自公与党が過半数割れする可能性を指摘した朝日新聞や共同通信の情勢調査の受け、「自公過半数」を勝敗ラインに掲げている石破茂首相がいよいよ追い込まれてきた。政敵である安倍晋三元首相が多用した「悪夢の民主党政権」のフレーズまで持ち出し、野党批判を展開しはじめたのだ。
石破首相はかつて、安倍元首相の「悪夢の民主党政権」発言を批判していた。今回の発言は、過去の自らの発言と矛盾するうえ、石破人気を支えてきた「脱安倍」路線も自ら否定するもので、「ブレまくる石破首相」を象徴するものだ。
総選挙最終盤で打つ手打つ手が裏目に出て、自公与党はさらに失速する気配が強まっている。自民党が惨敗した場合、裏金批判に加えて石破首相の変節ぶりが大きな敗因と指摘され、石破退陣論が噴出する可能性が高いだろう。
一方、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党は、自公が過半数割れした場合、自公連立に加わることを否定している。とはいえ、維新や国民をはじめ野党各党が立憲の野田佳彦代表を担ぐ野党連立政権を誕生させる意欲も熱気も今のところ皆無だ。
自公与党が過半数割れした場合、石破首相が退陣表明して再び自民党総裁選が行われるかどうかが焦点となる。石破首相の進退がどうなるにせよ、当面は自公が少数与党となり、個別政策ごとに野党各党と個別に協議して予算案や法案を成立させる「パーシャル連合」(部分連合)になる可能性が強まっている。
石破首相は自公過半数割れの可能性が強まっているとのマスコミ情勢調査を受けて、自民の各陣営への「私も死に物狂いで全国を駆け巡る」と危機感をあらわにする緊急通達を出した。
けれども、時事通信の最新世論調査で内閣支持率は28%まで急落しており、党内からは「不人気の石破首相が応援に来ても票は増えない」と突き放す声が広がっている。選挙の顔としては完全に失格の烙印を押された格好だ。
石破首相は自民党として公認したものの比例重複を認めなかった裏金議員の応援にも入り始めた。自公過半数割れを防ぐため、裏金議員であっても当選できそうなら何としても勝ち上がってほしいというなりふり構わぬ姿勢だが、むしろ裏金議員に甘いとして世論の批判を浴びて逆効果との指摘も広がっている。
さらにここにきて自民党が非公認の裏金議員の選挙区支部にも事実上の公認料として2000万円を支給していたことが赤旗のスクープで発覚し、森山裕幹事長も事実関係を認めた。非公認とは名ばかりで、裏金問題への甘い姿勢が総選挙最終盤に露見した格好で、自民党にとって痛打となりそうだ。
さらに石破首相のブレを象徴するのが、応援演説で「悪夢のような民主党政権と言うが、あの頃を覚えている人はずいぶん減っている」「あんな人たちにこの国を任せるわけにはいかん」と発言したことだ。「悪夢の民主党政権」は安倍元首相が多用したフレーズだった。「あんな人たち…」も安倍氏が批判勢力を指して「こんな人たち…」と批判したことを彷彿させる言葉である。
石破首相は安倍派の入閣をゼロとし、安倍氏を「国賊」と呼んだ村上誠一郎氏を総務相に起用して「脱安倍」路線を鮮明にしていたはずだった。ところが、自公過半数割れの危機に直面し、安倍氏が多用したフレーズを総選挙最終盤に持ち出してまで野党批判を展開したのである。
しかも、石破首相はかつて安倍氏が「悪夢の民主党政権」という言葉を使ったことを「過去に終わった政権のことを引き合いに出して『自分たちが正しいんだ』というやり方は危ない。国民が求めているのは民主党に対する批判ではない」と批判していた。それを自ら持ち出して野党批判を展開したことは、「ブレる石破」を象徴する事象として、石破首相の言葉に対する信用性をますます下げるだろう。
自民党は裏金事件に加え、石破首相の変節ぶりが痛打となり、いよいよ惨敗の可能性が強まってきた。自公与党が過半数割れすれば、石破首相がはやくも退陣に追い込まれるうえ、少数与党の政権となり、政局はいっそう不安定化する可能性が高い。