自民党のキングメーカーである麻生太郎副総裁が9月の総裁選に向けて「岸田再選でいいじゃねえか」と周辺に言い始めている。岸田文雄首相との関係が悪化し、一時は上川陽子外相を担ぐそぶりをみせていたが、ここにきて関係が修復したのか。私はそうはみていない。
麻生氏は岸田政権の「生みの親」だ。自民党本部に陣取り、子飼いの茂木敏充幹事長長ともに岸田首相を官邸から呼びつけ、あれこれ申し渡してきた。岸田政権は紛れもなく「麻生傀儡」だった。
岸田首相は麻生氏からの自立を模索してきた。最初に「親離れ」を目指したのが昨年9月の人事だ。茂木幹事長の更迭に動き、麻生氏の猛反対され、失敗した。
それでもあきらめず。所得税減税を打ち上げた。「増税メガネ」というあだ名を嫌った面もあるが、「財務省の後見人である麻生氏のいいなりじゃない」とアピールしたい思いもあったに違いない。
二人の関係はきしんだ。トドメになったのは裏金事件だ。
岸田首相は岸田派が立件されたことを受け、岸田派解散を独断で表明し、派閥解消の旗を打ち上げた。麻生氏は激怒し、麻生派存続を打ち出したが、他の派閥は岸田派に続いて解散を表明し、麻生氏は孤立した。二人の関係は壊れた。
岸田首相が派閥解消、安倍派処分、国賓待遇の訪米という勢いで4月か6月に「裏金解散」を断行できれば総裁再選への流れができ、麻生氏からの「親離れ」が完成する。麻生氏は焦った。
そこで、岸田首相を牽制するため、岸田派に所属していた上川氏をポスト岸田にショーアップした。本気で上川氏を擁立するというよりも、岸田氏を自らの元へ引き戻すためのカードだといえるだろう。
結局、岸田内閣の支持率は派閥解消、安倍派処分、国賓訪米でも上がらず、4月の衆院補選に惨敗し、裏金解散は困難になった。岸田首相は6月解散を見送り、解散権を封印したまま総裁再選を目指す方針に転換。麻生氏と関係修復をはかる必要性が生じたのである。
麻生氏の「岸田でいいじゃねえか」発言は、そうした流れから出てきたものだ。
しかし、額面通りには受け取れない。あくまでも6月解散の見送りが確定するまで、岸田首相との激突は避け、岸田首相がヤケクソ解散に突き進まないように見張る必要があるからだ。
政治家同士の信頼関係は一度壊れると修復は容易ではない。再び裏切られるかもしれないという疑心暗鬼が双方に膨らむからである。岸田首相と麻生氏の「和睦」は6月の国会会期末までの暫定和解で、国会閉会後は総裁選へ向けて仕切り直しということではないか。岸田首相が麻生氏の意向を無視して総裁選出馬に突き進めば、再び関係は壊れる可能性がある。
岸田首相がワシントンでのバイデン大統領の会談から帰国した直後、麻生氏が入れ替わるようにニューヨークへ飛んでトランプ前大統領と会談したのは、11月の大統領選で優勢なトランプ氏との窓口を独り占めし、「岸田首相が再選しても新しい首相が誕生しても、トランプ氏との橋渡し役を独占することでキングメーカーの座に踏みとどまる」という露骨な政略とみていいだろう。
自民党の裏金事件で清和会(安倍派)に隠然たる影響力を残してきた森喜朗元首相の影響力は大きく弱まり、二階俊博元幹事長も政界引退に追い込まれることになった。二階氏に次ぐ高齢の麻生氏はまだまだ政界を去るつもりはなさそうである。