政治を斬る!

こちらアイスランド(39)人口53人の港町にたたずむ「廃墟アート」〜小倉悠加

孤島で物資に乏しいため、創意工夫がものをいうアイスランド。魚の加工工場跡をアート界隈が利用するのはよくあることで、デュパヴィク(Djúpavík)のTHE FACTORYもそんな場所のひとつだ。ギャラリーの名前からして、「ここが工場じぁ〜!」と廃屋であることを個性として主張する。

アイスランドはニシンの豊漁に恵まれ、1900年初頭から加工工場が各地に出現した。しかし1960年代末には、濫獲でアイスランド周辺の海からニシンが全く姿を消してしまった。当然、工場は閉鎖に追い込まれる。

そういった工場の廃墟は寂れた港町に数多くあり、閉ざされたまま荒れ放題のところもあれば、観光や地元活性化要素のひとつとして、有効利用を試みているところもある。デュパヴィクは後者の代表のひとつだ。

(地図:ピンク色の点がデュパヴィク)

デュパヴィク:レイキャビクから約340キロ、車で4時間弱かかる、アイスランド北西部の小さな集落。公共の交通はない。道路は夏のみ整備され、冬は放置なので、通れないこともある。人口53名(季節により変動あり)。

集落にはホテルが一軒あるのみで、商店は存在しない。人口や交通の便の悪さを考えると、ホテルが存在すること自体が驚きだ。アート・ギャラリーのTHE FACTORYは夏の間(6-8月)だけのオープン。天候により、9月初旬であれば開いていることもある。

この小さな村落にあるアート・ギャラリーのTHE FACTORYは、日本の「箱もの」とは全く異なる。まずは「箱ありき」で、後から中身は考えようではない。

ん?いや、真逆の意味で「箱ありき」か!朽ち果てそうな箱があるので、利用しようという発想。

彼の友達が借りた一軒家に部屋の空きがでたから来ないか?と誘われ、9月第一週の週末にデュパヴィクを訪れた。2年前に行った時は日帰りだったので、二泊三日はありがたい。周辺もたっぷり見てきた。

奥の建物がアート・ギャラリー。美しい滝もこの街の名物だ

THE FACTORYは廃墟だ。これぞアートという華やかさには欠ける。でも、それも雰囲気のうちと思えるところがいい。建物のドアの上に「Screening(映写)」や「Exhibition(展示)」と書いてある。その下の文字はーー老眼とは無関係でも読めない!何と書いてあるのか想像がつく人がいたら、教えてね。

それではドアを開けて、中に入ってみよう。

とりあえず屋根だけは直したが、まだ手付かずのスペースは多い

あれ?全然ドア開かないじゃん。そうか、もう9月だもんね。夏限定と書いてある場合、アイスランドでは6-8月末までが夏だ。ということは、一足遅かったか・・・。残念。

と思いがちだけど、違うんだよ〜、入口は別の場所にある。押してダメなら引いてみる。表がダメなら裏に回れ!これ常識、でしょ?違う?!違うか。

ここに何があるかを知らなければ、足を踏み入れようと思わないような外観(2019年撮影)

朽ち果てそうなタンクの間に入り口が隠れてた。こんなん、普通わからないっすよね〜。ちょっとそこのお兄さん、入っていかない?ぜったいに怪しくないし、怖くもないから大丈夫。と言われても、引くような風情。

この外観だと、日本ならお化け屋敷にしちゃうかな・・・。

ドアのところに申し訳なさそうに貼ってあったのがこれ
右手の机の上には、ゲストブックと寄付を受け付ける空き缶が置いてある

廃墟は外観だけで、館内はびっくりドッキリの煌びやかさ!とは、誰も思わないっすね。はい。ご想像通り、中に入ってもかなりの廃墟。おまけに少し魚くさい。そして島国日本の港町も知ってる東京生まれの私は、この魚臭さに、ちょっぴり郷愁を覚えたりする。

大きな展示物があってもガランと感じるほど場所は広いし、廃墟が持つ独特の雰囲気が私は好きだ。この場にいると妙に心が落ち着く。清貧が身についている証拠か。高級ホテルに入って狼狽えてしまう時は、「ここは廃墟だ」と言い聞かせることにしようと思った。

館内に流れるアンビエントな音楽はお洒落だし、高い天井を利用しての羽衣の流れも美しい。空調も自然なので(=すきま風)、展示物に動きや影も出て、なかなか〜。

このギャラリーはアートを見るだけではなく、参加型も目指している。例えば黄色い吊り物体(上の写真参照)の中に入ると、内側に描かれた大量の魚の絵がクルクルと周り、海の中で魚の大群に遭遇したかのようで、なんだか楽しくなる。沖縄の海で見た大量の小さな魚を思い出した。

この造形の展示の奥では、数年前に氷河の認定を取り消されたOK(オーク)の「NOT OK (OKではない)」が上映されていた

私はキモカワが好きなのか、前回来た時はシッガ・ビヨルグの造形が好きでたまらなく、今回はJasa Baka(読み方不明)の焼き物の造形とコンセプトにウキウキした。作品は、前からでも、後ろからでも、内側からでも、顔が見えるようにデザインされ、どこから見るべきと決めつけるのは変じゃない?と語りかけられているような気がした。人生も、日常の生活も、前も後もないんじゃないの?と。

その他、2021年の展示物に関しては、以下のサイトで詳細があるので、興味ある方はぜひご参照を。

廃墟自体をアートに見せるためにもアートが必要(2019年撮影)

日本で「芸術」と聞くと、思い浮かべるのは高名で値段の高い絵画や彫刻ばかりだ(私だけ?)。芸術とは高尚なもので、下賎な庶民の私ごときには理解できないもの、と刷り込まれてきた気さえする。

最近、「芸術」と「アート」という言葉に、私の中での定義が確立しつつある。芸術は前述の通りの高尚と呼ばれるもので、アートは何でもありの世界。他の人が認めずとも、私がアートだと思えばそれはアートなのだ。独りよがりが許される。だから余計に、自分の脳内で自由に遊べて楽しいのかもしれない。

アイスランドに拠点を移してからは、ピンキリのアートに触れてきた。意表を突いて、非日常を運んでくれる楽しい物事なら、何でもアートなのだ。そんなアート感が芽生えたのが、タダ酒につられて数をこなしたせいなのか、土地柄の違いなのかはわからないけれど、以前よりも自由に楽しくアートに触れることができて、とても嬉しく感じる。

二泊三日で町を出る前に現れた虹。この集落に幸多きことを願った

デュパヴィクにある施設はホテルが一軒と、夏の間だけオープンしているこのギャラリーのみ。商店はない。消え入りそうな小さな集落だけど、アート・ギャラリーがあるというだけで、町の雰囲気が魅力的になる。

箱がアートを作るのではなく、アートが箱をアートに昇華する。外観は廃墟だけど、中身がアートだと分かっているだけで、その集落全体までお洒落に思えてくる。アートって不思議だよね。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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