ウクライナのゼレンスキー大統領が来日してG7広島サミットに参加し、対ロシア戦争を継続するため、G7首脳に戦闘機供与などの軍事支援強化を求めた。岸田文雄首相がG7首脳の原爆資料館訪問でアピールした「平和サミット」のイメージはゼレンスキー氏の飛び入り参加で吹き飛び、「武器供与サミット」に一変した格好だ。
ウクライナ戦争は、欧米がウクライナに巨額の軍事支援をしてウクライナ国土を戦場にロシアと戦闘させている代理戦争である。日本が議長を務める広島サミットを舞台に、日本を含むG7諸国が一致結束してウクライナへの軍事支援を強化する姿勢を打ち出したことで、日本は欧米とともに対露戦争でウクライナ陣営に当事者として深く加わることを世界に向け強く発信したことになる。
中立的な立場から停戦を求める中国をはじめグローバルサウス(途上国)との溝はさらに深まり、世界はますます分断されていく恐れがある。
日本はG7で唯一の非欧米国、そして唯一の非NATO加盟国である。日本を除くG7諸国は米英を中心にウクライナに強大な軍事支援を続けてきた(日本は防弾チョッキやなど殺傷能力のない防衛装備品に限って支援してきたが、自民党内では広島サミットを機に殺傷能力のある武器支援に踏み切るべきだとの声も強まっている)。
ゼレンスキー氏はロシアに反転攻勢を仕掛けるため、欧米諸国に対してさらに、最新の戦闘機供与を求めてきた。英国は前向きな姿勢を示したものの、その他の欧州諸国は慎重で、「戦闘機供与」の是非がウクライナへの軍事支援の最大の焦点となっていた。
岸田首相は今春、G7首脳として最後にウクライナのキーウを訪問してゼレンスキー氏と会談し、広島サミットへのオンライン参加を要請していた。ゼレンスキー氏が一転して広島サミットへの対面参加に踏み切ったのは、G7首脳が集う舞台に乗り込んで戦闘機供与を一挙に進展させる狙いがあったとみられる。
背後でシナリオを描いたのは、米国のバイデン政権とみて間違いない。米国は広島サミットにあたり、米国製のF16戦闘機について、欧州の同盟国がウクライナに供与することを決めた場合は容認する考えを表明し、欧州諸国の背中を押した。
バイデン大統領はロシアとウクライナの停戦に動く中国を警戒し、ゼレンスキー政権への軍事支援を拡大してきた。ウクライナ戦争が始まった後、米国の軍需産業やエネルギー産業は潤い、穀物企業は世界の穀倉地・ウクライナに進出し、米経済は好調を続けてきた。来年の米大統領選で再戦をめざすバイデン政権にとって、ウクライナ戦争の長期化・泥沼化はむしろ都合が良いのである。この勢いでプーチン政権を打倒できれば、さらにロシア国内のエネルギー利権への影響力を強めることも可能だ。
バイデン政権は欧米に加えて非NATO加盟国の日本も巻き込んでウクライナへの軍事支援強化を打ち出し、中国をはじめグローバルサウスに向けて「ロシア包囲網」をアピールする舞台として、広島サミットは格好の機会だと判断したのだろう。あらかじめインド首相を広島へ招待し、あとからゼレンスキー氏を飛び入り参加させるというシナリオも、インドを引き込んで「ロシア包囲網」を国際政治的にアピールするバイデン政権の戦略とみられる(もちろんインドがこれを受けて米欧日の「ロシア包囲網」に安易に加わる可能性は極めて低いだろう)。
これに対し、岸田首相には被爆地・広島でのG7サミットで「平和」をアピールする狙いがあり、ゼレンスキー氏の飛び入り参加で「武器供与サミット」に一変することにはためらいもあったかもしれない。バイデン大統領がサミット直前に、国内の債務問題を理由にサミット欠席の可能性を示唆したのは、ゼレンスキー氏の来日を日本政府に無条件で受け入れさせるための駆け引きだった可能性もある。
いずれにせよ、米国の思惑通りに広島サミットは「ウクライナへの軍事支援を強化する米欧日の軍事同盟」の色彩を帯び、平和都市広島は一転して「対ロシア戦争の軍事同盟」のシンボルとなったのだ。
広島選出の岸田首相が議長役としてそのサミットを仕切ったのは、歴史の皮肉としかいいようがない。平和を愛し一刻も早い停戦を願う世界各地の人々を落胆させ、広島の平和ブランドを大きく傷つけたことを、私たちは自覚しなければならない。
日本マスコミはこのような背景事情をほとんど分析せず、「ゼレンスキー来日はすごい!」「G7首脳の原爆資料館訪問は歴史的出来事だ!」というバイデン政権と岸田政権のプロパガンダを垂れ流すばかりだった。これでは岸田首相は勘違いして、ますます調子に乗るだけだ。
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