「夜に爪を切ってはいけない」、祖父母から度々そう言われた。
親の死に目に会えないからというものだったが、実際は、暗い所で爪を切ると怪我をするかもしれないから危ないという理由だった。
現代では煌々と灯りを点けて爪切りでも何でもできるが、昭和時代以前は、電灯も暗く、ましてや明治時代以前は電灯もなく、江戸時代は行燈の灯りで暮らしていた。
とくに子どもたちに暗い中で爪切りをすると怪我をして危ないという事を伝えるには、「親の死に目に会えないぞ」という言い方をすると効き目があったのかもしれない。
さて、今回のテーマは「爪切り」。
我が90歳母の足の爪は、なかなか手強い。
1️⃣ ばあちゃんは、なぜ自分の足の爪が切れなくなったのか?
「困ったもんだよぉ」これは私の祖母の口癖だった。
祖母は明治45年(1912)生まれ、2026年の今、生きていたら114歳だ。
もしばあちゃんが健在なら、今もこの口癖を連発しているだろう。
そのような想像をしてみると、祖母の事が思い出されて懐かしい。
子どもの私には、年を重ね、高齢になるとできない事が増えてくるということを知らず、祖母に若い頃があったということも頭には無かった。
私にとり祖母は、初めからできない事が多い人として存在していた。
祖母の「困ったもんだよぉ」の中のひとつに足の爪切りがあった。
祖母は80歳で亡くなったが、70代後半には爪切りを持つ手が足の指先へ届かなくなっていた。
1991年に亡くなった祖母の時代の人たちの身体機能は、現代の人たちよりも低下することが早かったように思える。勿論、個人差はある。
祖母のように爪切りを持つ手が足の指先まで届かなくなる理由には、身体機能の低下、視力の低下(老眼など)がある。
爪自体の変化もあり、これは通常の爪切りでは切れない場合もある。
私の母が自分で足の爪切りができなくなったのも、上述のような理由からだ。
母を見ていて、ばあちゃんもそうだったなと思い出す事がたくさんある。
2️⃣ 爪が硬くなってきた
3年か4年ほど前、私の指の爪の表面が剥がれてきたことがあった。
爪の表面の出来事なので気にしながらもそのままにしていた。
ふと、乾燥してるのかしら?と思い、保湿クリームを手足の爪に擦り込んでみた。
それから一週間で剥がれ始めた爪の表面部分に変化があり、不要なものは剥がれ、きれいな爪が現れた。
勿論、手と指にはハンドクリームを擦り込むが、爪にまで丁寧に擦り込むことはしていなかった。そもそも雑な性格なので、自分の事はいい加減なのだ。
その経験から、母の硬くなった足の爪を見た時にピーン!ときた。
これは間違いなく乾燥だと思った。
皮膚科の医師に訊いたところ、加齢による水分、油分が減り、乾燥するということだった。
血液の流れが悪いと、爪が厚くなり変形もする(肥厚爪)。
こうなると通常の爪切りでは切れなくなる。
母の足の爪の写真は、母も可哀想なのでお見せしないが、厚く、硬く、変形している。
わずかに巻き爪なので、伸びてくると痛みも出てしまう。
ところが母の足の爪は、右足の爪が厚く、硬く、変形しているが左足の爪にそれは見られない。
20年前に母は、自転車で転んで左脚を打撲した。
それ以来、左脚が怠いなどの後遺症があるので、知らぬ間に右脚で庇っているのだろう。
長い年月を経て右足指に負担がかかり、爪が変形してしまったのか。そのような推測をしているが、本当の理由は判らない。
また、母の爪は、乳白色になり、硬くなっている。
昨年、病院で白癬菌(水虫)の有無を検査したら、感染はなかった。
今は、就寝時に足首から下に保湿クリームを擦り込み、爪と生え際にもクリームを擦り込んでいる。
このようなケアも、検査で白癬菌がないと判明したので、安心してできるのだ。
※
肥厚爪(ひこうそう)…血流不足などで爪が分厚く変形することをいう。通常の爪切りでは切れない。
巻き爪…不安定な歩行、足の変形で起きる。皮膚に爪が食い込んで痛みを生じる。
3️⃣ 我が家の爪切り

皮膚科で購入したニッパー式爪切り
母の変形した方の足の爪は、通常の爪切りでは切れないため、写真にあるニッパー式爪切りで夫が切っている。
私の母の介護記事によく登場する私の夫は、4人の介護経験者なので様々な事を行ってきた。爪切りも然りである。
夫が使っているニッパー式爪切りは、夫の母親も爪が厚くなり、硬くなったために皮膚科から購入したものだ。
使い方は、皮膚科医から指導を受けている。

グリップが握りやすい
ニッパー式爪切りは、よく切れる。
90歳の母の足の爪、とくに親指の爪は、何かに引っかけたら爪が剥がれてしまうのではないかとひやひやするまで伸びていた。それをバッチンバッチンと夫は手慣れた様子で切ってゆく。
私もできるようになりたいが、まだまだ夫任せだ。

少しずつ丁寧に爪を切る
4️⃣ 皮膚科がやってくれる爪の事あれこれ
独居の高齢者の中には、爪の悩みを誰にも相談せずに「ひとりで何とかしている」人がいる。
爪なので、人に相談する、病院へ行くという発想がないのだろう。
巻き爪で、爪が食い込んで痛みがあっても、所謂、傷バンを巻いて凌いだり、爪の角を爪用ヤスリで削ったり、日々の苦労も痛々しい。
そのような痛い話を耳にしたときには、「皮膚科へ行ってください」と伝えることにしている。
「自分では切れなくなった厚い爪も切ってくれます」
「爪が皮膚に喰いんだら、歩くのもつらいですよね」
「白癬菌(水虫)の感染も検査してくれます」
「爪は皮膚の一部ですよ」
「痛い毎日にサヨナラして、治しましょう」と言い、爪で苦しむ高齢の方に皮膚科の受診を勧めている。
最後に、身体上、爪にはどのような機能的な意味があるのか調べてみた。
【指先の保護】
指先の柔らかい組織を守る盾の役割を担う。
外部からの衝撃や摩擦から指先を守り、感染予防にも寄与する。
【精密な動作の補助】
つまむ・押す・引っかける動作を補強する。
爪があることで、指先に力を集中させやすくなり、細かい作業が可能になる。
【感覚の強化】
爪があることで、指先に加わる圧力や振動がより繊細に伝わり、触覚の精度が上がる。
爪と指先の神経が連動し、細かい作業時の感覚情報を補強する。
老化によってこれらの爪の機能も徐々に衰えるのかと思いながら、
母の爪をしげしげと見つめてしまった。
写真:橘 世理

橘 世理(たちばなせり)
神奈川県生まれ。東京農業大学短期大学部醸造科卒。職業ライター。日本動物児童文学賞優秀賞受賞。児童書、児童向け学習書の執筆。女性誌、在日外国人向けの生活雑誌の取材記事、記事広告の執筆。福祉の分野では介護士として高齢者施設に勤務。高齢者向け公共施設にて施設管理、生活相談を行なう。父親の看護・介護は38年間に及んだ。