政治を斬る!

都知事選で2位に大躍進「石丸伸二現象」は何だったのか?最終日夜、東京・丸の内の「凱旋演説」から読み解く〜都知事選の争点を「小池都政の是非」ではなく「単なる順位競争」に変えた第三の候補

東京都知事選の最大のサプライズは、人気ユーチューバーである前安芸高田市長の石丸伸二氏が、立憲民主党や共産党が全面支援した蓮舫氏を大きく上回って2位に躍進したことだった。既存政党に対する無党派層の批判を一手に吸収した格好だ。閉塞感が漂う日本政界に新たなスターが誕生したといっていい。一方で、石丸氏の政治姿勢は未知数な部分も多く、今後の動向は見通せない。

石丸氏が最後の演説に選んだのは、東京駅前の丸の内だった。三菱グループ企業の本社がひしめく三菱の街だ。石丸氏は街宣車に上ってマイクを握り、群衆に向かって「選挙は最高に楽しい」と訴え、こう続けた。

「最後の演説をここにしたのは、私のわがままです。どうしてもここにしたかった」

京大経済学部から三菱UFJ銀行に入り、経済アナリストとして東京やニューヨークに勤務した後、4年前に故郷である広島県の安芸高田市長へ転身した。

石丸氏は大学卒業後に上京し、丸の内であった銀行の入行式に出席した当時を振り返り、東京駅の大きさ、人の多さに衝撃を受けたと明かし、「そこから私の夢がかない出した」と強調。姫路勤務を経て経済アナリストに抜擢されて東京へ赴任し、東京駅前の丸ビル36階でフレンチを食べたことや上司との思い出話を続け、「すべての出発点がここ東京の丸の内。ここにこれて本当に良かった」「東京は夢がかなう街。夢がかなった」と演説を続けた。

最後の演説は、石丸氏の成功人生をひたすら振り返る内容となったのである。

石丸氏は選挙戦を通じて、小池批判はほとんどせず、明治神宮外苑の再開発をめぐる政官業の癒着に切り込むこともなかった。政官業癒着や格差是正を批判する蓮舫氏よりも、自民党や三井不動産など大企業とタッグを組んで再開発を進める小池知事に近い立場にみえた。物価高や低賃金に苦しむ庶民に寄り添うことはほぼなく、大企業に勤める勝ち組サラリーマンの代弁者というほうがしっくりくる演説が目立った。

石丸氏が「私のわがまま」といった丸の内での最終演説は、それを象徴するような内容だった。もしかしたら自らのサクセスストーリーの原点である丸の内に凱旋して大群衆に向かって演説すること自体が、都知事選出馬の最大の目的だったのかもしれない。彼が「動かそう」と訴えた「東京」は、ここ丸の内だったのだ。

猛暑の中、都内各地で連日10箇所ほどのペースで街頭演説を続けて多くの人を集めたが、演説内容は「東京を動かそう」「選挙を楽しんで」といった抽象的な内容に終始し、拍子抜けの感じが漂った。群衆に向かって訴えかける政治家というよりも、カメラに向かって気さくに話すユーチューバーが街頭に立っているという印象だった。街頭演説に駆けつけた人々も、石丸氏のユーチューブを見ている人が大半だった。
石丸氏の出馬は、アンチ小池票を蓮舫氏と石丸氏に分散させることとなり、結果として小池知事を利することになった。石丸氏のコア支持層と蓮舫氏のコア支持層は最後までいがみ合い、2位争いを続けた。小池都政の是非は最大の争点にならず、都知事選は単なる「順位競争」と化したのである。小池逃げ切りの環境を整える効果が石丸氏出馬には確かにあった。


今後はどうするのか。
本人は政治活動を続けるとしつつ、国会議員への転身に慎重な姿勢をみせている。都知事は絶大な権限を握っており、都から国を動かすと主張してきた。安芸高田市でも市議会の多数派工作に動くことはなく、市議会に議案を否決されたらやむなし、市長は提案するまでが仕事だという割り切り方だった。有象無象がひしめく国会議員として、いちから政治キャリアをつむことには興味がないのかもしれない。

一方で、東京への強烈なあこがれ、そして今回の都知事選の熱狂ぶりからして、他の首長選挙に出馬するイメージもわいてこない。4年後の都知事選に照準をあわせていくのだろうか。
当面はテレビコメンテーターとして引っ張りだことなり、元大阪府知事の橋下徹氏や前明石市長の泉房穂氏のポジションに取って代わる可能性はあるだろう。

しかし、政治家としての力量は未知数のままだ。政界進出の行方は見通せない。

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