国宝の松江城へ。お城に入るのは小学生以来か?!なかなか立派な建造物でーーというか、日本のこういった建築は脅威ですよね!木材だけでどうやって作ったのやら。
重さや耐久性など、体験的に分かっていたのかとは思うものの、考えれば考えるほど謎だらけな気がした。
天守閣の上階からの眺めは本当に素晴らしく、この場所で古(いにしえ)の重要なやりとりや宴なども行われたのだろうと思うと、実に感慨深かった。でも冬はさすがに寒いよね。吹きっさらしだから。


雨模様だったのが残念とはいえ、お堀の周りも端正で、そこかしこに日本の様式美を感じた。思い返せば、小中学生の時には結構こういったお城やら神社仏閣を見に行かされた記憶がある。特になーんとも思わなかったけれど、年齢や体験を重ねてきた年月も手伝い、日本の伝統様式の美と機能性には真に感心する。
次に向かったのは島根県立美術館だった。広々としたロビーは湖を一望できるようになっていた。これまたとても美しい空間だった。この美術館は湖越しの夕焼け、日の入りが美しいらしく、「閉館時間は日没30分後」という珍しい時間設定だった。素晴らしい考えだと思う。

夕刻が迫り時間もなかったことなので、見たのは常設展示にとどまった。それでも時間が足りないほど見どころはたっぷりだったし、特に浮世絵をこれだけまとめて見たのは初めてだった。
当時の庶民の生活が生き生きと描かれていて、大衆芸術はいつの時代も心躍るものなのだと改めて感じた。美術館のショップも周囲に置きたいデザインばかりで楽しく目移りした。
美術館には非日常が詰まっていて好きだ。
さてさて、出雲に来て出雲大社へ足を運ばない訳にはいかない。なにせ全国の神様が集まる場所だ。一度は行っても悪くないだろう。
この日は当初豪雨と言えるほどの雨降り状態だったけれど、昼食を済ませた頃からいい天気になってくれた。
参道の周囲には松の巨木が連なり、さすが由緒正しく歴史ある神様の地だけある。この巨木たちがとてもキャラクターに富んで愛おしかった。神社仏閣の建造物もいいけれど、結局私が終始好き好き大好き目線を投げていたのがこの巨木たちだった。

スサノオノミコトもいたり、かわいいうさぎもいたりで、日本神話に想いを馳せたりもした。彼にいろいろなことを尋ねられたけれど、登場人物の名前やざっくりのストーリーしか知らないので、「Wiki見て」としか言えない情けない日本人でした。




紹介されている順路を逸れるとほとんど人がいなくて、じっくりゆっくりと社屋の中を見せていただいたり、滝なども見つけたりして、辺境好きの私にぴったりの場所が見つかってよかった。


・・・というのが今回の彼への誕生日プレゼントだった。去年は飛騨高山バス旅行で、日本通しか知らないような場所なので今回も大いに喜んでもらえてよかった。
で、本当はこれを書いている今日から西フィヨルドへ行く予定が、悪天候のため明日へ延期(延期して行けるかさえわからない)。
次回は久々にアイスランドに戻ってのレポートができる予定です。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
