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福祉・介護のある風景(13)介護事始め「脚について」~橘 世理

私は、福祉の現場でも仕事をしている。先日、「家の中に手すりを付けたいから、地域包括の電話番号を教えて」という問い合わせがあった。86歳の方である。

その方は、福祉施設の体操教室に通っている。歩行器を利用しているので介護認定を受けていると思っていたが、手すりの問い合わせがあり、認定を受けていないことがわかった。

この方のように手すりを付けたいなら地域包括支援センターに問い合わせをした方がよいとアドバイスをしてくれる人がいればよいが、どうすればよいのかわからない人は多い。

今回も、必要な人へこの記事が届くようにと願いながら、脚が衰え始めた高齢の親の対応をするにはどうすればいいのか?これをテーマに、親と子という設定で記したい。

衰えは、「脚」からやってくる。そう思って間違いない。

1 立ち上がる時につかまるものを探すようになった。

【親の変化】

・椅子から立ち上がる時に両足のみで立ち上がっていたが、近くにあるテーブルなどをつかんで立ち上がるようになった。

・立ち話をするときにテーブル、椅子、壁などに寄りかかることが増えた。

・疲れたを言う回数が増え、すぐに座る。

・毎日、外へ出ていたが出なくなった。

【子の受け止め方】

足腰の衰えが始まっているのかな?

【子が実行したこと】

・脚の筋力強化のため、家から徒歩圏内にある福祉施設や公的スポーツセンターで行われている高齢者向け体操教室を探した。

→問い合わせたのは、地域の社会福祉協議会、役所の福祉課。

・親に自力歩行を強制せず、杖の使用を促した。転ばぬ先の杖と言われるので、1本用意しようと親に話し杖を購入した。

→杖は福祉用具店で購入した。

転倒防止のため、玄関では椅子に座って靴を履く。


2 歩幅が狭くなった

【親の変化】

・歩く時の歩幅が狭くすり足になってきた。

・歩行時に足先が上がらないためつまづきが増えた。

【子の受け止め方】

このままでは転倒するかもしれない。

【子が実行したこと】

・杖を利用し、体操教室にも通っていたが、歩行がスムーズになるためのリハビリテーションも始めた。(以下リハビリと略す)。

リハビリはリハビリルームのある整形外科を選んだ。理学療法士が歩行がスムーズに運ぶための筋トレなどのアドバイスをしてくれる。女性の場合は骨粗鬆症の治療もでき、膝に問題があれば検査し、処置してくれる。

【今後予想できること】

・買い物代行。通院の付き添い。手すり設置。地域包括支援センターに健康、介護相談をする。

買い物の付き添い、緩やかな傾斜でも歩行器を支える。


3 買い物ができなくなった

【親の変化】

・牛乳など重たい物を運べない。

・家の中で伝い歩きが増えた。

・徒歩圏内の病院にひとりで行けなくなった。

【子の受け止め方】

通院付き添いと買い物代行などはしているが、仕事もあるために親のケアに時間を割けない。精神的負担もあるのでこれ以上の負担は避けたい。

【子が実行したこと】

・地域包括支援センターへ親の健康、介護相談をした。面談の結果、要支援2の介護認定が出た。

・ケア・マネージャーに相談し、福祉用具店にトイレ、ベッド脇に手すりを設置してもらった。

・親は独居のため、買い物代行、家事代行の介護サービスを頼んだ。

【今後予想できること】

・歩行器、電動式ベッドの使用。転倒事故。

4 つまづいて転倒事故が起きた

【親の変化】

・外では歩行器使用。

・家の中でカーペットの端につまづいて転倒した。

【子の受け止め方】

・いつか骨折をするかもしれないと不安になった。

【実行したこと】

・縁が捲れかけているカーペットを撤去した。

・動線上の足を引っ掛けそうなコードは壁を這わせるようにした。

・家の中の段差をできる限りなくした。

・親に滑り止め付き靴下を履いてもらった。

・手すりを増設した。

【今後予想できること】

・ひとりでトイレへ行けなくなる。

・入浴介助も必要になる。

・通院も車椅子を使用する。

今回は、親と子という設定にし、例を挙げた。読者の中には親の介護がそこまで迫っている人もいるかもしれない。個々に状況が異なるので、それぞれ自分に照らして参考にして欲しい。

老化というのは待ってくれない、思いの外、早く進む。この前まで杖さえあれば通院はひとりでできたのに、あっという間に病院も付き添いが必要になるほど歩行が不安定になってしまう。

介護は、先手を打つことで大きな難を逃れることができる。私は、父の介護生活でそう思った。「まだ必要ない」「まだ大丈夫」、その気持ちはわかるが、老化は待ったなしだ。大丈夫なうちに手を打っておくことが、介護を少しでも楽にする方法だ。

ケア・マネージャー、訪問ヘルパー、介護経験者が、この先、こうなりますよ、と言った事には耳を傾けることも大事だ。自分の家族は「まだ大丈夫」という自分の欲目や思い込みではなく、専門家の観点から、客観的に経験やデータに基づいて次に起こるであろう事柄を予測してもらえる場合が多いからだ。

写真:橘 世理       イラスト:Kiyoshi

橘 世理(たちばなせり)

神奈川県生まれ。東京農業大学短期大学部醸造科卒。職業ライター。日本動物児童文学賞優秀賞受賞。児童書、児童向け学習書の執筆。女性誌、在日外国人向けの生活雑誌の取材記事、記事広告の執筆。福祉の分野では介護士として高齢者施設に勤務。高齢者向け公共施設にて施設管理、生活相談を行なう。父親の看護・介護は38年間に及んだ。