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衆院解散の大義となる内閣不信任案〜されど記者首相のヤケクソ解散の力なし 粛々と否決され国会は閉会、9月の総裁選へポスト岸田レースが本格化

立憲民主党が6月19日開催の党首討論後に内閣不信任案を提出する方針を固めた。岸田文雄首相にはこれに対抗して衆院解散を断行する力はもはやない。自公与党は粛々と否決し、国会は23日で閉幕。いよいよ9月総裁選にむけてポスト岸田レースがはじまる。


議院内閣制は国会の与党(多数派)が内閣を支える仕組みだ。衆院本会議で内閣不信任案が可決されたら、内閣は総辞職するか、衆院を解散するかを選ばなければならない(憲法69条)。

野党提出の内閣不信任案は通常、衆院で過半数を占める与党の反対多数で粛々と否決される。このため、野党が国会の会期末に「やってる感」をアピールするための恒例行事と揶揄されることもある。

しかし、野党提出の内閣不信任案が政局を大きく動かすことも時々ある。以下の二つの場合だ。

例外① 首相が内閣不信任案の提出を大義として衆院解散を断行する場合

衆院の解散権は「首相の大権」と言われる。憲法学会には異論もあるものの、首相は自らが有利なタイミングでいつでも解散権を行使できると歴代政権は解釈してきた。

とはいえ、政治的にはやはり「解散の大義」が必要となる。「今なら勝てる」という党利党略だけで解散を断行すれば世論を批判を招き、かえって選挙にマイナスに作用する恐れがあるからだ。

このため、野党が内閣不信任案を提出することは「解散の大義」になると理解されてきた。与党が衆院の過半数を占めて不信任案を否決できるとしても、野党が不信任案提出で「国民の信を問え」(すなわち解散)と要求している以上、それに応じて解散総選挙を断行しても、双方の合意のうえでの解散であり、党利党略との批判を浴びないためだ。

このため、内閣支持率が高くて自公与党が優勢な時、野党は首相に解散の口実を与えることを恐れ、国会会期末でも内閣不信任案の提出を避ける場合がある。この時、野党は「弱腰だ」との批判を浴びるが、強がって不信任案を提出して解散で対抗され、惨敗したら元も子もない。じっと批判に耐え、内閣支持率が落ちるのを待つしかないというわけだ。

一方、首相は「いま総選挙をしたら議席を減らす(最悪の場合は過半数を割り込む)」と判断した場合は衆院解散には応じず、不信任案を与党の反対多数で粛々と否決する。

首相が解散権を握っている以上、野党がどんなに声をあげても、それだけで解散に追い込むことはできない。マスコミが「野党は解散に追い込む方針だ」「解散に追い込むことができなかった」などと報じるのは、政治の現場の実態とはかけ離れているミスリードだ。

例外② 与党の一部が造反して野党提出の内閣不信任案に賛成または欠席した結果、可決される場合


衆院の過半数を占める与党の議員の一部が造反し、野党提出の内閣不信任案の採決で賛成に転じたり、欠席したりした場合、その結果として不信任案が可決される事態が起こりうる。こうなると、大政局だ。内閣は憲法69条に従って、総辞職するか、衆院を解散するかを決断しなければならない。

総辞職した場合は総選挙は行われず、衆院で首相指名選挙が行われる。与党議員の一部が造反したのだから、この場合は与野党を巻き込んだ多数派工作で繰り広げられ、新しい首相が選ばれ、新しい内閣が発足する。

一方、内閣が衆院解散を決断した場合は総選挙へなだれ込む。総選挙後、再び国会が召集され、当選した議員たちによって首相指名選挙が行われる。

1993年に野党が提出した宮沢内閣不信任案は自民党の小沢一郎氏らが造反し、可決された。宮沢喜一首相は衆院解散に踏み切り、総選挙へ。自民党は過半数を割って下野し、非自民連立政権が誕生した。

自民党の党内闘争が激化しているタイミングで内閣不信任案を提出すれば自民党分裂を誘発し、大政局に発展することも十分にあるのだ。

それでは、今回の不信任案はどうか。
まず、例外①については、岸田内閣の支持率はマスコミ調査で10%台まで落ち込んでいる。自民党内からも首相退陣論が公然と噴き出すありさまで、キングメーカーの麻生太郎副総裁も、非主流派ドンの菅義偉前首相も岸田首相を見切り、9月総裁選へ始動している。公明党も岸田首相のもとでの解散総選挙には断固反対だ。

岸田首相が解散総選挙を断行できる状況にはとてもない。だからこそ、野党は安心して不信任決議案を提出できるともいえる。

では、例外②についてはどうか。確かに岸田首相は自民党内でも孤立無縁なのだが、9月に総裁選を控え、自民党内はポスト岸田レースがいよいよ始まる様相だ。ここで野党提出の不信任案を可決しなくても、岸田首相を総裁選で引きずり下ろすことは十分に可能だし、不信任案可決で岸田首相を追い込み、ヤケクソ解散に打って出られたら目も当てられない。このため、現時点で自民党内で造反の動きはまったくない。

今回の内閣不信任決議案は与党の反対多数で粛々と否決され、国会は予定通り6月23日で閉会し、岸田首相のレームダック化が加速、自民党内ではポスト岸田レースがいよいよ本格化するということになろう。

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