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国家が一般市民を動員して外国人を監視!「おもてなし」の国がすることなの?

東京五輪招致のキャッチフレーズ「お・も・て・な・し」。コロナ禍での今夏開催へ批判が強まり、このところすっかり聞かれなくなった。それどころか、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=が今年3月、名古屋出入国在留管理局に収容中に死亡した事件をはじめ、外国人の人権を軽視する日本社会の実態が浮き彫りになる出来事が続いている。

IOC幹部ら「強き者」は歓迎しても、難民申請をする人々ら「弱き者」は排除するということか。「おもてなし」の掛け声が虚しく響くばかりだ。

そこへまた新たな問題が浮上した。外国人の在留カードが本物かどうかをスマホで確認できるアプリを出入国在留管理庁が昨年末からホームページで一般公開し、すでに4万回ダウンロードされたというのだ。これは国家が一般市民を動員して外国人を監視するシステムではないか!

外国人支援団体や野党は「政府が外国人への差別や偏見を助長している」と主張しているが、テレビ新聞の反応は鈍く、この問題の深刻さがあまり伝わっていない。東京新聞の望月衣塑子記者が執筆した記事『「外国人監視に市民を動員」入管庁が在留カード真偽読取アプリを一般公開 難民懇が問題視』が明快に問題点を追及しているので、それをもとに考えてみたい。

在留カードは日本国内に3ヶ月以上在留する外国人約258万人に交付されている。入管庁が一般公開したアプリをダウンロードして在留カードのICチップを読み取れば、誰でも在留カードが偽造がどうかをチェックできるのだという。入管庁はこのアプリ開発をNTTデータに8400万円で発注したそうだ。

このアプリが実際にどう使われているのか、入管庁は把握していないというが、4万回もダウンロードされているということは、日本列島の津々浦々で、かなりの数の外国人たちが、このアプリを使う一般の人々によって、在留カードが本物かどうかをチェックされていると思われる。政府が「在留カードの偽造監視」への参加・協力を国民に呼びかけている格好だ。

私はこの仕組みを聞いただけで、背筋がぞっとした。だが、入管庁を担当する社会部には「どこが問題なの?」「偽造カードを見抜く効果的な手法でしょう」と考える記者も少なくないようだ。だからこそ、この問題はテレビや新聞でほとんど報じられないのである。「国家権力の圧力」や「経営陣の圧力」はなくても、記者たちの人権感覚自体が劣化しているのである。

このような人権感覚が摩耗した記者たちのために、望月記者は記事のなかで当事者である在留外国人たちの声を紹介している。

18年間日本に滞在するミャンマー人の男性(35)「政府は自分たちのような正規滞在者さえ疑うアプリを作り、市民に拡散している。10歳のめいっ子は外国人として既に差別を受けている。子供たちは悪気なくアプリを見せ『おまえのは本物か』と言うかもしれない」

ガーナ人の女子高生(18)「私のような高校生が知らない人からアプリを使い、在留カードを見せろと言われたらどんな気持ちになるのか」

イラン人の男性(43)は「日本政府は日本人にも同じようなアプリを作るのだろうか。国民に外国人監視の武器を持たせ、日本人と外国人を分断させようとしている」

人権を侵害する側は、人権を侵害される側の気持ちに気づきにくい。だからこそ、当事者たちの声に耳を傾けることが必要だ。テレビや新聞の記者は、アプリを導入した国家権力側の人々の声ではなく、それによって監視される側の人々の声にまずは耳を傾けてみたらどうだろう。

仕事先で、近所で、一般市民から在留カードの提出をいきなり求められアプリで監視される体験を一度でもしたら、その後、穏やかに日々の暮らしを送れるだろうか。それが「おもてなし」をアピールする国のあり方であろうか。

7年8ヶ月に及ぶ安倍政権の間に、私たち日本の「報道の自由度ランキング」はお隣の韓国に追い抜かれてしまった。もうひとつ追い抜かれてしまったのは「外国人の人権」である。韓国は外国人労働者に広く門戸を開いたうえ、その家族も手厚く保護している(論座『韓国は外国人に門戸を開いた〜日本を手本にしていた隣国は、今やはるか先を走っている』参照)。国外に働き口を求める東南アジアなどの人々の間では、いまや日本より韓国のほうがはるかに人気があるという。

菅政権はコロナ禍の中で東京五輪を強行するようだ。「万全の体制」で諸外国の選手団や報道陣を受け入れるという。スポンサーのマスコミ各社を使って大会開催を華々しく演出し、今秋の解散総選挙に向かって支持率を回復する狙いだ。

その一方で国民を動員して在留外国人への監視を強化するという「人権後進国」さながらの行為が公然と行われていることに、私たちはもっと敏感になるべきであろう。

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