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林外相G20欠席の背景に「岸田vs菅」の権力闘争あり〜5月のG7広島サミットまで「外交の失態」は続くのか

林芳正外相が参院予算委員会に出席するためにインドで開かれたG20外相会合を欠席したことに批判が噴出している。G20外相会合よりも優先して出席した3月1日の予算委員会で林外相が答弁したのはわずか53秒だったことが批判をさらにヒートアップさせることになった(こちら参照)。

G20はG7(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本、EU)に加え、中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカ、インドネシア、アルゼンチン、メキシコ、韓国、トルコ、オーストラリア、サウジアラビアが参加する国際会議で、新興国が台頭する今、G7以上に影響力を増している。

ウクライナ戦争や米中対立をはじめ国際政治が緊迫するなかで、G7議長国の日本がG20外相会合に欠席することは「G20軽視」という印象を新興国に与え、インド国内では反発も広がった。

そこまでして53秒しか答弁しない国会審議に出席する意義があったのか、たしかに疑問である。結果として理不尽な対応になったのは間違いない。

問題はなぜこんなことになってしまったのかである。一連の報道からはそこがわかりにくい。

まずは政府与党の調整が不十分だったことだ。この最大の責任は、国会全体の運営の責任者である自民党の高木毅国対委員長にあると私は思う。

高木氏はG20外相会合の日程は当然知っていたはずだ。ウクライナ戦争や米中対立の激化、さらには日本がG7サミット議長国であることを踏まえ、林外相が出席すべきであることは容易にわかる。それを踏まえて予算審議の日程を組むことこそ、与党の国会対応責任者の最低限の仕事である。

高木氏はなぜそれを怠ったのか。①そもそも調整能力が低い②清和会(安倍派)の有力者の立場で岸田政権の足をあえて引っ張っている③同じ清和会の世耕弘成参院幹事長への遠慮があったーーなどの要因が思いつくが、いずれにせよ、もっと早くから調整に乗り出していれば回避できた事態だ。

次に外務省の対応にも疑問符がつく。G20外相会合の重要性は当然理解しているのだから、もっと早く国会に根回しして日程調整していれば、このような結果にはならなかったはずだ。

外務省が日程調整をサボった要因についても、①そもそも外務省は国会対応能力が低い(財務省とは大違い)②外務省は岸田降ろしの狼煙をあげた菅義偉前首相に近く、あえて岸田政権の足を引っ張っているーーの二つの要因がありそうだ。

いずれにせよ、岸田首相や林外相ら主流派と、菅前首相、二階俊博元幹事長ら反主流派の対立が激化するなかで、それぞれの「シンパ」の官僚たちが相手陣営にダメージを与えるためにさまざまなスキャンダルをマスコミにリークしたり、サボタージュしたりする「刺しあい」が今国会では強まると私は予測していたが、そのとおりの展開になってきた。

岸田首相の長男・翔太郎氏がパリ・ロンドンで公用車を使って観光地巡りした問題(外務省)、菅前首相に近い三浦瑠麗氏の夫の会社への強制捜査(検察庁)、安倍・菅政権下での東京五輪談合事件(検察庁)に続いて、安倍官邸が総務省に放送法の解釈修正を迫ったことを示す内部文書の流出(総務省)も、「岸田vs菅」の対立激化と無縁ではない。

外務省と総務省には「菅シンパ」が多く、検察庁には「アンチ菅」が多いのだ。

G20サミット外相会合の欠席問題もその視点で眺めると背景事情が見えてくる。外務省が国会への根回しをそつなくこなせば欠席という事態は免れたに違いない。わざとサボタージュしたとしか私には思えない。

政権内部の権力闘争が激化すると、このような失態が次々に表面化してくる。とりわけ岸田首相のキーウ訪問計画を含め外交関連をめぐる機密情報の流出が相次ぐのは、岸田vs菅の主戦場のひとつが外務省であることを物語っている。

総務省の内部文書流出は、岸田降ろしの戦線が総務省にも拡がったとみるのが自然だろう。

岸田首相が並々ならぬ意欲を示す5月のG7広島サミットまで、内政・外交の全般にわたり、さまざまな問題がまだまだ噴出しそうである。


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