石破内閣の女性閣僚はたったのふたり。そのうちのひとりである阿部俊子文部科学相=衆院比例中国=が今回の総選挙で衆院比例九州に転じる。現職閣僚が選挙区の鞍替えを迫られるというのは聞いた試しがない。
阿部氏は宮城県出身。看護師として日本看護協会の副会長などを歴任し、2005年総選挙(郵政選挙)で郵政民営化法案に反対した平沼赳夫元経産相の対抗馬(刺客)として岡山3区に擁立され、比例復活で初当選した。その後も自民党を離れた平沼氏に挑み続けるも4連敗し、比例復活を重ねた。2017年総選挙で平沼氏を受け継いだ次男正二郎氏を破ってはじめて岡山3区で当選したが、前回の2021年総選挙では正二郎氏に再び敗れて比例復活していた。
その後、正二郎氏は自民党に入ったが、今回の総選挙で岡山県の選挙区が5から4へ削減されることに伴い、阿部氏も正二郎氏も比例転出するとみられていた。
しかし比例中国も今回の総選挙から定数が11から10へ減り、競争が激化。前回の総選挙は自民党が6議席を獲得したものの、今回は裏金事件の影響もあって5議席以下に減ることが有力視されている。
しかも安倍晋三元首相の後継者として衆院山口4区補選で当選した吉田真次氏が山口県の定数が4から3へ減ったことに伴って比例転出するなど比例中国は狭き門になっていた。安倍氏の後ろ盾で比例中国単独で当選を重ねていた杉田水脈氏が裏金事件などの影響で不出馬表明に追い込まれた背景にも、比例中国の「混雑」がある。
石破茂首相は鳥取1区選出だ。この10年、非主流派として干され、比例名簿順位の決定に強く関与することはできなかった。安倍氏らが比例中国の杉田氏らを優遇してきたことを歯痒くおもってきたのだろう。裏金事件で安倍派の比例優遇にメスを入れる好機を得たといっていい。
それでも文科相に起用したばかりの阿部氏まで比例九州に転出させたのは異例の対応だ。阿部氏はかつて麻生派に所属していたが、2022年に離脱して無派閥に。今回の総裁選では第一回投票で同じ岡山選出の加藤勝信氏を支持し、決選投票では石破氏を支持していた。それでも石破首相は阿部氏を守れなかった。
阿部氏は地盤の岡山で選挙区を完全に失い、ゆかりのない九州の、しかも比例単独になる。これから衆院議員として当選を重ねていけるかどうか、不透明になった。政治力が大幅になくなるのは必至で、そのような政治家が文科相を務めても「お飾り大臣」になることは目に見えている。
石破政権は第四派閥・岸田派以下の弱者連合であり、石破内閣は初入閣13人の軽量級内閣である。その象徴的存在が阿部文科相といえるだろう。岡山から卒業して九州へ移る(そして今回の総選挙が最後の選挙になるかもしれない)ことの見返りとしての入閣だったとも勘ぐりたくなる。
これでは政治・行政は前に進まない。改めて石破内閣の政治基盤の脆弱さを見た思いだ。
石破首相は総選挙の勝敗ラインを「自公与党で過半数」とした。自民党が大幅に議席を減らしても自公与党で過半数を得られれば首相を続投するつもりである。「超・守りの選挙」だ。総選挙を経ても政権基盤が強化される見込みはないというほかない。