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維新・馬場代表「トランプ支持」からはじまる日本の政界再編〜「維新包囲網」や「反ポピュリズム」を大義名分とした自公立連立政権の現実味

来年11月の米大統領選は民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領の再激突になるとの見方が強まる中、日本維新の会の馬場伸幸代表が記者会見で「トランプ氏の政策が維新の考え方に近い」と発言した。

馬場氏は7月中旬に訪米し、ワシントンの政界関係者らに野党第一党の奪取を目指している維新をアピール。トランプ側近とも会談して維新の政策を説明した。大統領選までにトランプ氏との直接会談もめざすという。規制緩和などをはじめとする政策についてバイデン氏よりもトランプ氏の政策が維新と重なり合うと判断したという。

一方、維新に政党支持率で追い抜かれる状況が定着し、次の衆院選で野党第一党の座を追われることが有力視されている立憲民主党の泉健太代表は「立憲民主党の経済政策はボトムアップ型。バイデノミスクに近い」と記者会見で述べた。

泉代表は9月中旬に訪米し、バイデン政権の関係者や民主党の要人と面会する方向で調整しているという。

維新はトランプ支持、立憲はバイデン支持。野党第一党を争う両党のスタンスの違いが明確になったことは極めて興味深い。

立憲がバイデン支持を打ち出したことに驚きはないが、衆参選挙や統一地方選で躍進が続く維新が日本の政官財マスコミのエリート層に極めて不人気のトランプ氏の支持を明確にしたことは「大博打に出た」との印象を受ける。

米社会はバイデン支持とトランプ支持の真二つに割れている。そもそもトランプは政財官マスコミ界のエスタブリッシュメントが握る既得権益を徹底批判し、エリート層に対する庶民層の不満を引き寄せて大統領の座をかっさらった。米社会のエリート層は立場を超えてトランプをポピュリズムと糾弾し、打倒トランプの一点で結束して前回大統領選に担ぎ出したのがバイデン氏だった。

バイデン政権下でトランプ氏が検察に起訴されながらも来年の大統領選への出馬を表明し、トランプ人気は陰りをみせていない。一方、バイデン氏は80歳を超え、来年の大統領選で再選を果たせば、退任時には86歳になる。最近は公衆の面前で何度もつまづいたり、固有名詞を言い間違えたりする場面が相次ぐようになった。民主党内でも高齢不安が高まり、「バイデンではトランプに勝てない」との懸念も広がり始めた。

日本では「トランプ=悪、バイデン=正義」の印象が強いが、それは米国の主要メディア(ニューヨークタイムスやCNNなど)が反トランプ一色であることが主要原因だ。実際、トランプはメキシコ国境に壁をつくるなど排外主義が強く、連邦議会占拠を煽るなど危険な要素が強い。

一方で、トランプ批判の多くは、貧富の格差が広がる米社会で既得権維持をめざすエリート層が主導しており、彼らへの反発が根強いトランプ支持を下支えしているのも事実だ。

つまり、バイデンvsトランプの熾烈な争いは、左右のイデオロギー対決という側面もあるものの、それ以上に貧富の格差に基づく「上下対決」の側面が強いのだ。その意味で、エリート志向の強い立憲がバイデン支持を打ち出しているのはさほど驚くに値しない。

これに対し、「身を切る改革」を掲げる維新はこれまで大衆支持を獲得するポピュリズム的要素と、富裕層にとって都合のよい弱肉強食の新自由主義的要素が混在し、政治的立ち位置が不鮮明だった。馬場代表がトランプ支持を鮮明にしたことで、大衆支持の獲得を優先する姿勢が鮮明となったことは、日本政界を色分けする際に極めて大きな意味を持つといえるだろう。

岸田首相のバイデン支持は鮮明だ。米国から戦闘機やミサイルを大量購入するための防衛費の大幅増額も、ロシアと戦争するウクライナへの巨額の支援も、中国に対抗するための日韓関係改善も、バイデン政権の外交戦略に追従したものだ。自民党内での政治基盤が盤石ではない岸田政権にとって、最大の後ろ盾はバイデン政権であると言っても過言ではない。

これに対し、安倍政権はトランプ支持を鮮明にしていた。反トランプが根強いワシントンのエリート層に嫌われることを承知でトランプ中心のホワイトハウスと直接やりとりし、トランプ氏との濃密な関係だけで日米関係をつないできたといっていい。その結果そして、トランプ氏も安倍氏もロシアとプーチン大統領との関係も良好だったのだ。

長い自民党史を俯瞰すれば、戦後日本の主流派だった宏池会(岸田派)が米国の政財官マスコミ界の主流派(エリート層)と良好な関係を築いてきたのに対し、非主流派だった清和会(安倍派)は米社会でも非主流派だった右派に近づいてきた歴史が浮かび上がってくる。

維新がトランプ支持を打ち出したことは、岸田政権に不満を募らせる安倍支持層の支持を奪う願いがあると言えるだろう。

岸田政権が安倍支持層に不評のLGBT法を成立させたことで、安倍支持層を中心とした自民党支持層が離反し維新に流れているとの分析もある。こうした流れを後押しする狙いを込めた「トランプ支持」といってよい。

立憲と維新が野党第一党争奪戦にしのぎをけずり、与野党の対決構図が薄れて閉塞感に覆われている現在の日本政界は、「バイデン支持か、トランプ支持か」で再整理されてくる可能性があるだろう。

その文脈でみると、立憲が次の衆院選で維新に野党第一党を奪われて弱体化した場合、立憲の残党組(野田佳彦元首相や枝野幸男元官房長官、安住淳元財務相ら)は、民主党政権時代に宏池会の谷垣禎一総裁と消費税増税の自公民3党合意をすすめたように、岸田政権に急速に歩み寄る可能性が高い。バイデン支持グループが日本政界でも結集し、「維新包囲網」や「反ポピュリズム」を大義名分に自公立連立政権へ進むという展開である。

これに対し、維新は自公立との対決姿勢を強め、よく言えば「反エスタブリッシュメント」、悪く言えば「ポピュリズム」の性格をますます強めていくだろう。富裕層よりも大衆迎合的な政策を前面に打ち出し、選挙で躍進を続けることを最優先にする政党戦略を強めるのではないか。まさにトランプ流である。

新たな政界対決構図のなかで、自民党の安倍支持層(安倍派に加え菅義偉前首相ら岸田政権の非主流派)、さらには共産党や国民民主党、れいわ新選組などの野党がどのようなスタンスをとるのかも注目される。そして何より、本場の米大統領選でバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つのか、新たな第三の人物が大統領にのしあがるのかも、日本政界の行方を大きく左右するだろう。

維新の馬場代表の「トランプ支持」は日本の政界再編のはじまりのような気がしてならない。

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