トランプ氏が米大統領に返り咲いたことで、世界の通商秩序が大きく揺らいでいる。中でも注目すべきは、トランプ氏が全世界に向けて発動した「相互関税」だ。
日本への関税率は24%。これは中国(34%)、韓国(25%)、EU(20%)と比較すれば特別に高いわけではないが、同盟国として扱われているはずの日本が「優遇」されていない現実を示している。
石破茂首相は2月に訪米し、日米首脳会談でトランプ氏に対して低姿勢を貫いた。「無理難題を押し付けられなかった」と日本のメディアは持ち上げたが、実際は交渉らしい交渉もできず、結果として「相互関税」の対象に日本も含まれることとなった。
しかもトランプ氏は「相互関税」を発表した記者会見で、石破氏の政敵・安倍晋三元首相を「素晴らしい男だった」と賞賛してみせた。石破氏に対する露骨な当てつけだ。
石破外交は崩壊である。株価は暴落して日本経済は大打撃を受けている。企業の経営不安、そして国民生活への影響が現実味を帯びている。内閣支持率はさらに下落していくだろう。
にもかかわらず、石破首相はこの状況を逆手に取り、自らの政権延命に利用しようとしているのだ。
石破氏は「これは国難だ。与野党を超えて対応しなければならない」と発言。自らの外交失敗を棚に上げ、国内の政争を封じ込める構えを見せている。
これは自民党内の「石破おろし」を抑えるだけでなく、野党に対しても政権批判を控えるよう求める“免罪符”として機能している。
この「国難」発言の真の狙いは、立憲民主党との大連立への布石に他ならない。
石破氏は年始の会見で「大連立は選択肢の一つ」と語り、後に撤回したが、火種はくすぶり続けていた。
そのとき、立憲民主党の野田佳彦代表も「平時には考えていない」としながらも「パンデミックや大きな危機」のときは大連立もありえると言及していた。
今回のトランプ関税は、まさにその「危機」に該当するわけだ。石破氏の「国難」発言は、野田氏へのラブコールといっていい。
石破政権は極めて不安定だ。自民党内では「このままでは参院選は戦えない」との声が強まっており、内閣支持率も低迷。さらに、若手議員に商品券10万円を配った疑惑が報じられ、国民の信頼も揺らいでいる。少数与党国会で野党が一致すれば、内閣不信任案はいつ可決されてもおかしくはない。
こうした中で石破氏は「国難」を盾に野党と連携し、大連立による延命を模索している。
立憲民主党にとっては、党勢の低迷という現実がある。野田代表は「増税派」のイメージが強く、減税を掲げる国民民主党に支持率で追い抜かれて埋没している。参院選では惨敗の可能性すら指摘されている。
このまま何もせずに選挙を迎えれば、立憲民主党は野党第一党からの転落、ひいては党の分裂すら現実味を帯びる。大連立で党勢を回復させたいという“動機”が存在するのは否定できない。
だが、立憲民主党がここで大連立に踏み切れば、当面は権力の甘い汁を吸うことができても、次の総選挙では国民の支持を失い、自民と共に沈没するだろう。なぜなら、自公政権と組むことは、政権交代を期待してきた立憲支持層にとっては「裏切り」以外の何物でもないからだ。
外交に失敗し、経済に打撃を与えながらも、責任を取らずに政権を維持しようとする──石破首相の姿勢は、まさに「最も危険な権力者」の典型である。弱くなるほど延命する、極めて特異な政権と言える。
今、日本政治は岐路に立っている。問われているのは、野党の覚悟であり、国民の監視力だ。
石破首相に日本の舵取りを任せ続けてよいのか。そして「国難」を口実にした政界再編──自民・立憲の大連立を許すのか。日本の大きな岐路である。