国民民主党の連立入り構想が自民党内で浮上している。岸田文雄首相(自民党総裁)や玉木雄一郎・国民民主党代表は慎重な発言をしているが、それでも連立構想が消えないのは、自民党の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長が吹聴しているからだ。
麻生氏と茂木氏。岸田政権の主流派として党運営を主導してきた二人がいま、国民民主党の連立入りに前のめりなのは、いったいなぜか。
目前に迫る内閣改造・自民党役員人事で茂木氏が幹事長に留任するためである。裏を返せば、茂木氏が幹事長を交代させられることへに危機感を強めているのだ。
麻生氏と茂木氏は国民民主党を支持する連合に接近し、国民民主党の連立入りを画策してきた。麻生氏の政敵である菅義偉前首相と二階俊博元幹事長が連立相手の公明党との太いパイプを生かして自民党の外から揺さぶりをかけるのに対抗し、連合と国民民主党の「別働隊」として取り込み、菅・二階両氏に対抗する狙いがあった。
国民民主党の玉木代表は麻生氏と茂木氏を窓口に水面下で交渉を重ね、野党第一党である立憲民主党と距離を置き、野党としては異例となる「当初予算案への賛成」にも踏み切った。連合の芳野友子会長も麻生氏や茂木氏らと接触を続け、自民党寄りの姿勢を強めてきた。
これに対し、国民民主党内では前原誠司元外相が反発し、日本維新の会との連携を強化。前原氏は「非自民、非共産の結集」を掲げて玉木代表を批判し、9月2日投開票の代表選に挑んだ。
小選挙区で自公候補に挑む衆院選候補予定者には前原支持が広がったものの、連合の支援を受ける参院議員は玉木代表支持で固まり、労組組合員が多数を占める党員票も玉木代表に流れて、代表選は玉木代表の圧勝に終わった。玉木代表の「自民に接近」「立憲と距離」路線が信任されたといっていい。
9月2日の国民民主党代表選の結果をみて、連立入り構想のアクセルを蒸したのが麻生氏と茂木氏だったのである。
第2派閥を率いる麻生氏は岸田政権の後見人として、第3派閥を率いる茂木氏を幹事長に押し込み、岸田派(第4派閥)ー麻生派ー茂木派の主流派体制の中核を占めてきた。これに対し、二階派(第5派)と菅グループ(無派閥の30人程度)が非主流派、後継会長が決まらないままの最大派閥・安倍派が「中間派」というのが現在の自民党内の派閥勢力図である。
岸田派ー麻生派ー茂木派だけでは過半数に届かないため、非主流派を干し上げつつ、最大派閥・安倍派から萩生田光一政調会長や西村康稔経産相、松野博一官房長官らを政権中枢に取り込み、安倍派全体が非主流派と組まないように分断しておくのが、岸田政権の基本戦略だった。
だが、岸田首相はポスト岸田への意欲を隠さない茂木氏を警戒して遠ざけるようになり、9月の党役員人事で交代させるとの観測が広がっている。さらに茂木派の次世代ホープの小渕優子元経産相を幹事長か官房長官に抜擢して茂木氏の求心力を落とす人事案も取り沙汰されている。菅・二階両氏に加え、麻生・茂木両氏とソリがあわない公明党も、この「茂木外し」を後押ししているのが現状だ。
この動きに対抗して麻生・茂木氏が反撃に出たのが、国民民主党の連立入り構想である。国民民主党と連立協議を進めることになれば、玉木氏や連合とパイプをつくってきた茂木氏を幹事長から外すわけにはいかなくなる。つまりこれは茂木氏の幹事長留任工作といっていい。
岸田首相は4日、官邸で記者団から国民民主党との連立構想への見解を問われると、「自公で共に政治、政策を前に進めていこうという大きな合意に至った。自公協力の実を上げるべく努力したい」と述べ、インドネシアへ外遊に飛び立った。自公連立の重要性を強調することで、国民民主党の連立入りには慎重な姿勢を示したといえるだろう。
現時点では麻生・茂木両氏の旗色は悪い。岸田首相は外遊から戻った直後の11日〜13日に内閣改造・党役員人事を断行する日程を描いているが、それまでに国民民主党の連立入りをまとめるのは難しい。麻生・茂木両氏は連立入り交渉に時間を要するとして人事を9月下旬に先送りし、その間に茂木氏留任へ巻き返しを図る狙いであろう。
国民民主党の連立入りと内閣改造・党役員人事の日程をめぐる駆け引きは、麻生・茂木vs菅・二階の党内抗争の主戦場である。岸田首相は主流派体制を組み替えるのかどうか、岸田政権は大きな岐路を迎えている。
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