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石破茂元幹事長が「憲法9条2項の削除」を打ち上げた狙いは? 党内右派の支持を取り付け、高市早苗と決選投票で連携し、麻生・茂木連合に対抗

自民党総裁選への出馬に意欲を見せる石破茂元幹事長が、高市早苗経済安保担当相との連携を探り始めた。高市氏を熱狂的に支持する右派の支持獲得が狙いだ。

石破氏の最大のライバルは、キングメーカーの麻生太郎副総裁に担がれる茂木敏充幹事長。石破氏は世論調査で茂木氏を圧倒しているものの、自民党内では嫌われていて、国会議員票では茂木氏に及ばない。

双方とも決定力に欠け、第一回投票ではどちらも過半数に届かず、決選投票にもつれ込む可能性が高いとみられている。

同じく総裁選出馬を目指す高市氏と手を結ばなければ勝利はない。

石破氏はそう考え、ついに切り札を切った。「憲法9条2項の削除」を打ち上げたのだ。

石破氏はインターネット番組に出演し、9月の総裁選に出馬した場合、戦力不保持を定めた憲法9条2項の削除を訴える意向を表明した。「9条2項は変えなくては駄目だとずっと言ってきた。私が(総裁選に)出る出ないは別として、そういう議論を戦わせてこそ総裁選の意義がある」と語った(時事通信参照)

憲法9条は1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」として戦争放棄を掲げたうえ、具体策として2項で「前項の目的を達するため、 陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない」としている。

2項を削除すれば、戦争放棄の理念だけを掲げ、それを実行するための具体策である「戦力不保持」の看板を下すことになる。

日本はすでに自衛隊を保持し、強力な「戦力」を事実上持っている。これはあくまでも「交戦」するための「戦力」ではなく、国家を守るため、専守防衛のための最小限度の「自衛力」という理屈だ。

日本の歴代政権はこうした解釈により、憲法と自衛隊の整合性をとってきた。「自衛」の範囲を少しずつ広げることで有事法制や集団的自衛権の解釈変更などを進めてきた。

改憲派は憲法9条が現代の国際情勢に適していないと主張する一方、護憲派は憲法の解釈変更は違憲だと主張。日本の憲法論議は平行線をたどってきたが、憲法9条があるからこそ軍備増強に一定の歯止めがかかってきたのは事実である。

とはいえ、これは非常にわかりにくく、憲法の形骸化につながっているとも指摘されてきた。

強硬な改憲論者だった安倍晋三元首相は9条の1項と2項を維持したうえで「自衛隊保持」を新たに明示する改正案を主張していたが、石破氏の2項削除は安倍氏よりも踏み込んだ内容といっていい。

石破氏の狙いはどこにあるのか。

9月の自民党総裁選は、麻生太郎氏と菅義偉氏のふたりの元首相のキングメーカー争いである。

岸田文雄首相は内閣支持率が低迷して「選挙の顔」になり得ず、不出馬に追い込まれるとの見方が強い。麻生氏は茂木敏充幹事長を担ぐとみられ、菅氏はこれに対抗して世論調査で人気トップの石破氏を担ぐことを検討している。

党内力学だけなら、茂木氏が優勢だ。岸田首相が派閥解消を掲げた後も唯一派閥を存続させている麻生派の支援を受けるうえ、茂木派は解散に追い込まれたものの息のかかった中堅・若手は少なくない。しかも幹事長として党運営を担ってきたことから一定の勢力は維持している。

これに対し、石破氏は安倍政権で長く干され、非主流派暮らしが長くなった。石破派はすでに解体され、党内基盤は極めて脆い。菅氏の力なしには推薦人20人の確保にも苦労しそうだ。

菅氏は非主流派の萩生田光一前政調会長(安倍派)、加藤勝信元官房長官(茂木派)、武田良太元総務相(二階派)と連携を強めて麻生・茂木連合に対抗しているが、党内の多数派工作ではやや劣勢である。

そこで鍵を握るのは、党内右派だ。安倍氏が他界した後、右派の求心力は低下した。安倍氏が前回総裁選に担いだ高市早苗氏は安倍支持層の支持を受けるものの、安倍派5人衆は高市氏を敬遠してきた。高市氏は総裁選出馬に意欲を示しているが、党内右派を結束させることは容易ではない。

石破氏は憲法9条2項の削除を打ち上げたのは、党内右派を引き込む狙いであることは明白だ。さらに高市氏の出馬を抑えることはできなくても、決戦投票で高市氏を連携し、場合によっては高市氏に幹事長ポストを約束することも視野に入れているのだろう。

菅氏も右派に人気の雑誌Hanadaで麻生氏を暗に批判するなど右派取り込みに力を入れている。石破・高市連合が実現するかどうか、総裁選の焦点のひとつである。

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