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総裁選の最大焦点「石破票の行方」――進次郎を押し上げた皮肉な誤算

自民党総裁選の最大の焦点は、去りゆく石破茂総理の支持層、いわゆる「石破票」がどこへ流れるかだ。

実は石破総理の意中の人は林芳正官房長官だった。石破総理は本命の小泉進次郎農水相に不出馬を助言し、林政権への移行を探っていた。

だが、それがうまく運ばず、結局は、林氏と小泉氏の両方を推す「二股戦略」に転換せざるを得なかった。

その結果、小泉氏が現時点で石破票の多くを吸収し、一歩抜け出す展開となっている。

石破総理の誤算はどこで生じたのか。


石破票の流れを左右した失言

昨年の総裁選は小泉、高市、石破の三つ巴だった。若すぎる小泉、右寄りすぎる高市を敬遠する国会議員と党員が「消去法」で石破を押し上げ、総理総裁に就けた。

今年は石破に代わり林が名乗りを上げ、小泉・高市・林の三つ巴となった。

注目すべきは石破が前回獲得した約3割の党員票の行方である。日本テレビ独自の党員調査では、前回石破に投票した人の41%が小泉支持、21%が林支持、11%が高市支持と答えた。つまり石破票の最大の受け皿は林ではなく、小泉だった。

背景には二つの要因がある。第一に、小泉が農水相としてコメ改革に挑んだ実績だ。就任直後の緊急登板で汗をかく姿が「若すぎる」というマイナスイメージを払拭した。第二に、石破退陣をめぐる局面で、総理公邸を訪ね、じっくり耳を傾けた振る舞いが石破支持層の共感を呼んだ。

一方、林は官房長官として手堅さを売りにしてきたが、「石破総理が辞めるのは必定だった」「自分なら現金給付はやらなかった」という発言で石破支持層の逆鱗に触れた。これが決定的に響いた。

林が石破票を独占できていれば三つ巴の混戦になったが、失言でその芽を摘んでしまった。


石破の助言と小泉の決意

石破自身は本来、林を後継者と考えていた。スーパーエリートとしての実務能力を高く評価し、官房長官に起用したのも「後継指名」の意志の表れだった。

実際、石破が小泉に「今回は出馬せず次を狙え」と助言したとの報道もある。小泉が林支持に回れば、石破票と小泉票を合わせて高市を圧倒できる―これが石破の青写真だった。林総理、小泉幹事長の新政権で自らは後見人として影響力を残すつもりだったのだろう。

だが小泉には譲る気はなかった。すでに麻生、菅、岸田、森山という党の重鎮4人が小泉擁立で合意していたからだ。石破の助言は、現実政治の力学の前にかき消された。


二股戦略が招いた逆効果

板挟みになった石破は最終的に「二股戦略」に出た。

後継総裁にについて「政権を共に担った人」「基本政策を引き継ぐ人が選ばれればいい」という表明は、林と小泉の双方を指す曖昧なメッセージだった。

林一本に絞れば敗北後に新政権で居場所を失う。逆に小泉にも配慮すれば、進次郎政権での処遇余地は残る。石破は自己保身を優先したのだ。

この二股戦略の結果、石破票は林に集中せず、むしろ小泉へ流れ出し、優位を決定づける結果となった。


「総理ごっこ」に映る末路

退陣を決意した後も、石破は総理の座に居座り続けている。国連総会に出席してパレスチナ問題に言及し、退任直前には「戦後80年」の談話を発表する構えだ。だが国際社会も国内世論も「辞めゆく総理」の発言に重みを置くはずがない。むしろ「総理ごっこ」と揶揄され、党内外の反発を呼ぶだけだ。

参院選惨敗から退陣表明まで2カ月、さらに総裁選・連立協議・国会召集を経て新内閣誕生まで3カ月の政治空白を招いた責任は重い。新政権に引き継ぐ前に外交や歴史認識に口を出すことへの反感は、進次郎陣営だけでなく林陣営にもくすぶっている。


見捨てられる元総理

総裁選後、小泉と林は石破を持ち上げる必要がなくなる。もともと石破に党内基盤はなく、昨年は「消去法」で選ばれただけの総理だった。退陣後は急速に存在感を失い、党の重鎮に名を連ねることも難しい。

皮肉にも、石破が後継者と考えていた林ではなく、小泉が石破票を吸収して次の総理総裁に近づいた。石破の二股と誤算が、自らの影響力を失わせる最大の要因となるだろう。