「辞めません」と言い張る石破首相。一方で、読売と毎日は「退陣へ」と報じた。
はたして、どちらが真実なのか。
結論から言えば、「今すぐは辞めないが、退陣は既定路線」である。8月末にも退陣を表明し、自民党総裁選へ。政権交代と連立協議を含む「真夏の大政局」が動き出す。
この構図が浮き彫りになったのは、石破首相が7月23日、党本部で3人の元首相──麻生太郎・菅義偉・岸田文雄と会談した場面だ。幹事長の森山裕も同席し、80分に及ぶ会談は「退陣の密談」と見られていた。
自民党は参院選で敗北。政権の支持率も急落し、党内では「総裁リコール」の動きも水面下で進んでいた。立憲民主党の野田佳彦代表からも距離を置かれ、石破首相は完全に孤立。政権の浮揚材料だった日米関税協議も合意に達し、延命の口実も消えた。
そうした中での元首相会談だっただけに、「退陣表明へ」と速報した報じた毎日、号外を出した読売の動きはむしろ自然だった。だが会談後、石破首相は「辞めません」と表明。「出処進退の話は一切出なかった」と語気を強めた。
この言葉は、かえって命取りになった。麻生・岸田両氏の側近が会談の内容をリークし、「事実上の退陣要求があった」と明かしたのだ。森山幹事長すら進退をめぐるやりとりがあったことを否定しなかったのだ。
石破首相の発言は、あからさまな事実誤認──いや、「嘘」と言って差し支えない。しかも、5人で行った会談の内容が外部に漏れないはずがない。嘘だと知りながら発言したならば、追い詰められての苦し紛れだろう。
いずれにせよ、この日を境に、首相の言葉の信頼性は地に堕ちた。もはや誰も「この総理にはついていけない」と感じている。内閣としての命脈は、事実上ここで尽きたと言ってよい。
とはいえ、石破首相にも「この1ヶ月でやりたいこと」がある。8月6日と9日の広島・長崎に加え、15日の終戦記念日。戦後80年の節目に「平和を目指す談話」を発表したいと考えている。
また、訪米して日米関税合意に花を添え、8月20日のアフリカ開発会議を最後の晴れ舞台にしたいという「訪米花道論」も取り沙汰される。
それまでは「辞める」とは絶対に言わない――そんな首相の思惑は、もはや透けて見えている。8月末に退陣表明し、9月の自民党総裁選へ。新総裁のもとで野党との連立協議を進め、臨時国会で新内閣を発足させるというのが、大まかな政局シナリオだ。
注目すべきは、この密談での三者三様の動きだ。
麻生氏は、「石破自民党では選挙に勝てない」と明言。明確な退陣要求こそしなかったが、メッセージは極めてストレートだった。岸田氏は、「敗北の総括とその後のシナリオを明らかにすべきだ」と発言。これは、敗北の責任を取って辞任せよ、という意味である。
一方、副総裁の菅氏はやや慎重だった。「党内分裂の危機」を訴えたが、誰の側にも立たない中立的姿勢を取った。ただし、この期に及んで石破首相を明確に擁護しなかったことが、むしろ象徴的だ。
つまり、石破首相は身内からも見放された形で、「裸の王様」と化している。退陣は時間の問題であり、問題は「誰が後を継ぐか」に移っている。
ポスト石破の本命とされるのは、旧岸田派の林芳正氏。だが、岸田氏自身が「再登板」を狙って林氏を牽制する動きもある。麻生氏は高市早苗氏の擁立を視野に入れ、すでに面談を行ったとされる。菅氏が再び小泉進次郎氏を推すのかも注目されるところだ。
真夏の大政局は、いよいよ本格化する。自民党内の力学、野党との連立模索、そして国民の支持。石破退陣を契機に、政界のダイナミズムはさらに加速するだろう。