政治を斬る!

幹事長、官房長官、安倍派会長…数々の要職でマスコミ政治部の番記者たちに守られてきた細田衆院議長のあまりに醜悪な退任会見

岸田内閣が旧統一教会の解散命令請求をした10月13日に、旧統一教会との関係が指摘されていた細田博之衆院議長が退任会見を開いた。

ジャニーズ事務所の記者会見で「ジャニーズとマスコミの癒着」に批判が殺到した直後だけに、報道各社の政治部記者たちからは「生ぬるい質問をしたら世論から批判を受ける」という危機感が伝わってきたが、それでも細田氏は質問をかわし続け、最後は一方的に記者会見を打ち切って逃げてしまった。

一言でいうと、ジャニーズ事務所よりひどい記者会見だった。

朝日新聞政治部記者だった私の眼から、この記者会見を振り返ってみよう。

各社記者がこの会見で絶対問わなければならなかったのは、以下の3点である。

① 旧統一教会との関係

細田氏は旧統一教会との関係が指摘されながら、これまで記者会見に一切応じず、自民党の調査の対象外でもあった。旧統一教会の会合に8回出席したことは認める一方、選挙支援や金銭授受はなかったとする文書を一方的に公表するだけで、国民の疑問や批判にはまったく答えてこなかったのである。

今回の退任会見は細田氏が旧統一教会とのかかわりについて公の場で答える初めての機会と言えた。

② セクハラ疑惑

細田氏は週刊誌報道で女性記者へのセクハラ疑惑が報じられていた。これについても明確な説明をしてこなかったため、今回の退任会見は細田氏を直接ただす絶好の機会であった。

③ 体調不良を理由に衆院議長を辞めるのに、次の衆院選には出馬する理由

細田氏は体調不良を理由に衆院議長を退任することにしたが、一方で「政治家としては元気そのもの」と語り、次の衆院選には島根1区から出馬する意向を示している。これに対し、「議長は務まらないのに議員は務まるというのは国会議員の仕事を軽視しているのではないか」との批判が地元の自民党県連からもあがっていた。

以上の疑問をしっかり問いただし、納得のいく答えを引き出すことが、記者側には要請されていたのである。

これに対し、細田氏がとった対応は、ジャニーズ事務所以下だった。いわば最悪の記者会見だったといっていい。具体的にみていこう。

① 記者会見への参加を1社1人に限定した

細田氏は記者会見への「参加」を「1社1人」に限定した。ジャニーズ事務所は「質問」を「1社1問」に限定したうえで指名しない「NGリスト」を作成して批判されたが、細田氏は「参加」そのものを「1社1人」に制限したのである。 

② 記者会見への参加は記者クラブ加盟者のみ フリーを排除した

細田氏はさらに記者会見への参加を記者クラブ加盟者に限った。フリー記者を排除したのである。これはジャニーズ事務所よりはるかに閉鎖的といっていい。

③ 記者会見は一方的に打ち切られた

細田氏は当初、記者クラブ側に会見時間は30分と通告したようだ。これに対し、記者クラブ側は反発し、結局は55分たったところで打ち切られた。ジャニーズ事務所は1回目の会見が質問が尽きるまで、2回目は2時間たったところで打ち切ったのだから、これも細田氏のほうがひどかったことになる。

④ 司会は細田氏側が務め、記者クラブ側は追及しきれなかった

記者会見の進行役(司会者)を細田氏側が務め、質問者を指名したのは、ジャニーズ会見と同じだった。ただ、冒頭に記者クラブを代表して幹事社が質問した点は違っていた。

永田町や霞ヶ関の記者会見は通常、当局者(官邸、省庁、政党、国会など)と記者クラブの共催であり、冒頭に記者クラブを代表して幹事社が質問し、その後の個別質問は当局者側が記者を指名し、会見終了は幹事社が判断するのが一般的だ。今回もおおむねそのような段取りだったとみられる。

幹事社は加盟者が順番に務めるが、今回は産経とNHKだった。この代表質問が甘かった。本来はこれまで細田氏が記者会見に応じて来なかったこと、そして今回の退任会見の参加者を限定したことなどに対し、記者クラブの総意として抗議しなければならなかった。

私の経験でいえば、かつては記者クラブが一致結束して当局者に抗議したり、情報公開を迫ることが多かったが、安倍政権以降はNHKや読売、産経などの「政権寄りメディア」がこれを嫌がり、記者クラブが一致結束できない場面が急速に増えた。今回もそうだったのかもしれない。

記者クラブがフリーを排除する閉鎖性は大問題だが、記者クラブの存在意義があるとすれば、一致結束して当局者に情報公開や記者会見のルール変更を迫ることだ。それができないのなら、記者クラブは弊害のほうが大きい。即刻解体すべきだろう。

記者会見を一方的に打ち切る細田氏と、それに抗議する記者クラブ側とやりとりのなかで、私がとくに注目したのは、細田氏の以下の発言である。記者たちにこのような言葉を投げかけて懐柔しようとしたのだ。

「後の話はまた個別で」

「会見じゃなくて会話しましょう」

「これからみなさんとお付き合いもある。またいろんな場を通じて自由な会話をやりましょう」

これらは要するに「カメラが回っている記者会見では本音は言えないから、あとで番記者に皆さんには会食でもしながらオフレコで本音を語りますよ」ということである。

オフレコ取材は、発言者を明示して報道しないことを約束したうえで話を聞く取材手法だ。政治家の本音や背景事情など公式には言いにくいことを聞き出すメリットがある一方、政治家に嘘をつかれても責任を問うことができず、世論操作に利用される恐れが極めて高い。

さらに政治部の番記者は、各社によるオフレコ取材から外されること(出入り禁止)を恐れて記者会見や記事で政治家を厳しく追及しない体質が染み込んでいる。これもオフレコ取材のおおきな弊害と言って良い。

政治家は常にマスコミを通じたオフレコ取材で自分に都合の良い情報を発信し、世論を誘導している。テレビや新聞が報じる政治記事の多くは、政治家の世論操作に加担しているのが実態だ。

細田氏は幹事長、官房長官、安倍派会長、衆院議長など要職を歴任した大物政治家で、常に番記者に取り囲まれ、オフレコ取材を重ねてきた。番記者たちは、さまざまなスキャンダルのときもオフレコ取材の場で厳しく追及せず、言い逃れる細田氏を許してきた。

だから細田氏は今回も「番記者とのオフレコ取材に持ち込めば逃げ切れる」と思っているのである。

まさに記者クラブが舐められているのだ。

それが露骨に現れたのが、女性記者へのセクハラ疑惑であろう。

細田氏は退任会見で「誰一人具体的に名乗りをあげた人はいない」「裁判で争うしかない」「心当たりがない」と開き直った。女性記者のオフレコ取材のなかで起きた「セクハラ」を公の場で語ることをマスコミ各社の上層部が許すはずがないーーそう高を括っている。

このセクハラ疑惑にこそ、政治家と政治記者の癒着が凝縮しているのである。

細田氏の退任会見での傲慢な振る舞いを目の当たりにして、政治部の番記者たちに守られてきた老害政治家の醜悪な末路を見た思いだ。ここには、常日頃の政治取材のあり方、記者クラブ制度の弊害が凝縮されている。

そしてもうひとつ問われるのは、自民党だ。旧統一教会との関係について説明を果たさず、セクハラ疑惑で開き直るこの人物を、ほんとうに次の衆院選で公認するのか?

自民王国の島根1区では自民党が公認すれば細田氏は当選する可能性が高い。そんな結果になれば、国民の政治不信はますます募るばかりである。

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