安倍晋三元首相が参院選の演説中に暗殺された。マスコミ各社は政治家が次々に暗殺された昭和初期と対比しながら民主主義の危機と報じている。
しかしマスコミ各社はなぜ昭和初期の日本で政治家へのテロが相次いだのか、その原因を深掘りしない。
昭和初期の日本は政友会と立憲民政党が交互に政権を担う二大政党政治がそれなりに機能していた。世界恐慌を受けて立憲民政党の濱口内閣や若槻内閣は経済ブレーンである井上準之助の主導で歳出を抑える緊縮政策を進めた。
この結果、日本経済はさらに悪化し、農村の困窮は加速して少女の身売りが相次ぐ事態に陥ったのだった。
立憲民政党政権が倒れ、あとを受け継いだ政友会政権は高橋是清の指導のもと積極財政に転じた。景気は急回復したものの、すでに日本の経済社会は隅々まで痛み、国民の政治不信は膨らみ、軍部が台頭して全体主義が広がっていた。時すでに遅しだったのである。
この過程で濱口首相が襲われ、井上準之助も暗殺され、5・15事件では犬養毅首相が暗殺され、2・26事件で高橋是清が暗殺され、政界全体はテロに縮み上がり、国会は与党一色に染まる大政翼賛政治に突入し、戦争へ突入していったのだ。
つまり、不況下で緊縮政策をごり押しして庶民の暮らしを痛めつけた結果、世情は不安定化し、テロを誘発し、民主主義が壊れていったのである。
マスコミ各社はテロの根底に、経済政策の失敗~すなわち不況下で緊縮財政を推し進めた失政~で庶民の暮らしが壊滅したことがあるという重要な点について触れない。
それはマスコミ各社が財務省とともに緊縮財政のシンボルである消費税増税を推進する側に立ってきたからである。自分達の過ちを認められないのだ。
日本経済が低迷する大きな節目は民主党政権にあった。
民主党は消費税増税を公約に掲げずに2009年衆院選で政権を奪取した。ところが2010年参院選目前に当時の菅直人首相はいきなり消費税増税を打ち上げ、参院選に惨敗し、衆参国会はねじれ、民主党政権は早々と失速した。
菅直人氏から首相の座を受け継いだ野田佳彦首相は2012年、自民党、公明党との間で、社会保障の財源として使うために消費税を増税することで合意(3党合意)した。水面化でお膳立てをしたのは財務省である。野田首相はそれを受けて衆院を解散して惨敗し、下野したのだった。
自民党と民主党の二大政党がともに財務省の意向にのって消費税増税で合意するというのは、二大政党政治の歴史にとって重大な岐路となった。国民にすれば、衆院選では「自民か民主か」の二者択一を迫られるのに、肝心の財政政策では二大政党のどちらも緊縮派(消費増税派)であり、積極財政という選択肢を奪われてしまったのである。戦前の政友会vs立憲民政党の二大政党政治よりも好ましくない二大政党政治が出現したのだ。
そこへ登場したのが、2019年参院選で旗揚げしたれいわ新選組である。れいわは積極財政を鮮明に掲げて消費税廃止を最優先公約に掲げたのだ。
民主党の流れをくむ立憲民主党が今の景気悪化や物価高への対策として「時限的な消費税減税」を打ち出しながらも、れいわの掲げる「消費税廃止」にのれないのは、2012年の3党合意に縛られているからである。なにしろ消費税増税をリードした菅直人氏や野田佳彦氏は今も立憲の最高顧問であり、立憲を旗揚げした枝野幸男氏は菅直人氏の側近であり、立憲の顔である蓮舫氏は野田氏の側近なのである。立憲は「緊縮財政」派そのものなのだ。
民主党政権が倒れた後、安倍自民党はアベノミクスを展開した。安倍政権は積極財政的な発想である金融緩和を大胆に推し進める一方、極めて緊縮財政的な発想である消費税増税を二度にわたって実行したのである。金融緩和は株式市場を潤わせて株主や大企業など富裕層をさらに豊かにさせる一方、株を持たない一般庶民にはほとんど恩恵がなかった。一方、二度にわたる消費税増税は庶民の暮らしを直撃し、貧富の格差は急拡大した。
アベノミクスは金持ちにとっては積極財政、庶民にとっては緊縮財政だったのだ。
日本政界は平成以降、自民党も民主党も財務省もマスコミ各社も学者の多くも「緊縮財政」派で固められてきた。一部積極財政的な政策がとられたものの、それは大企業や富裕層を有利にするものばかりだった。
積極財政派は「異端」として退けられてきた。なぜなら、既得権を握る上級国民たちにとって、インフレよりもデフレ、積極財政よりも緊縮財政で格差が広がっているほうが都合がよいからだ。庶民に配るお金はもったいないとおもうのが上級国民たちなのである。そしてマスコミは所詮、上級国民の代弁者なのだ。
れいわ新選組が経済界、マスコミ界、立憲民主党を含む与野党など上級国民から不人気なのは当然である。いまの政界に庶民の利益を代弁する政党は他にない。
以上の解説を動画にまとめた。以下をご覧いただきたい。
安倍氏暗殺で異様な雰囲気に包まれた今回の参院選。その歴史的意味は、昭和史の反省を踏まえ、同じ過ちを繰り返さないために、れいわ新選組が積極財政の重要性を国民に向かって声高らかに問いかけたことである。