政治を斬る!

高市政権だけは阻止したいという消去法で誕生した石破政権の党内基盤は脆弱、麻生太郎はキングメーカーから陥落、菅義偉も小泉進次郎惨敗で影響力低下、権力の中心は見えず〜早期解散(10月27日投開票)も

自民党の石破茂氏が5度目となる自民党総裁選に勝利し、10月1日、ついに総理大臣になる。
総裁選の第一回投票では、高市早苗氏が党員投票で1位となり、国会議員票でも予想を大きく上回る票を得て総合トップに立ち、2位石破氏との決選投票に臨んだ。

高市氏か、石破氏か。経済政策や外交政策は真逆。どちらが勝つかで日本の行方が大きく変わる緊迫の大一番となった。安倍支持層に絶大な人気で靖国参拝など右寄り政策を打ち出す高市氏への警戒感が土壇場で広がり、石破氏に国会議員票が流れ、逆転した。

最大の焦点は キングメーカー麻生太郎氏の出方だった。
麻生氏は麻生派として担いだ河野太郎氏を見捨て、第一回投票から高市氏に乗り、キングメーカーの座を争う菅義偉氏が担ぐ小泉進次郎氏を3位に脱落させた。しかし、決選投票では石破氏を第二のカードとして用意していた菅氏に敗れ、キングメーカーから陥落した。

一方、菅氏も小泉氏惨敗で痛手を負った。もともと石破氏擁立を検討していたものの、小泉氏に乗り換えた経緯があり、石破氏とも一時はすきま風が吹いていた。決選投票ではアンチ麻生、アンチ高市で結束したが、菅氏に依存して勝利したわけではなく、傀儡政権にはならないだろう。

とはいえ、石破氏は党内基盤が極めて弱い。第一回の国会議員票で小泉氏(75票)、高市氏(72票)に大きく水を開けられた46票にとどまった。今後の人事で党内を掌握できるかが鍵となる。

権力の中心がどこに移るのか、現時点では見えにくい。

第一回投票の結果を分析してみよう。

党員票
高市 109 ①  
石破 108 ②  
小泉  61 ③ 

国会議員票
高市  72 ②  
石破  46 ③  
小泉  75 ①  

党員票は石破氏と高市氏が激しく競り合っていると予想されていたが、1票ながら高市氏が1位になったインパクトは大きい。推薦人20人を集めるのにも苦労しながら、党員人気ではトップだったわけで、自民党の党員世論と国会議員の認識に落差があることが浮き彫りになった。

一方で、世論調査では高市氏は石破氏ばかりか小泉氏にも及ばない結果も出ており、党員世論と一般世論の落差も露呈した格好だ。自民党が国民世論より大きく右へシフトしていることが数字として現れたといえ、自民党の保守化・右傾化がはっきりしたといえるだろう。

小泉氏は解雇規制のみなしをめぐる迷走に加え、選択的夫婦別姓法案を一年以内に提出するという公約が右傾化する自民党員に敬遠された。高市氏支持の右派層はネット上で激しい小泉ネガティブキャンペーンを展開し、人気凋落に拍車をかけた。さらには43歳という年齢も「まだ若すぎる」と批判の的になり、世代交代への抵抗感が強いことを示した。

国会議員票では小泉氏が健闘したものの、注目すべきは高市氏の大躍進だった。当初は30票台とみられていたが、倍増させた格好である。これは投票前夜に麻生氏が派閥メンバーに第一回投票から高市氏に投票するよう指令を出したと報じられた影響が大きい。麻生派ばかりか、最終盤まで態度未定だった約40人の議員にも高市優勢の見方が広がり、高市氏へ票がなだれ込んだようだ。

石破氏は最大派閥・安倍派と第二派閥・麻生派の双方に嫌われており、国会議員票では予想通り伸び悩んだ。党員票の支えと、小泉氏の大失速でかろうじて決選投票へ進むことができたのである。

続いては決選投票をみてみよう。

決選投票

石破 国会議員189  地方26   合計215
高市 国会議員173  地方21   合計194

決選投票では高市氏への警戒感が一気に広がった。

米国が高市政権の誕生を最も警戒していたことが背景にある。

高市氏は首相になっても靖国神社に参拝すると宣言していた。靖国参拝を実行すれば韓国世論を刺激し、日米韓の連携が揺らぐことを米国は最も恐れたのである。ウクライナ戦争後、ロシアや中国に対抗するため日米韓の連携を強固にすることが米国のアジア外交の基本戦略だ。韓国が中国や北朝鮮に近い文政権から米国や日本に近い尹政権へ交代して日米韓の連携がせっかく強まったのに、高市政権が誕生すれば亀裂が生じかねない。尹政権が踏みとどまったとしても、2027年の大統領選で再び中国や北朝鮮に近い政権が誕生する恐れがある。

米国は総裁選最中も自民党議員たちに「高市政権だけは勘弁してほしい」と働きかけていた。自民党は対米関係を最重視する傾向が強く、決選投票での議員心理に影響した可能性は高い。

もうひとつは、目前に迫る総選挙への影響だ。

高市氏は党員人気は急上昇しているものの、一般世論では石破氏の支持を大きく下回っている。総裁選は党員しか参加できないが、総選挙は国民全体の審判を仰ぐ。中間層が「右すぎる高市首相」を警戒し、立憲民主党へ流れる恐れがあるのだ。とりわけ立憲民主党で中道の野田佳彦元首相が代表となったことで、高市勝利による自民党の右傾化を懸念する空気が広がった。

こうしたなかで、決選投票では小泉氏を支持した菅氏らに加え、第三派閥・茂木派や第四派閥・岸田派がこぞって石破支持に流れたと見られる。第二派閥・麻生派は高市氏を支持したものの、石破アレルギーが強い最大派閥・安倍派の一部も石破氏に流れた可能性がある。

石破政権は「高市政権だけは阻止したい」という高市包囲網による消去法の選択で誕生したといっていい。


それでは、麻生氏はなぜ、高市氏に乗ったのか。
まずは、上位三人のうち、石破政権の誕生だけは看過できないという思いがあった。麻生氏はかつて麻生内閣で石破氏が農水相でありながら麻生おろしに真っ先に動いたことを今なお根に持っているのである。

小泉氏には同じ政治名門一家として安心感もあった。問題はバックに菅氏がついていることだ。麻生氏が第一回投票から小泉氏に乗れば、決選投票は小泉vs石破の構図となり、おそらく小泉氏が勝っただろう。菅氏と折り合うことさえできれば、ダブルキングメーカーとして生き残ることができた。けれども麻生氏は小泉氏を選択しなかった。菅氏と折り合えなかったことに加え、小泉氏が党員投票で予想以上に失速したため、高市氏に乗ったほうが石破氏を確実に倒せるとみたのだろう。

この読みが裏目に出た。結果的には高市氏に乗ったことで失脚の憂き目を見ることになったのである。

私は、麻生氏は叩き上げの政治家である高市氏よりは、同じ世襲政治家の小泉氏のほうが乗りやすいとみていた。高市氏に対する米国の警戒感も、親米派の麻生氏の判断に大きく影響すると思っていた。菅氏とは確かにキングメーカー争いを続けていたが、高市氏に乗って敗れて失脚するよりは、菅氏との共存を土壇場で目指すのではないかと踏んでいた。

麻生氏がそのような政治判断をせず、高市氏に乗ったのは、今でもしっくりこないところがある。この政治決断はあきらかに合理性を欠いている。麻生氏は総裁選最中に84歳になった。政局の流れを読む老獪な政治判断力に陰りが出始めたのかもしれない。麻生派が乗れば高市氏が必ず勝てると派閥の力を過信し、読み間違えたとしかいいようがない。

この政局判断の誤りは致命傷である。10月解散総選挙で政界引退に追い込まれる可能性もあるだろう。

解散総選挙のタイミングはどうか。

小泉氏が「できるだけ早期に衆院を解散する」として10月9日解散、10月15日公示、10月27日投開票のシナリオを練っていたのに対し、石破氏は国会で野党と論戦したうえで解散すべきと主張。当初は予算委員会を開催した後に10月中下旬に解散、10月29日公示、11月10日投開票の日程を描いていた。

しかしこの場合、10月27日の参院岩手補選(自民党の広瀬めぐみ氏のスキャンダル辞任の伴う補選)が新政権の初戦となる。自民党は候補者擁立を断念する方向で、新政権はいきなり不戦敗となり、せっかくの新政権誕生の勢いが止まってしまいかねない。

自民党内からは党役員・組閣人事を経て内閣支持率が期待通りに上昇すれば、やはり小泉氏と同様、「できるだけ早期に衆院解散」に踏み切るべきだという声が高まるだろう。

当初予定の予算委員会にこだわれば、衆参双方で少なくとも1〜2日ずつの日程が必要となり、10月27日投開票に間に合わない。しかし、党首討論であれば1日で実施できる。石破氏の論戦重視の姿勢を貫きつつ、早期に衆院解散することも可能だ。

10月1日(火)に首相指名と組閣人事、4日(金)に所信表明、7日(月)〜9日(水)に衆参代表質問、11日(金)に党首討論を実施した後に衆院解散、15日(火)に公示、27日に投開票ーーこの超短期決戦の日程が有力ではないかと私はみている。

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