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防衛費増額には賛成し、防衛増税には反対する維新の戦略は「自民と立憲に二股をかける」というより「菅義偉前首相や清和会に歩調をあわせる」ものだ

日本維新の会の馬場伸幸代表は1月26日の衆院代表質問で「与野党と是々非々で協力を行う」と表明した。自民党と立憲民主党に「二股」をかける戦略を鮮明にしたものと報じられている(こちら参照)。

特に注目すべきは、岸田首相が打ち上げた「防衛費増額」とその財源を得るための「防衛増税」に対する姿勢である。馬場代表は「防衛費の増額には賛成だ」と明言したうえ、「しかし、その財源を得るために『増税は避けられない』という政府・与党の説明には違和感を禁じ得ない」と主張した。

防衛増税を全面否定することは避けつつ、まずはその前に維新の党是である「身を切る改革」(国会議員の既得権の見直し)を行うべきだという立場である。岸田文雄首相は防衛増税の方針を堅持しつつ、馬場代表の求める行財政改革については「その通りだ」と応じた。

国会議員の既得権を見直す「身を切る改革」は大いにやればよい。しかしそれだけで防衛費の大幅増額の財源は到底生み出せない。増税なしで防衛費を大幅増額するには、社会保障費などの予算を大幅に削減するか、国債を大量発行するほかない。

ここから読み解けることは、①維新は防衛力強化のための防衛費増額には大賛成である②維新が求める「身を切る改革」に与党が応じれば防衛増税を受け入れる可能性は十分にあるーーということだ。

岸田首相からすれば、これはお安い御用である。防衛力強化と防衛増税を「歴史的役割」と豪語しているのだから、それを進めるために維新の顔を立てて「身を切る改革」に同調することくらい、「金持ち自民党」にすればさして痛くはない。

しかも維新が賛成に転じれば立憲も後からついてくるという臨時国会の成功例がある(統一教会の被害者救済法案はまさにそうだった)。維新と立憲から「身を切る改革」を一緒に提言してもらい、それを丸呑みすることで防衛増税に賛成してくれるのなら、自民党内で岸田降ろしをもくろむ菅義偉前首相や最大派閥・清和会(安倍派)ら増税反対派を抑えこむにも都合がいい。

しかし維新の呼びかけを鵜呑みにできないのは、維新が「岸田降ろし」の狼煙を上げた菅氏の「別働隊」であるからだ。

菅氏の盟友である松井一郎大阪市長が今春に政界を引退するとはいえ、菅氏が野党分断工作として維新を側面支援してきたこれまでの深いつながりは簡単には切れない。維新が「身を切る改革」で与党の合意を取り付けた後、菅氏に同調して「防衛増税は時期尚早」と踵を返し、岸田降ろしに加担する可能性も十分にある。

そのためにも岸田首相は財務省を通じて水面化でつながっている立憲に「維新の抑え役」を期待している。

しかし立憲と維新のここまでの共闘ぶりをみると、立憲はつねに維新に引っ張られるかたちで与党にすり寄ってきた。維新が防衛増税反対に固執すれば、立憲が維新と袂を分かって防衛増税賛成に転じることは期待しにくい。そうなると防衛増税政局はやはり菅氏や清和会のペースで進む可能性が高いのではないか。

維新は菅氏や清和会の補完勢力、立憲は岸田首相や財務省の補完勢力という視点で「立憲と維新の共闘」を眺めることが、この通常国会の行方を読み解くポイントである。立憲より維新が主導権を握ると、自民党内の政局も岸田首相より菅氏に形勢が傾くとみていい。茂木敏充幹事長が維新への接近をはかるなど主流派内でも主導権争いが強まっている。

与野党の思惑が複雑に入り乱れるなかで通常国会は予算審議に突入した。

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