石破茂総理が、衆参両院での選挙敗北にもかかわらず「続投」を表明したことにより、自民党内が騒然としている。すでに政権内外から退陣を求める声が高まり、事実上の“レームダック”状態。政局は急展開を見せており、石破氏は近く進退を迫られる情勢だ。
次の総理は誰になるのか、そして、自民党はどの野党と手を組むのか──混迷を深める永田町の動きを分析する。
「続投」は誤算?孤立無援の石破政権
衆議院選挙に続き、参議院選挙でも惨敗。与党・自民党は衆参両院で過半数を失い、議会運営はにわかに不透明になった。しかし、石破総理はこの局面でも退陣を否定し、続投の意向を示した。
これに猛反発したのが、自民党内の反主流派だ。麻生太郎元総理は「続投は許されない」と周囲に明言し、河野太郎氏や木原誠二氏など党幹部の辞任表明も相次いでいる。
加えて、旧安倍派の萩生田光一氏や斎藤健氏までもが「野党に政権を明け渡すべき」と主張し、もはや石破政権は四面楚歌の様相を呈している。
こうした声の背景には、自民党の党則にある「リコール規定」の存在もある。国会議員と都道府県連代表の過半数が求めれば、総裁選を前倒しできる制度であり、石破おろしの動きが制度的な正当性を帯び始めているのだ。
一方、野党側も石破政権への不信をあらわにしている。立憲民主党の野田佳彦代表は「この政権には正統性がない」と突き放し、国民民主党の玉木雄一郎代表も「民意を軽視している」と厳しく批判している。読売新聞の緊急世論調査では、内閣支持率はわずか22%まで急落し、総理の辞任を求める声は5割を超えた。
退陣への節目となる「8月1日」
石破総理退陣のタイミングとして有力視されているのが、8月1日だ。この日には2つの重大な政治イベントが予定されている。
一つは、トランプ米大統領による対日関税の引き上げが発動される見通しだ。石破総理は続投理由として「対米交渉の継続」を掲げ、今月中に訪米してトランプ氏と直接会談する構えを見せていた。赤沢大臣が訪米した23日に日米協議が合意したと発表されたが、その詳細やどのような影響が出るかはなお不明だ。
もう一つは、同日召集される臨時国会だ。通常であれば形式的な議長人事などで数日で終了するが、今回は野党が内閣不信任案を提出する可能性がある。石破総理が自発的に退くのか、不信任で引きずり下ろされるのか──政局は極めて流動的だ。
この情勢を踏まえ、自民党の森山幹事長は7月28日に両院議員懇談会を開催すると発表。党内の意見集約を行い、場合によっては石破氏自身がその場で進退について説明する可能性も取り沙汰されている。
総裁選、鍵を握るのは「方式」
石破退陣の後、ただちに次期総理が決まるわけではない。まずは自民党の総裁選が行われる。
ここで焦点になるのが、「緊急の総裁選」か「正規の総裁選」かという選択肢だ。
「緊急の総裁選」は、両院議員総会で国会議員と都道府県連代表だけが投票する方式で、短期間での決着が可能。一方、「正規の総裁選」は全国の党員が参加し、2週間ほどかけて実施される。石破総理は「政治空白を避けるべき」として、緊急方式を支持するとみられる。
党員人気が高い高市早苗氏は、「正規の総裁選」の方が有利だ。一方で、林芳正官房長官のような現主流派の候補は、党員投票がないほうが勝ちやすい。党執行部がどちらの形式を選ぶかが、総裁レースの第一ラウンドとなる。
次の連立相手はどこか? 鍵を握る野党
総裁選の行方は、そのまま新たな政権の形に直結する。衆参両院で過半数を割った自民党は、野党との連携が不可欠だ。
林氏が勝てば、立憲民主党との「大連立」構想が浮上する。水面下ではすでに協議が進んでいるともいわれるが、党内の反発も強い。もし高市氏や茂木敏充氏ら反主流派が勝利すれば、国民民主党や日本維新の会との連立が現実味を帯びる。
また、小泉進次郎氏が出馬するかどうかも注目される。農政改革で注目されたが、保守層の反発も根強く、リスクの高い一手になる。
一方、岸田文雄前総理の再登板も取り沙汰されている。外交面での安定感や、米国とのパイプを評価する声は党内外に根強い。特に、高市氏のタカ派的な外交姿勢に懸念を持つ米政府関係者は、岸田氏の復活を望む傾向もあるという。
現時点での有力シナリオは、「高市政権」の誕生と、それに国民民主党が加わる形の「自公国連立」だ。だが、政局の風向きは日々変わる。8月の情勢次第では、岸田氏が再び表舞台に返り咲く可能性もある。