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こちらアイスランド(40)フランス革命の遠因となったラキ火山はこの国にあった!〜小倉悠加

今年の夏はアイスランドの山道を走り続け、雄大な景色を呼吸してきた。だからこそ街中の、人の往来に紛れての文化の日々を楽しみにしてきた。

芸術の秋なので、読者の皆さんの期待もあろうかと(鮫島さんも)、文化ネタを試みたものの、なんとなくまとまらない。なので、夏休みの続きに戻ります(すいません)。

アイスランドの夏季休暇シーズンは6月から8月下旬まで。学校は3ヶ月間、会社員は6週間の休みがデフォルトで、夫は7月から5週間連続で休みを取り、残りの一週間は何回かに分けて取った。

休暇中、何が大変かといえば、食事作りとかそーゆーのじゃなくて、急に「天気が良さげだから、キャンプに出よう!」という突然の宣言。え?先週末に帰宅したばかりだから、今週はずっと家にいるんじゃなかったの?という理屈は通らない。

アイスランドでは晴天が神よりも格が上だ(たぶん)。国民の思考ベクトルは「晴天に仕事するバカ」なので、晴天日は公的機関の臨時休業さえあり得る。

アイスランド一周中、長時間ドライブの疲労が溜まっていた晴天日に「室内から外を眺めればいいじゃ〜ん」と室内のまったりを提案すると、彼は暗い顔をして「外で太陽を楽しまないなんて、何と罪深いことよ」と呟いた。

まったく困った国民性だ。夏の灼熱地獄を知らないから、「太陽=楽しい、嬉しい、最高!」のマインドなのだ。人々は日照に操られる。もしやこれが太陽信仰のルーツか?

この時期によく見かけるシレネ・ユニフローラ。他の植物が生えない砂地に見事な花を咲かせる

アイスランド一周後は少しゆっくりしよう。ドライブに出たとしてもレイキャビク周辺にしようと合意をしていた。両性の合意だ。それに従い、私は週の予定を立てていた。なのに、なのに、そんな男の言葉を信じた私が甘かった。舌の根も乾かぬうちに飛び出したのがーー

「明日からキャンプへ行く!」宣言。

ご都合主義の政治家のように、コロコロと言うことが変わる。それも月曜夜8時に決定。出発は翌朝の早朝。その上「たぶん一泊二日」。「たぶん」とはナニゴトだ!?「たぶん」ってそんないい加減な話はないだろう。プンプコ。

早朝出発は辛い上、この週に計画していたことが全部流れる。じぇ”〜〜!!

目的はF道(=夏の数ヶ月間のみオープンしている山道)を走ること。名勝地に寄るのは二の次で、車を走らせ、犬の如くあちこちタイヤの跡をマーキングすることが目的だ。目的はどうとも、連れて行かれることには変わりない。

晴天の貴重さを熟知する理解力の高い妻ではあるが、素直には従わず、少し遅めに出発。それでも朝9時半だったかな。

それでは出発。

最初の絶景ポイントは、通り道にあるので寄ったフャドラグリューヴル(Fjaðrárgljúfur)という舌を噛む名前の場所。南東部の峡谷で、入り組んだ断崖絶壁や滝がとても美しい。

超人気者のジャスティン・ビーバーという男子がここでミュージック・ビデオを撮影してしまったため、隠れた名所が世界中のファンに知れ渡り、人が訪れすぎて遊歩道が大荒れ。作り直すために3ヶ月ほど閉鎖に追い込まれた場所。

1号線から少し離れるだけで来られる。普通乗用車で大丈夫。

この場所を眺めつつ、軽く持ってきたものをつまんでランチ。鳥のようにナッツをついばみ、先を急ぐと間もなくF206号線に入る。

F206はヨーロッパ最大の氷河、ヴァトナヨークトルを抱く国立公園内にあるラカギガル(Lakagígar=Lakiの火口)への道で、全長40キロ強。語彙力の差に関わらず、「うわ〜、うわ〜、すごい」しか言葉が出なくなる景色が続く。

そして現れたのが最初の滝スポット。「ここには有名な美しい滝があるそうだ」という彼の言葉は、私の脳内で「滝はアイスランドの国中どこにでもある。背後に氷河を抱いてりゃ当然滝があるだろう。いちいちウルサイなぁ!」と翻訳されていた。

そして車を停めたのがここだった。

有名な滝にしては規模感に欠けるし、駐車場もない・・・

彼はしきりに「見逃さなくてよかったね」と言う。「うん、カワイイね」と私。

どんな滝でも私は大好きだ。有名にしては小ぶりに思うが、解釈範囲の広い日本語の「カワイイ」という表現でここは逃げておいた。ちなみに彼は「かわいい」という表現の使い方を熟知している。

例によってドライブのお裾分け動画。こんな風に川の中を車で走っていく。

こうして川を渡ると、程なく見えてきたのが、滝があるという看板。え?!やっぱり!さっきの滝は「有名な滝」じゃなかったぞ。という、あるある勘違いで苦笑。

ファグリフォス(Fagrifoss=美しい滝)

ここであれば「有名な滝」も納得。水量が少ない時期で少し控え目ではあるが、水量が多い時はさぞや流れが広がり、豪快でより美しくもなろう。髪の毛の長い女性を思わせる風情で、「美しい」という名前がつけられたのもうなずける。

ちなみに、先ほど渡った川はこの滝に水が流れ落ちる手前の部分だった。

「ウハハ、さっきのちっこい滝、やっぱり有名なやつじゃなかったね」と苦笑しながら先を急ぐ。「僕もさぁ、あれってかわいすぎると思ってたんだよね。ウハハ」と悪びれない。かわいい性格の人でよかった。

これが世界的に大きな影響を与えたラキ火山群の一部。

SAMEJIMA TIMESの読者のみなさんは、ラキ火山のことはご存知だろうか?フランス革命の原因が、飢餓であり、農作物の不作の原因が火山噴火だったことはどうだろう?その元凶がこのラキ火山なのだ!

ここでWikiの受け売りを。この火山は何度か噴火をしている。934年の噴火は人類が知る限り最も大規模な噴火のひとつで、1783年の噴火はヨーロッパに異常気象をもたらした。その影響はヨーロッパのみならず、北アメリカやアジアにまで及び、日本では浅間山の噴火と重なっての冷害により天明の大飢饉が起こった。

ラキの猛威は凄まじく、噴火は26キロメートル、130以上の噴火口が現れたという。私は今年3月に噴火した可愛らしい火山しか見たことがないが、それでも物凄いパワーだ。それ以上の規模の火山が100以上あるというのは、全くもって想像を絶する。

ラキのスタッフが、周辺の状況を丁寧に説明してくれた。このサービス、最高。ありがとう!

ラキに到着すると、スタッフの男性が丁寧にハイキングのコツや所要時間等を教えてくれた。ラキ山は標高818メートルで、歩く距離は短いけれど急斜面になる。足場は確保されているというので、登ることにした。頂上からは東と西の両側に伸びるラカギガル(火山帯)のクレーターを直線上に見ることができるそうだ。

それじゃ登ろう。

熟年ながら見た目よりも健脚の私たち(火山見学で鍛えられた!)、途中休むことなく順調に登り、30分後には頂上へ。

ここの景色もすごかった。絶景といえば絶景だけど、世界最強の火山郡を一眼で見られる圧巻のロケーション。「人生、こんなんでいいんですか?」という意味のない問いかけをしてしまう。

確かにクレーターが列になって出現してる。言葉にならない圧巻の眺め。こちらが南西側(のはず)
私の記憶ではこちらが北東側。きれいに一列の線上に火山の噴火口が連なっている。

3月に噴火を見た時、現地へ出向くフィールドワークがいかに大切かを痛感した。地から火の液体が吹き出ているのを見たという実体験から、自然を見る目が変わった。噴火の仕組みや溶岩の種類、ひいては地球はどうしてこの姿なのか?という壮大なことまで考えるようになった。普通、そんなこと考えないっしょ?

火山噴火見学をしていなかったら、おそらく私たちはこの山に登ろうとは思わなかった。野次馬で噴火を見に行ったことが、その後のアイスランド旅行に大きな影響を与えた。野次馬精神も、時には大切。

下山の途中で撮った写真。夕方の19時過ぎ。7月の日照は長い。影も長い。
手軽に寄れる火口湖のひとつ。周囲の火口も含めてぐるりと歩けるコースも整っていた。
興味深い地形の場所が盛り沢山。苔のやさしさが、溶岩の荒々しさを覆い隠す。

火山地帯の周辺は不毛の地が続き、植物と言っても苔が生えている程度のところばかりを通ってきた。車中から眺めるラキ火山群は、地球とはかけ離れている場所のようでシュールだった。

この時点で既に夜の9時。私はそろそろ、というか、いい加減休みたい。ゴハンも食べたい。途中、キャンプ地があったので、干からび始めたサンドイッチを食べながら、ここに宿泊するのがいいんじゃない?と言っても、どーも彼は近隣の大きな街まで戻りたいらしいーーーというような、彼と私の間にそこはかとなく勃発する攻防合戦が繰り広げられた。

そんな意味のない緊張と疲れが続く中、突然、心が洗われる風景が目に飛び込んできた。砂漠の中に突然現れたオアシスだ!そこには道路を横断する川も。

彼にしてみれば「こんな場所で川。聞いてね〜よ」だった。対向車が川を渡るのを待つほどの時間の余裕もなければ、こんな夜に走っている車はほとんどいないため、自己責任で進むしかない。

運転すべき指針は川から見えている。まぁ大丈夫なのだろうと判断して進む(動画)。

動画はラキ火山群の砂地を走り、オアシスが現れ、川を渡った。

7月半ばはアイスランド住民の大移動月。近隣の街キルキュバイヤルクロイストゥルに到着したものの、キャンプ場はどこも満杯で入れてくれない(涙)。街から少し離れて、ようやくキャンプ地を見つけた。「もっと早く戻って眠りたかった」と例によって私がブリブリしながらも、運転手の方が大変だっただろうと、ねぎらいの言葉なども挟んだーーーような気がする。

疲れたけど、とても充実した1日だった。ラキの火山群を見て、私の中の火山、が今まで以上に雄大で、とてつもないものになった。自然は本当に奥が深い。そして翌日の旅は、F道にはしゃぐ私たちに大きな教訓をもたらすことになる。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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