政治を斬る!

自民党総裁選前のタイミングを狙った日銀の「追加利上げ」を政治的視点で解説してみる〜植田総裁を指名した岸田首相の影響力は大幅ダウン、新政権は解散総選挙を見据えてバラマキ政策へ

日銀が金利の追加引き上げを決定した。日米の金利差が急激な円安を推し進め、エネルギーや食料を中心とした物価高を招いているとして、物価を安定させるために利上げが不可欠だと判断したとみられる。

さっそく1ドル160円から148円まで円高が進み、輸出企業株を中心に売りが続いて日経平均は大幅に下落。円安株高は修正局面に入り、円高株安が加速していくとの分析もある。

利上げによって住宅ローンも上昇するとみられる。物価高は落ち着いたとしても今度は中小企業や個人事業主の経営を圧迫し、景気を冷やす恐れがある。

結局のところ金利を上げても下げても、恩恵を受ける人と不利益を被る人が出てくる。それを調整して不公平感をなくすのが政治の役割なのだが、その政治は全く機能せず、自公与党に近い業界だけが恩恵を受けるという不公正な政治がまかりとおっている。

そもそも円安進行の最大の理由は日米金利差にあるとは私は思っていない。もちろん短期的には金利差を考慮して円を売ってドルを買う傾向が強まるだろうが、それよりも円安進行の大きな原因は、日本経済そのものの魅力が失われ、円を買う動機が下がっていることだ。

このところの株高や不動産高は、円安進行によって海外投資家からみれば日本の株や不動産は割安となり、買い叩かれた結果である。一時的な投機目的で株や不動産を購入しているにすぎず、日本市場の将来性を期待しての投資ではない。だから円高が進めば新規投資は瞬く間に減り、株価も不動産価格も下落するだろう。この結果、企業業績は悪化し、自民党は財界から激しく突き上げられることになる。

小手先の為替操作で企業業績を維持してきたツケが一気に回ってきたといえるのではないか。

岸田政権は日銀の利上げを歓迎していないだろう。9月の総裁選に向けて内閣支持率を上げたい。景気を冷やして財界を敵に回してくはない。岸田首相に指名されて日銀トップに就任した学者出身の植田総裁は、岸田首相の意向を忖度し、これまで急速な利上げに慎重だった。

しかし内閣支持率が低迷し、自民党内から首相退陣論が噴出。岸田首相は総裁選出馬断念に追い込まれるとの見方が自民党内に広がっている。岸田首相の唯一最強の後ろ盾であった米国のバイデン大統領が大統領選から撤退したことで、岸田首相はいよいよ窮地になってきた。

こうしたなかで、日銀内部で植田総裁の発言力が低下し、利上げを主張する日銀プロパーの発言力が増してきたとみられる。自民党総裁選にむけて岸田首相がレームダック化した「政治空白」の間隙を突いて利上げに踏み切ったという構図が浮かんでくる。

9月の総裁選では石破茂元幹事長や茂木敏充幹事長らが人気取り政策を次々に打ち上げる可能性が高い。総裁選後は解散総選挙が一年以内に行われ、来年夏には参院選も予定されている。自民党はしばらくバラマキ政策を進めるだろう。利上げを進めるには権力移行目前の今が最適だという政局判断が日銀にあったの私はみている。

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