高山植物の花は可憐だ。日本では標高が高い場所へ行くと、平地では見ない可愛らしい花を見かけた。日本に生まれ育った私は、高山植物とは文字通り高い山の植物だと思っていた。
アイスランドにも高地があり平地がある。高地の植物と平地の植物がどれほど違うのかまだわかっていないが、平地には高山植物が生える。というか、この国で見るのは高山植物ばかりだ。
高山植物は気候が厳しく平均的に気温が低い場所に姿を現す。アイスランドは亜寒帯なので、平地でも日本の高山に等しいか、それ以下の気温にしかならない環境にある。
アイスランドでは高山植物が平地に育つんだ。へ〜、それって高山植物じゃないよね、平地なんだから。ん?でも高山植物は高山植物だよねぇ、だけど平地だぞーーー。
言葉を生真面目に捉えすぎる傾向のある私は、頭が混乱してくる。
屁理屈を捏ねているつもりはない。表現が発生した基準が異なるからややこしいのだ。日本の基準はアイスランドの基準には当てはまらない。反対も然りだ。
今日のレイキャビクは最高気温が17度まで上がり、汗ばむほどだった。最高に暑い夏の天気!と、滅多にない夏日を満喫しようと、レイキャビク市民はこぞって太陽を浴びた。
日本ではどうだろうか。最高気温17度は初春であろう。17度を真夏の暑さと表現するアイスランド人。同じ気温を押し並べて涼しいと感じる日本人。
言語は気候や文化の差が如実に反映されたものなのだと、改めて感慨深く思ったりしてる。
アイスランドの植物をSAMEJIMA TIMESの読者のみなさんにご紹介する際、どのような表現が一番わかりやすいのかーーーうーん、やっぱり高山植物なんだよなぁ、平地に生えてるけど。平地なんだから高山植物じゃないよね?!と永遠の堂々巡りに突入。要は平地に生えてますが高山植物です。あぁ、何ともスッキリしない!
なぜこんなことを書き始めたかといえば、先日郊外に出た時、今年初めて、アイスランドの国花ホルタソーレイ(Holtasóley=チョウノスケソウ )を見かけたからだ。
高地の岩場に咲く最も美しい花とされているこの花は、白と黄色のコンビネーションが雪の中の太陽を思わせる。爽やかな白い花弁がとても清楚で、こっくりとした黄色も気品に満ちている。見れば見るほど、心に響く音を持つ花だと思えてくる。大好きだ。
いつどのような方法で国花を決定したのか知らないが、国を代表する花として、素晴らしい選択をしたと思う。
けれど、実は以前までそうは思っていなかった。夏になると決定的に目立つのは、外来種のルピナスと、花弁がキラキラと輝くソーレイ(太陽)という名前を持つ黄色い花だ。
ソーレイは目立つ。圧倒的な輝きを放つ。見渡す限りの一面を覆い尽くす。黄色い花の大群はお見事としか言いようがない。真ん中の花の写真を拡大できるだろうか。よく見ると花弁にラッカーが塗られたかのようにツヤツヤなのだ。七色に光りそうなツヤツヤの花びらが、夏の日差しをさらに眩しくする。
この花の方が国花にふさわしいのではと思っていた。ホルタソーレイも季節になればあちこちで見かけるが、これほど群生はしない。要は目立たないのだ。
そんな私が今年初めてホルタソーレイを見た時、「これだ!」と頷いた。理由は自分でもわからない。もしかしたら、ホルタソーレイの媚びないところ、群れないところに惹かれたのかもしれない。独立心が強そうな気がした。
夏のアイスランドには他にもたくさんの、可愛らしい草花が生い茂る。薬効があると言われる植物も少なくない。我が家では上の写真にあるタイム入りのウォッカが大好きで、毎年アイスランド各地で草花を摘んではウォッカに入れる。数ヶ月後には実に個性的な香りのハーブ酒が出来上がる。寒い季節に夏の思い出をつまみにしながら、チビチビといただくのが文字通り最高の酒になる。
折をみて、酒になる植物もご紹介したいと思っている。
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。