SAMEJIMA TIMESは「無料公開」にこだわります。皆様のあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。講演・出演・執筆・スピーチライター等お仕事募集中!

こちらアイスランド(38)文化の秋、芸術の秋、コロナの前はこんな風だった!〜小倉悠加

秋だ!文化だ!芸術が爆発だ〜〜!!

通常であれば、そういう気分が盛り上がる季節だ。でも今年はどうも気分がイマイチ。去年はそれでも、少しだけ希望を持っていた。けれど状況は後退し、今日の今日までずるずる。

文化イベントは秋から始まり、寒くて暗い冬の最中に盛り上がるのがこれまでの習わしだった。”これまで”というのはコロナ前のこと。

コロナでの集会制限の迷走が続き、去年の春から楽しみにしているビョークの特別コンサート・シリーズも、8月末からまたまた2ヶ月の延期。一番気を揉んでいるのはビョーク本人であろうとは思うけど、延期も一年半を超えると、楽しみにする気持ちさえ奪われる。ーーこうして人間の感覚というのは鈍化していくのか。

最初から言い訳で恐縮だが、文化的な催しをお伝えしたくても最近のネタがない。集会制限などの関係で、イベントが消滅したためだ。なので今回は、コロナ前までのアート展はこんな風だったと昔話でお茶を濁すことにさせてほしい。

レイキャビク周辺のアート好きは、人口の10%程度だろうと言われている。数字に関するソースはない(笑)。ただ、これはよく持ち出される数字なので、何らかの根拠があるのか、または「案外少ないんだよね」ということを言いたいだけなのかもしれない。

そしてこの、決して多くないアート人口を動かさずしてアート展は成り立たない。見てもらってナンボの世界。この小さなパイの取り合いが熾烈だ。

アイスランド人はあまり計画性がない。日本人のように前々から予定を入れる習慣が薄い。日本のように電車の時刻表に合わせて行動する必要はないし、街が小さいため、アポなしで連絡を入れて30分後に会うことも可能だ。2-3日前に示し合わせても約束を忘れられることがある。まして一週間前など言語道断。天候によってもスケジュールが変更になることは珍しくない。国立美術館のような大きな施設は別として、小さなギャラリー等は、前日ないし当日数時間前にイベントの告知をするところが多い。

どこに告知するのか?

アイスランドはFacebook利用の人口比が異常なまでに高く、成人国民の70%とも80%とも言われる。Facebookを使わねば人にあらずのような感じさえある。こういったイベントの告知はFacebookのイベント欄に100%掲載されると思っていい。

そしてアート展は初日がいい。初日はお祭りで、そこには必ずビールやワインのドリンクが用意される。これは飲み助かつアート好きの人間にはたまんな〜い!

酒屋で買っても安いビールが400円、外で飲めば千円のこの国で、タダ酒ですよ、お兄さん!

それじゃナニ?小倉は酒を目当てに行くのか?!

うーん、当たってるけど当たってもいない。お酒がなくても見にいくもん。

私は音楽畑の人間なので、正直なところビジュアル重視のアートはよく分からない。でも、四角四面ではない何かを見るのは刺激的だし、そこに集まってくる人を観察するだけでも面白い。知り合いの顔を見るのもそういう場所で、「最近どう?」と世間話をするにもちょうどいい。

主催者側もそれを分かっている。目的がなんであろうと、展示初日は人が多い方が絶対にいい。人が来て、自主的にFacebookやInstagramに写真などをあげてもらえれば、それが更なる宣伝にもなる。

なので、狙い目の金曜の夕方はアート展示会のオープニングが目白押しとなる。数件ハシゴできることもあれば、場所と時間の関係で後日見にいくことも。大抵の場合、午後5-6時からスタートで、8時には終了。勝負は数時間しかない。

金曜の夕方に集中すると、どうしても話題のアート展に人が集中するため、周辺のギャラリーはその1時間後に開始時間を設定したりと工夫が必要だ。金曜の夜にアート人口をゲットできないと読むのか、木曜の夜にオープンするのは極小ギャラリーが多い。

展示初日はトークが行われることも。オーラファー・エリアソンと作家アンドリ・スナエルの対話は大盛況だった(2019年11月撮影)

アート人口の取り合いが無縁なのは、国立美術館、レイキャビク美術館等、公共性の高い施設だ。大型公共施設の展示初日には華やかな特別感があり、ハレの席なので、おしゃれをしてくる人も多いし、市長などのスピーチもある(私はアイスランド語ダメ人間なので、どうでもいいけど)。発泡酒やワインもたっぷり用意されているし、その上、この日は入館料無料!

有料の美術館へはしょっちゅう行けないので、ここぞとばかり、新たに開催された展示のみならず、常設展示物もじっくりと見てくる。それもワイングラス片手に。なんかオシャレっしょ〜。

飲んだくれている姿ではなく、グラスを持ってるだけ〜。アイスランド国立美術館内。

アートは素人でも、数をこなすうちに審美眼も育つというもの。彼とアート展周りを始めて半年もすると、「このタッチはあそこの美術展で見た人だ」「この絵はあの画家の影響うけてるっぽいね」等、少しばかり知ったかぶりもできるようになる。そうなると益々アート展が面白くなる。

そして時々フィーチュアされたアートのクリエイターが、知り合いのミュージシャンだったりして驚くことになる。アイスランドでは物事の垣根がとても低い。バックグラウンドも年齢も性別も関係なく、みんなやりたいことをやる。それが基本だ。ミュージシャンだから、他のことができない、ということはない。それは知っていても、楽器で音を出すのと、絵筆を動かすのは別の物事のような気がして、私は驚くやら、その多才さを羨ましく思うのだ。

芸術に火をつけたラグナル・キャルタンソン展開催中の美術館外観

その代表的がラグナル・キャルタンソンだ。彼は2003年、私が最初に日本に招聘したTrabantというバンドのヴォーカリストだった。当時の彼は美術学校を卒業して間もなく、親元で暮らしていた。彼はビエンナーレ、MOMA、グゲンハイム等で高い評価を受け、ニューヨーカー誌などでも常に大きな話題になる存在だ。日本でも近年いくつかの作品が紹介されている。

彼の展示会は奇想天外だ。レイキャビク市美術館のハフナルフスでの、彼の総括展示会は、絵画、ビデオ、スカルプチャーと何でもありだった。その中でも特に衝撃を受けたのは、ライブパフォーマンスのインスタレーションだった。バスローブやパジャマ姿のミュージシャンをあちこちに配し、彼らはまるで自分の寝室にでもいるかのように、同じ歌詞の歌をそっと歌い続ける。その声を聞きながら、観客は自由に自分の居場所を探していく。この不思議な雰囲気を何と表現すればいいのだろうか・・・。

今回は特定の展示会の話をする回ではないので、ラグナルのことは何かの機会にたっぷりできればと思う。芸能一家の出身で、父親は舞台監督、母親は大女優、姪っ子は日本のサマーソニックで来日したこともあるドリームワイフのヴォーカリストだったりする。

最近一番驚いたのは、ギタリストでエレクトロ音楽にも強いロヒだ。ロック・バンドのSudden Weather changeやエレクトロポップのNOLOなどの音楽プロジェクトを数多くこなし、女性ヴォーカルとのデュオ・ユニットWESENも話題になった。ラグナルの場合は、以前から芸術家の片鱗があったが、エレクトロ音楽を作りながら、ロヒがこんな細かな作業をしていたとは!

なんとロヒの作品は刺繍アート!スーパーマーケットの袋や公共のゴミ箱、捨てられたビール瓶など、身近にあるものを刺繍アートに昇華する。よく見れば技巧にも凝っていて、これは本当に驚いた。

往年のミュージシャンでもアート人間はいる。ビョークが最初に頭角を表したのはシュガーキューブスというグループで、彼女とともにフロントを務めたのがエイナル・オゥルン。彼は現在も音楽を作っているが、特徴のある絵を以前から描いていて、昨年の暮に個展を開いた。

彼が共同経営する音楽ショップSmekkleysaの店内でも彼の絵は見られる

コロナ渦の今も展示会は行われているが、寂しさが拭いきれない。集まるのが数百名でも数名でも、規模にかかわらず、展示会初日の、あの高揚感を肌で感じることができないのは、とても寂しい。

無論、美術館側も策を練らないわけではない。アーチストによるオンラインのミュージアム・ツアーなどは行われるようになった。けれど、どうしても食指が動かない。

作品の魅力は、やはり生で見ることにある。大きさや質感が平たい画面上ではわからない以上に、足を運ぶところから「鑑賞する」ことは始まる。何が飛び出すのかワクワクしながら美術館へ向かうのは、プレゼントされたおもちゃの包みを開ける子供のような気分でもある。

アイスランドの当局関係者はワクチンでは集団免疫を獲得できないと読み、緩やかに国民の70%が感染することが必要であるとの考えを数ヶ月前に発表した。先行きが不明なのはどこの国でも同じだが、規制は徐々に緩和される気配ではある。

アイスランドは幸にしてロックダウンはなかった。それでも私が大好きな音楽ライブやアート展は大きな打撃を受けた。その分もこれから跳ね返して、規制の緩和に沿って、賑やかに、華やかに、以前のように楽しむことができるように、なれ!!!

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。