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惨敗と不戦敗では大違い!? 自民大逆風の4月衆院3補選で「岸田vs茂木」の党内闘争が強まる〜4月裏金解散の判断にも影響か

4月28日投開票の衆院3補選(島根1区、長崎3区、東京15区)をめぐり、自民党内での駆け引きが激しくなってきた。いずれも自民党に強い逆風が吹き付ける選挙だ。

ここで3敗すれば「岸田政権では次の総選挙は戦えない」との声が広がるのは必至だ。岸田文雄首相が9月の総裁選前の解散総選挙を断行するのは困難になり、総裁選の出馬断念に追い込まれる可能性が高まる。

このため首相周辺では「3連敗するよりも候補者擁立を見送り不戦敗にし、ダメージを抑えるほうがいい」との声も出ている。

一方、岸田首相との確執が強まる茂木敏充幹事長は候補者擁立に前向きだ。「茂木氏は衆院3補選に負け越すことで岸田首相の解散権を縛り、岸田おろしを誘発しようとしている」との憶測も広がっている。

衆院3補選は与野党対決というよりも自民党内の権力闘争の側面が強いといえるかもしれない。

島根1区は、旧統一教会問題やセクハラ疑惑で批判を浴びていた細田博之元衆院議長の死去に伴う補選。細田氏は裏金事件を受けて解散した安倍派(清和会)会長も歴任しており、自民党への風当たりは強い。財務省出身の新人・錦織功政氏を擁立するが、立憲民主党が擁立する元衆院議員の亀井亜紀子氏に知名度で劣っている。岸田首相としては竹下登元首相や青木幹雄元官房長官ら大物を輩出してきた保守王国での「1勝」は確実に獲得したい考えだが、楽観はできない情勢だ。

長崎3区は安倍派の裏金事件で略式起訴された谷川弥一氏の辞職に伴う補選。立憲民主党は前回総選挙で谷川氏に2034票差の大激戦で敗れて比例復活した現職の山田勝彦氏の擁立を決めた。自民党は誰を擁立しても苦戦必死の情勢だ。しかも長崎3区は一票の格差是正のための区割り変更で次の総選挙では旧2区と旧4区に分割される。このため地元では新たな候補擁立へ慎重論が広がっている。岸田首相も不戦敗論だが、茂木幹事長は候補者擁立に前向きなのは、先述したとおりだ。

公選法違反事件で起訴された柿沢未途氏の辞職に伴う東京15区はさらに複雑だ。自民党公認で柿沢氏の前に当選した秋元司氏も汚職事件で起訴された。自民党は二代続けてスキャンダル議員を国会へ送り込んだ格好で、地元では今回の補選は厭戦機運が広がっている。しかも小池百合子東京都知事が国政復帰を目指して出馬するとの憶測がやまず、それならば小池氏支持に回って敗戦を回避するほうが得策だとの思惑もにじんでいる。裏金事件で政調会長を辞任した萩生田光一氏は自民党都連会長にはとどまった。逆風下で迎えた地元八王子市長選では小池氏の支持を取り付けて辛勝し、小池氏との連携を強めることで影響力の維持したい考えだ。東京15区補選では小池知事が出馬してもしなくても自民と都民ファーストが連携する可能性は高い。

以上の選挙情勢をふまえ、岸田首相としては①島根1区は立憲との激突を何としても勝ち切る②長崎3区は不戦敗でかわす③東京15区は都民ファーストに相乗りして「勝利」するーーかたちでしのぎたいところだ。この筋書きとおりだと、「2勝1敗」と評価することもできるし、不戦敗は除外して「2勝」と強弁することも可能かもしれない。

とはいえ、仮に島根1区で敗れると「1勝2敗の負け越し」と批判されるのは確実だ。さらに東京15区は自民党の勝利とはいえず、「2敗」や「全敗」と攻め立てられ、岸田おろしを誘発する恐れもある。

いずれにせよ、「岸田首相のもとで総選挙には勝てない」との空気が広がれば、9月の総裁選前に解散総選挙を断行して勝利し総裁再選に大きく前進する筋書きが崩れてしまう。

それならば衆院3補選を吹き飛ばす形で、4月10日の訪米直後に衆院を解散し、4月28日投開票の日程で総選挙を断行する「先手必勝」のほうが総裁再選への展望が開けるというのが、4月解散論だ。

内閣支持率は低迷しているとはいえ、野党はバラバラで、自公与党が過半数を割る機運は生まれていない。総選挙さえ乗り切れば、「岸田首相に代わる新しい選挙の顔」を求める石破茂元幹事長や上川陽子外相の待望論も消えていくだろう。9月に総裁再選を果たせば、長期政権が見えてくる。

その展開を最も警戒しているのが、ポスト岸田を狙う茂木幹事長だ。茂木氏は岸田首相と当選同期だが、年は二つ上。岸田再選なら首相への道は相当険しくなる。今回の総裁選がラストチャンスであろう。

岸田首相による総裁選前の解散(今国会会期末の6月が有力視されている)を防ぐには、4月28日の衆院3補選で惨敗し、首相の解散権を封じ込めるのがいちばんだ。そこで「不戦敗」ではなく「候補者を擁立して敗北」という結果にこだわっているとみられる。

茂木氏が衆院3補選への候補者擁立にこだわるほど、岸田首相は茂木氏を警戒し、3補選を回避するための4月電撃解散に傾く可能性がある。3補選をめぐる自民党内の攻防は、総裁選前の衆院解散をめぐる駆け引きといっていい。

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