石破茂内閣が誕生する。岸田文雄前首相と菅義偉元首相と同盟し、安倍晋三元首相と麻生太郎元首相の影響力一掃を狙う布陣といっていい。
おそらく内閣支持率は上がるだろう。石破氏は10月9日に党首討論をした後に衆院を解散し、15日公示ー27日投開票の超短期決戦の総選挙に臨む。
野田佳彦元首相が率いる立憲民主党は埋没しており、総選挙は石破自民党ペースで進むだろう。
10月解散総選挙で勝利し、来夏の参院選にも勝てば、政権基盤が弱いなかで発足した石破政権は徐々に強固となり、意外に長期政権になる可能性もある。まずは衆参選挙がすべてだ。
石破氏は1990年代の政界再編で自民党を離党し、新進党に移り、自民党に復党した。この政治行動から自民党内では「裏切り者」と揶揄され、出戻り組であることから「外様」と位置づけられた。総裁選で過去4度も敗れ続けたひとつの要因である。
自民党が誕生した後、自民党以外の政党に所属した政治家が自民党政権の首相になるのは初めてだ。石破氏と同じように、自民党を離党して舞い戻った河野洋平氏(新自由クラブを旗揚げした)は自民党が野党時代に総裁になったものの、首相にはなれなかった。石破氏は自民党初の「外様首相」「裏切り者首相」といってよい。
石破氏と決選投票を争った高市早苗氏もかつて新進党に身を置いた「外様」である。今回の自民党総裁選の決選投票は外様同士の対決だったのだ。
政治家4代目で首相を父に持つ自民党のサラブレッド・小泉進次郎氏が党員票で大失速し、外様の石破氏と高市氏が躍進したところに、自民党の変化が読み取れるかもしれない。
ちなみに立憲民主党の代表になった野田佳彦元首相も新進党出身である。10月解散総選挙は、新進党出身者同士の激突なのだ。
さらには公明党新代表になった石井啓一氏も新進党に在籍した。その新進党を旗揚げした小沢一郎氏は82歳。政権交代にむけた最後のチャンスだとして民主党政権で対立した野田氏と和解し、今回の代表選では野田氏を支持したのだった。
1990年代の政界再編で、守旧派とされた自民党ではなく新興勢力に身を置いた当時の若手政治家たちが、30年の時を経て政界の表舞台に並び、与野党に分かれて政権を競い合う。
安倍氏や麻生氏が支配してきた日本政界が大きく変わる気配は確かにある。
石破氏が麻生氏を副総裁から外して名誉職である最高顧問に祭り上げたのは象徴的だ。
安倍支持層から熱狂的な支持を受け、総裁選では麻生氏の支持を受けて決戦投票に進んだ高市早苗氏が幹事長就任を期待していることを知りながら、総務会長を打診して固辞させた。同じく麻生派の支援を受けた小林鷹之氏が重要閣僚を期待していると感じながら、広報本部長を打診して固辞させた。これらの人事も脱安倍・脱麻生路線を映し出している。
石破人事で私が最も驚いたのは、安倍氏を「国賊」と呼んで党役職停止処分を受けたことがある村上誠一郎氏の総務相起用だった。石破氏の「脱安倍」を象徴する人事といってよい。
次に驚いたのは、麻生氏に持ち上げられてポスト岸田候補となり、総裁選にも麻生派の支援で出馬した上川陽子外相をあっさり切り捨て、麻生派を離脱して石破選対本部長になった岩屋毅氏を外相に起用した人事だった。こちらは「脱麻生」のシンボルだ。
世論はおおむねこの流れを評価するのではないか。立憲民主党の野田氏はこれに対抗して「世襲」「裏金」を批判して巻き返しを狙うが、超短期決戦は石破自民党のペースで進みそうである。
いずれにせよ、日本政界に君臨してきた「安倍・麻生」の時代は終焉を迎えつつある。