政治を斬る!

総選挙の比例名簿から読み解く主要7党の戦略と課題 自民→裏金議員全員の比例重複なし、現職3閣僚を比例単独1位に、立憲→北海道で女性2人を比例1位で優遇、小川幹事長らは比例重複 維新と公明→大阪で比例重複なしの大激突 れいわ→大石あきこら共同代表は国会に戻れるか?

総選挙の比例代表名簿順位からは各党の戦略や課題が見えてくる。今回の総選挙はとくに面白い。自民党安倍派の裏金議員が大量に比例名簿から外れたほか、各党幹部や激戦区の候補たちが次々に比例重複を外して不退転の決意を示したからだ。

自民党
安倍派を中心に裏金議員全員の比例重複を認めなかった。

萩生田光一氏ら大物に加えて選挙地盤の弱い中堅。若手を含めて計12人の裏金議員を小選挙区で非公認としたものの、世論の批判は収まっていない。公認に踏み切った裏金議員が小選挙区で落選しながら比例で復活すれば世論のさらなる批判を浴びるのは必至だ。裏金議員全員の比例重複を認めなかった最大の理由は、世論対策である。

しかしもうひとつ理由がある。今回は裏金批判で裏金議員以外も逆風にされされている。小選挙区で敗れた場合の比例復活はこれまで以上に貴重な命綱だ。安倍派の裏金議員を比例名簿から追い出せば、自分たちが比例で救済される可能性が高まる。だからこそ、自民党内では裏金議員の比例重複を認めるべきではないという声が噴出したのだ。これは裏金事件へのケジメというよりも自己保身にほかならない。

石破執行部が安倍印として比例中国単独で当選してきた杉田水脈氏の公認を見送る方針を固め、杉田氏を不出馬に追い込んだのも注目された。杉田氏は総裁選で安倍支持層から絶大な人気のある高市早苗氏の推薦人となった。高市政権が誕生していれば、杉田氏は今回も比例単独で出馬していただろう。総裁レースが杉田氏の命運をわけたといっていい。

裏金議員の比例重複見送りを決めた石破総裁、森山幹事長、小泉選対委員長、小野寺政調会長の党4役にくわえて、岸田文雄首相も裏金事件に対処した総裁としての責任を果たすとして比例重複を辞退した。いずれも選挙地盤は強く、落選の危機がないからだ。

注目すべきは、石破内閣の3閣僚が比例単独1位となったことだ。安倍氏を国賊と呼んで党に処分されながら総務相として入閣した村上誠一郎氏は比例四国、沖縄北方担当相の伊東良孝氏は比例北海道、文科相として初入閣した阿部俊子氏は比例九州の単独1位で、はやくも当選確実だろう。定数削減による区割り変更による選挙区調整の結果である。

比例単独1位になれば当選は確実になるものの、自らの選挙地盤を失うことになりかねず、政治力は激減する。閣僚を務める大物政治家は通常、自らの選挙地盤を重視して比例単独1位に優遇されるとしても比例転出は嫌がるものだ。この3閣僚はそれを受け入れた時点で、この先の政治力低下は免れない。

しかも阿部氏は岡山3区の地盤を捨て、比例九州に回るのだから、選挙地盤を手放したに等しい。今後は党執行部に逆らえなくなる。

そのようなメンバーが閣僚を務めていること自体が、石破内閣が弱小内閣であることの証左であろう。

立憲民主党
北海道の小選挙区に出馬する池田真紀氏(北海道5区)と篠田奈保子氏(北海道7区)を比例北海道の名簿順位1位で優遇した。女性議員を増やす目玉人事だといっていい。これを主導した逢坂誠二・立憲道連代表も比例重複を辞退した。そこまで覚悟を決めないと、他の候補の納得を得られなかったのだろう。

一方、これを北海道以外に拡大させることはできなかった。比例復活は候補者たちにとって死活問題である。女性優遇に強い反発があったのは想像に難くない。

立憲も野田佳彦代表と岡田克也前幹事長が比例重複を辞退した。一方で、野田代表が刷新感を打ち出すために抜擢した小川淳也幹事長、重徳和彦政調会長、大串博志選対委員長の50代幹部3人は比例重複した。いずれも選挙地盤が強固とはいえず、万が一にも小選挙区で敗北することを恐れて比例復活の命綱を手放さなかった格好だが、党執行部がこれでは士気が上がらない。自民党に比べて立憲民主党の執行部の足腰の弱さが露呈したともいえる。

日本維新の会

大阪万博と兵庫県知事問題で失速した維新は、本拠地・大阪の18選挙区の候補を比例重複から外し、党内を引き締めた。馬場伸幸代表の藤田文武幹事長も小選挙区1本の選挙となる。

前回までは公明党と裏取引し、公明現職がいる大阪・兵庫の6選挙区では候補者擁立を見送ってきた。今回は公明党と決別し、6選挙区にも擁立する。大激突に備えて、不退転の覚悟を示したといっていい。

これまで全国政党への脱皮と野党第一党の奪取を掲げてきたが、大失速で大阪以外の小選挙区では苦戦が予想されている。前回は大阪で擁立した15選挙区で全勝したが、今回、本拠地・大阪で議席を減らすことがあれば党存亡の危機だ。そうした切迫感が比例重複外しの背景にある。

公明党

比例北関東から埼玉14区に転出いた石井啓一新代表は比例重複を外して不退転の戦いだ。新代表がいきなり落選するわけにはいかず、埼玉14区は公明党の命運をかけた大決戦となる。
大阪・兵庫の6選挙区での維新との激突も公明党の獲得議席を大きく左右する大決戦となる。維新に対抗し、公明も大阪・兵庫6選挙区の候補の比例重複を外した。

共産党

志位和夫前委員長は今回も比例南関東単独1位だ。参院から鞍替え出馬する田村智子新委員長は比例東京単独1位に。こちらも新委員長を落選させるわけにはいかず、組織票で議席獲得が固い東京へ持ってきた格好だ。

れいわ新選組
山本太郎代表が公示目前に体調不良で緊急入院して大揺れのスタートとなった。すぐに退院してテレビ出演したものの、全国の応援演説にこれまで通り駆け巡ることができるのかどうかは不透明だ。

与野党双方を批判し、独自路線を突き進むが、小選挙区での勝利は難しく、比例の議席増を目指す。とくに大石あきこ氏(大阪5区、近畿比例)と櫛渕万里氏(東京14区、比例東京)の共同代表二人が国会に戻れるのかどうかが焦点となる。
共同代表ふたりを比例単独1位で優遇するかどうかが注目されたが、それぞれ比例ブロックで他の候補と横並びの1位となった。

れいわは比例東京で1議席は固いとみられている。櫛渕氏は比例復活のための最低得票(有効投票の10%)を超えれば比例復活する可能性が高い。けれども、立憲との調整で東京22区から東京14区に転身したばかりのうえ、東京14区には維新や国民、共産など野党候補が乱立することになり、政権批判票は分散する。予断は許さない。

大石氏はさらに厳しい戦いも予想される。まずは近畿ブロックで1議席を確保できるか。できたとしても、大阪5区も公明、維新、共産などの候補が入り乱れる激戦区で、有効投票の10%ラインを超えることができるかどうかは見通せない。れいわの八幡愛氏(大阪13区)も地道な活動を続けており、惜敗率競争が激しくなる可能性もある。

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