高市政権の船出は、まさにロケットスタートだった。支持率は82%。国民の大多数が期待感を抱き、「改革断行の新総理」像が世論を席巻する。その輝きの前に、自民党内は一斉に沈黙した――少なくとも表向きは。
だが、強い光があれば、必ず濃い影が生まれる。
今、自民党内でその影を形づくっているのが、石破茂、岸田文雄、菅義偉、宮沢洋一の4人だ。いずれも政権中枢を知る重量級。高市フィーバーに乗り遅れた彼らが、支持率の揺らぎをじっと待ち、反撃の機会をうかがっている。
火花はすでに散っている。
「次の勝負」は、静かに、確実に始まっている。
■石破茂――沈黙を拒む“お構いなしの反骨”
最大の特徴は、遠慮という言葉が存在しない点だ。
総裁選で敗れ、非主流派に転じた石破氏は、政権発足直後から高市批判を展開。党内空気が「様子見」で凍りつく中、ひとり堂々と「無批判に従うつもりはない」と公言した。
維新との連立を「新自由主義的」と指摘し、保守路線への偏向に違和感を示す。
さらに農水政策が転換されれば「不愉快」と発言。これでは、もはや序章ではない。旗幟鮮明、真っ向勝負の狼煙である。
安倍政権と鋭く対峙した時期の石破氏が、今度は高市政権の急先鋒となる。
党内で最も早く“対抗軸”を提示した人物と言えるだろう。
■岸田文雄――沈黙の奥に宿る静かな怒り
一方の岸田氏は、表では柔らかいが、内心は沸騰しているだろう。
看板政策だった「新しい資本主義」を、就任直後に高市首相があっさり棚上げ。代わりに「成長戦略会議」を設置し、理念の主導権を奪った。
さらに追い打ちをかけるように、党の「成長戦略実行本部」の本部長に岸田氏本人を指名。
つまり、「看板はもう変わった。あなたは新体制に従って働きなさい」という、政治的な“包囲網”である。
岸田氏は受諾したが、その後は 「成長と分配の好循環は必要だ」と冷静に反論。
低姿勢に見えて、芯は折れていない。旧岸田派の残影が警戒線を張り続ける限り、油断は禁物だ。
■宮沢洋一――老練な“内部制御”の戦略家
税制調査会は自民党最後の聖域。そこに手を入れたのが高市政権の象徴的な動きだった。
インナー6人を交代し、税調会長である宮沢氏も退任。財務省と結びつく旧体制を大幅に刷新した。
これに宮沢氏は、全面対決ではなく、「引き込みながら骨抜きにする」老獪な構えを見せる。
高市政権を評価する言葉と同時に、「責任ある積極財政」を掲げ、制御の糸を引こうとする。つまり、“イエスと言いながらノーを貫く”政治技法だ。
静かに包囲し、好機を待つ。
石破氏の正面突破とは対極の、じわりと効いてくるスタイルである。
■菅義偉――維新・公明を媒介に、背後から揺さぶる男
表に出てこないほど、不気味な存在感を放つのが菅氏だ。
維新との連携を進めていたのは菅氏。だが結果的に高市首相に横取りされた格好となり、政権誕生の瞬間には体調不安まで囁かれた。
ただ、侮れない。
維新と公明という「数の鍵」を握る勢力と太いパイプを持つのは菅氏である。高市内閣は少数与党。法案は野党協力なしに通らない。その構造を熟知する菅氏こそ、影の最大リスクだ。
“沈黙の調教師”――。
直接吠えずとも、盤面は動かせる。
■高市政権の前に立ちはだかる「4つの影」
石破氏の正面突破。
岸田氏の柔の抵抗。
宮沢氏の老練な包囲。
菅氏の水面下の揺さぶり。
手法は違えど、目的はひとつ。
高市独走を止め、次の主導権争いに備える。
支持率が高い時は静観し、揺らげば一斉に牙をむく。
自民党政治の伝統的な力学が、再び動き始めた。
高市フィーバーは続くのか。
それとも、次のドラマの幕開けか。
政治とは、世論という波に乗り、権力という崖の上で踊る仕事だ。
いま、その舞台の幕がゆっくりと上がっている。