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全国の自治体が個別に運用している情報システムを統一すれば、コストを大幅に削減できる!〜池野青空

デジタル庁が発足し、岸田政権がデジタル田園都市構想を発表した。新たに成立した法律のもとで、地方自治体が抱える住民基本台帳などの基幹業務システムを統一し、政府が用意するガバメントクラウドへ移行する計画について考えてみたい。

■外資に情報を管理させて大丈夫か?

政府は、ガバメントクラウドのプラットフォームとして、AWS(アマゾンクラウドサービス)とGCP(グーグルクラウドプラットフォーム)を選択した(2022年4月時点)。いずれもアメリカ系の巨大IT企業だ。

そのプラットフォーム上で動作するアプリケーションを、政府が標準化した仕様に準拠して、民間企業が開発する。各自治体は、その中から自分達に最適なアプリを選んで実装する。サービス開始後は、使用料を払うだけだ。

デジタル庁が新たな制度を説明する資料はシステム用語があふれていて、とてもわかりにくい。そこで、鉄道に例えてわかりやすく解説してみよう。

現在は各自治体が独自に鉄道を持っている。独自に線路を引き、独自に電車を開発して線路を保守し、運転手、駅員、保安員などを雇って運営している。これでは非効率だ。そこで、政府が線路や電車の仕様を全国的に統一し、実績のある複数の鉄道運営会社に管理運営を任せる。車両製作会社はこの統一化された線路に適合した電車を開発する。自治体は好きな電車を選ぶだけでいい。後は運営会社がベテランの運転手、駅員、保安員などで管理運営していく。自治体はサービスが気に入らなければ、他の電車に変更することもできる。コストは使用料を払うだけである。

「鉄道」を「基幹業務システム」に、「電車」を「アプリケーション」に、「車両製作会社」を「アプリの販売業者」に、「鉄道運営会社」を「クラウドサービスを提供する業者(AWSとGCP)」に、「線路や駅」は「サーバーなどのハードウエアやネットワーク」に、「運転手や駅員」は「システム管理要員」に置き換えればイメージしやすいのではないか。

政府が目指しているのは、AWSやGCPなどのクラウド、その他システム環境(OSやデータベース、仮想サーバー技術など)に依存しない、透過性の高いシステム環境の構築である。例えば、AWS上で動作するN社製のアプリを実装した自治体が、GCP上で動作するH社製のアプリに、比較的短期間で移行することもできる。移行にともなうコストもさほどかからないとみられる。将来的には国産のクラウドサービスへ移行することもできるだろう。

今回選定されたAWSやGCPは、日本法人がサービスすると言っても、もともとはアメリカの企業だ。海外企業のシステムに、国民の個人情報の管理を任せて問題ないのか、個人情報が海外に流出するリスクに対処できるのか。不安を感じる人も少なくないだろう。

しかし両社とも、ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)という「政府情報システムにおけるクラウドサービスのセキュリティ評価制度の基本的枠組みについて」(令和2年1月30日サイバーセキュリティ戦略本部決定)の要求事項を満たしてISMAPクラウドサービスリストに登録されている。この要求事項は1,298項目あり、大変厳しい管理基準だ。

デジタル界の技術革新のスピードは早く、情報管理体制は常に見直す必要があるが、現時点ではISMAPの基準を満たしていることで一定の信頼を得ていると判断してよいのではないか。むしろガバメントクラウド移行によるメリットはリスクをはるかに上回ると私は考えている。

■自治体の基幹システムの統一は技術的に可能

ガバメントクラウド先行事業(市町村の基幹業務システム等)の採択結果として、神戸市、倉敷市、盛岡市、佐倉市、宇和島市、須坂市、美郷町、笹置町の8つの市町村が選ばれた。2022年度中に移行を行い、様々な評価を行う計画である。

この選ばれた市町村の中で一番人口の多いのが神戸市で、2022年3月1日時点で約151万人であり、今回の計画として2021年度は約1億3157万円、2022年度は3億2075万の予算が計上されている。単純に2年間で約4億5千万円のコストがかかり、一人当たりのコスト負担額は2年で約300円である。

一番人口の少ないのが京都府笹置町で2021年2月1日時点の人口は1128人である。それでも2021年度に8237万円、2022年度には1億9083万円の予算が計上されている。同じく単純計算で、2年間で約2億7千万円のコストがかかり、一人当たりの負担額は実に2年で約24万円である。

ちなみに埼玉県美里町の場合は、人口が2022年3月時点で1万980人、コストは2021年度2億6053万円、2022年度は7596万円の予算が計上されている。一人当たりの負担額は2年で約9300円である。

これら先行事業の後には、全国で約1500を超える自治体が、同じようにガバメントグラウドサービスに、同じようにコストをかけて移行する予定である。これでは全国のIT事業者のための公共事業であると思われても不思議ではない。

Amazonのプライム会員数は全世界で2億人(2021  年4月のデータ)、Facebookの月間利用者数は29億人(2021年10月のデータ)である。自治体の基幹業務システムのトランザクション(住民票の移動など)は、これらネットショッピングやSNSに比べたらゼロに等しい。日本の人口1億2500万人の自治体の基幹業務システムを一つのシステムで構築することは、もはやシステム的に不可能ではない。

■「各自治体が独自開発」は膨大な無駄遣い

横浜市の情報システム運営管理事業予算は約33億円(2021年度)である。もちろんこの予算が全て基幹業務システムの管理に使われている訳ではないが、同じ様な費用が神奈川県では政令指定都市の川崎市、相模原市をはじめ鎌倉市、小田原市などの各市町村で一様にかかっているのだ。

これら予算を合計すると、神奈川県全体では一体いくらの費用がかかっているのだろう。さらに全国で考えると、実に膨大な費用がかかっていることが想像できる。

コストを大幅に削減するために、この際、各自治体の基幹業務システムを国レベルで2、3のシステムに統合して、ガバメントクラウドで一元的に管理すべではないか。

少なくとも1500以上のシステムを都道府県レベルでの統合、すなわち47のシステムに統合するだけでも、かなりのコスト削減ができる。1つのシステムではなく複数のクラウド販売業者・開発業者のシステムに分散することで、1社による独占リスクを回避できる。

また、先にも述べたように政府の統一・標準化仕様によれば、クラウド間やアプリ間の移行は、比較的容易にできるはずだ。海外業者が撤退した場合も国産クラウドへの移行は可能である。

統合後、現在の各自治体の情報システム運営管理事業予算を、そのまま各自治体のニーズに応じてIT化の費用に回せば、地方の隅々まで高速5Gネットワークを導入するのに合わせて地方独自のデジタル構想も同時並行的に進めることができる。

過疎地には過疎地に適したITの活用方法がある。林業と農業、漁業、観光業をメインとする自治体のITニーズも、それぞれ異なる。今の予算を維持することは、現在各自治体をサポートしている各地のIT業者の経営維持にも必要だ。同時に基幹システムを維持・管理してきた人材を、地方独自のITシステムの開発へ移行することもできる。

自治体が個別に運営している情報システムを統一するメリットは極めて大きい。全国一斉に進めるには、政府のリーダーシップが不可欠だ。デジタル担当大臣は政治主導で進めてほしい。

池野青空(いけの・せいあ)

横浜市在住。日本の大手企業に20年勤務した後、25年間グローバル外資系企業で東アジアのITとセキュリティ担当のマネージャーとして勤務後、去年65歳となり引退。ITの経験者誰もが、普通に疑問に持つ、国や自治体のシステムをいろいろ、みなさんと考察したい。写真はハンブルグ出張時にビートルズのジョン·レノンが滞在したアパートの前です。