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自民党総裁選は「派閥再編」のはじまり〜派閥解消はウソ!総裁レースで敗れた派閥を分裂し、勝った派閥は拡大して派閥の新秩序がつくられていく 安倍派、麻生派、茂木派、岸田派、二階派それぞれの行方

自民党総裁選の大きなテーマが「脱派閥」だ。岸田文雄首相は自民党の派閥裏金事件を受けて派閥解消を打ち出し、麻生派以外はすべて解散を表明した。

けれども、総裁選に出馬した9人の推薦人を分析すると、まだまだ派閥中心の選挙になっていることが見えてくる。

そもそも派閥は総裁選に出馬したい親分が推薦人を集めるためにつくったもの。今回の総裁選を経て、新たな派閥がつくられていく。

いまの自民党で起きている現象は、「派閥解消」ではなく「派閥再編」への一過程と理解したほうがよい。

各派閥の情勢をみていこう。

最大派閥・安倍派(清和会)は3分裂へ

清和会に君臨してきた森喜朗元首相は、小泉進次郎氏を裏で支援している。父・純一郎元首相とは長年の盟友。進次郎氏は初当選以降、無派閥を貫いてきたが、森氏は安倍晋三元首相の後のリーダーとして清和会を引っ張っていくのは進次郎氏しかいないとみていた。ずっと進次郎氏を清和会に勧誘してきたのだ。

裏金事件で清和会が壊滅し、森氏が重用してきた萩生田光一氏ら5人衆が失脚。森氏はますます進次郎氏を軸に清和会の再興を進める意向を固めているようである。

森氏に近い萩生田氏は、進次郎氏を担ぐ菅氏との連携を深めている。進次郎氏の経験不足を清和会の立場からサポートする役割を担うのだろう。

森氏や萩生田氏に対抗し、中堅若手を束ねて清和会再興を目指すのが、当選4回の福田達夫氏だ。清和会創始者の福田赳夫元首相の孫、福田康夫元首相の長男。まさに清和会のサラブレッドである。

今回は安倍派の裏金事件をうけて自らが出馬する政治環境にはなく、当選同期の小林鷹之氏を担いだ。まさに森氏や萩生田氏と決別する姿勢を鮮明にした格好だ。さらには同世代の進次郎氏へのライバル心もあろう。

さらに安倍派の安倍チルドレンには、安倍氏が前回総裁選に担いだ高市早苗氏を支持する勢力もある。

高市氏は無派閥ながら前回総裁選で安倍氏に担がれ、推薦人を苦労なく集めた。しかし5人衆には不満が残り、安倍氏が急逝した後は5人衆に疎まれてきた。政治信条が近い中堅若手が高市氏に接近するのも阻んできたのである。

5人衆が失脚したことで高市氏は自力で推薦人20人を集めることができた。この結果、推薦人20人のうち14人が安倍派に(13人は裏金議員)。裏金議員への処分見直しなどには踏み込みにくく、高市氏の弱点となっている。

安倍派は、進次郎氏、小林氏、高市氏の3陣営に分裂した。総裁選後、ふたたび結集するのは難しいだろう。萩生田氏を中心としたグループ、福田氏を中心としたグループ、高市氏を中心としたグループに再編されていく可能性が高い。

第二派閥・麻生派は分裂再編へ

唯一存続を宣言している麻生派も解体過程に入っている。

麻生太郎氏は派閥の仲間である河野太郎氏の原則支持を打ち出す一方、他候補の支援も容認した。進次郎氏が第一回投票で過半数を獲得することを阻止するために、候補者乱立を後押しする狙いだ。

しかし麻生派として結束してひとりを推せる状況にないことは、麻生派の弱体化を物語っている。総裁選で一致結束できないのなら、派閥の存在意義が問われかねない。

しかも河野氏への支持はまったく広がっていない。推薦人20人のうち、麻生派議員が18人で、他派閥からは相手にされていないのが現状だ。

麻生氏も焦りを隠せず、上川陽子氏に推薦人を貸し出し、小林鷹之氏も側面支援して、菅陣営の進次郎氏、石破茂氏に1位、2位を独占させる事態だけは避ける狙いだが、なかなかうまくいっていない。進次郎政権誕生を阻止するためには、土壇場で石破氏か高市早苗氏に乗る選択肢も捨てていないようだ。

いずれにせよ、進次郎政権が誕生すれば、麻生氏は失脚し、10月解散で政界引退に追い込まれかねない。そうなると麻生派は分裂再編へ向かっていく。河野氏にいまのままのかたちで派閥を継承する力はない。

第三派閥・茂木派も分裂再編へ

茂木派も大ピンチだ。

当初は麻生派に同調して派閥存続を宣言したが、次世代のホープである小渕優子氏が真っ先に派閥を離脱。小渕氏の後ろ盾だった参院のドン・青木幹雄元官房長官の長男・青木一彦氏は今回の総裁選で石破氏支持に回った。

さらに茂木敏充幹事長と同い年で、派閥内のライバルである加藤勝信元官房長官が反旗をひる返して総裁選に出馬。加藤氏は菅氏と連携しており、茂木氏の足元はガタガタだ。

茂木氏の頼みの綱は麻生氏だったが、麻生氏は茂木氏では勝てないと見て大量擁立作戦に転じ、茂木氏を突き放した。茂木氏はあわてて菅氏に接近し、総裁選では岸田政権が進めた防衛増税の廃止を打ち上げて、麻生氏と袂をわかった格好だ。

茂木氏が勝利する可能性は低く、勝ち馬にのって進次郎政権になびいたとしても、加藤氏や小渕氏、青木氏らと関係修復するのは困難だろう。茂木派も分裂再編の過程に入ったといっていい。

第四派閥・宏池会(岸田派)は岸田首相と林官房長官の暗闘

最も注目すべきは、宏池会(岸田派)だ。岸田首相とナンバー2の林芳正官房長官の関係が一色触発である。

林氏は事実上の宏池会代表として出馬を表明したが、同じ宏池会の上川陽子氏が反旗を翻して出馬した。上川氏に推薦人を貸したのは麻生氏(麻生派から9人)だけではなく、岸田首相も側近議員5人を貸し出したのだ。

岸田首相は退任後、派閥に戻ってキングメーカーになりたい。林氏が宏池会の総裁候補になれば、自分は戻る場所がない。そこで宏池会から上川氏の出馬を後押しし、林氏と上川氏の対立のなかで自らの派閥親分としての地位を保とうとしているわけだ。

もちろん林氏は猛反発し、宏池会を岸田派から林派へ代替わりさせることを狙っている。岸田vs林の暗闘は総裁選後も続くだろう。

第五派閥・二階派は草刈り場に

二階派は二階俊博元幹事長が政界引退を表明し、総裁選では草刈り場となった。

実力者の武田良太氏は、地元・福岡で麻生氏の天敵として知られる。菅氏と連携を深め、進次郎氏を後押ししている。進次郎政権が誕生すれば、菅側近としてさらに頭角をあらわすとみられている。

麻生氏は武田氏を牽制するため、二階派の若手代表だった小林鷹之氏の出馬を側面支援。麻生派重鎮の甘利明元幹事長が小林氏擁立に動いてきた。

一方、旧民主党からの合流組である細野豪志氏は石破氏支持へ回った。自民党内で仲間が少ない石破氏が勝てば要職に抜擢される可能性がある。

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