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大阪万博の経費750億円が計上された岸田内閣の補正予算案に維新が賛成!同じく賛成した国民民主党と「第2自民党」「自公の補完勢力」の座を競う陳腐な政局に

日本維新の会が岸田内閣が提出した補正予算案に賛成した。「自公の補完勢力」と指摘されてきたが、岸田内閣提出の予算案に賛成するのは初めてだ。所属議員による多数決で決めたという。

補正予算案は岸田内閣がまとめた経済対策の財源を裏打ちするもので、一般会計総額は13兆1000億円。内閣支持率を続落させた「岸田減税」に維新は賛成するということになる。

藤田文武幹事長は記者会見で「デフレ脱却のラストチャンス。(岸田内閣の)問題意識は一定の評価ができる」と理由を説明したが、本当の理由は「補正予算案に大阪万博の関連経費750億円が含まれているから」というのが大勢の見方だ。「万博があるから賛成に回ってほしいと幹部から説得された」という中堅議員のコメントも報道されている。

維新の馬場伸幸代表はこれまで「野党第一党を奪取する」ことを最大の目標に掲げ、打倒・自民よりも打倒・立憲を掲げてきた。立憲との対立軸を鮮明にするため、安全保障分野で自民党よりも右寄りな政策を打ち上げ、防衛力強化を進める岸田内閣を後押ししてきた。

それでも予算案に賛成することはなかった。政権批判票が立憲など他の野党に流れることなく維新に引き込むには岸田内閣との対決姿勢を鮮明にしていくことが不可欠であったからだ。

しかし、補正予算案に賛成したことは、岸田内閣を事実上信任したともいえる。「野党」から「ゆ党」(野党と与党の中間)に転じた格好で、「自公の補完勢力」との批判にお墨付きを与えた格好だ。

馬場代表は「第2自民党でいい」と発言して批判を浴びたが、今回の補正予算案賛成で自公政権批判層は維新から離れるだろう。

2022年度予算に国民民主党が賛成した際、維新の松井一郎代表(当時)は「連立を目指していると、ひしひし伝わってきた」、藤田文武幹事長は「政権与党に入りたいと捉えられても仕方ないのではないか」と激しく批判していた。過去の言動との矛盾も問われる。

さらに、賛成に回った本当の理由が「大阪万博の推進のため」というのは、最悪である。

大阪万博の建設費は当初の倍近い2350億円に上振れし、「身を切る改革」を掲げて躍進してきた維新に対して世論の批判が噴出している。とくに世界最大の木造建築という触れ込みで大阪万博の顔になる「リング」は閉幕後に解体されるということもあって「税金の無駄遣いの象徴」になった。

大阪万博は維新の躍進をピタリと止め、立憲を大きく上回っていた政党支持率はこのところほぼ横並びまで追いつかれ、一部調査では再逆転を許している。

それでも維新の吉村洋文・大阪府知事らは大阪万博を推進する姿勢を崩しておらず、維新の失速が止まる気配はない。大阪万博の開幕は2025年春の予定で、次の衆院選(任期満了は25年秋)や参院選(25年夏)まで大阪万博への批判は高まり続けるだろう。

安倍政権や菅政権は野党分断工作の柱として維新を位置付け、維新を後押ししてきた。国と大阪府・市と財界が費用を3分の1ずつ負担する大阪万博は、維新支援策のシンボルといっていい。東京五輪に続く経済活性化の柱として位置付けてきた。

菅政権は東京五輪を国内世論の反対を振り切って強行開催して支持率が下落し、衆院任期満了を目前に総裁選不出馬に追い込まれて退陣した。大阪万博で失速した維新の姿は、菅政権と重なり合う。

岸田政権は維新よりも連合との関係を重視している。岸田首相や麻生太郎副総裁は菅氏をライバル視しており、維新とのパイプを持つ菅氏に対抗して連合を取り込み、連合と密接な国民民主党の連立入りも模索してきた。

維新に近い菅氏と、連合に近い麻生氏の主導権争いのなかで、維新は自民党の距離感を探ってきたといえる。

国民民主党は2022年度当初予算案に賛成し、維新を差し置いて政権入りへ一歩進んだ。玉木雄一郎代表は当時、岸田首相がガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除を検討する意向を示したことを理由にあげたが、その後、トリガー条項の凍結解除は棚上げにされたままだ。

玉木代表は今回の補正予算案でも再び「首相がトリガー条項の凍結解除に踏み切る意向を表明すれば補正予算案に賛成してもいい」との考えを11月22日の衆院予算委員会で表明。岸田首相は「トリガー条項凍結解除も含めて、与党と国民民主で検討する」と応じ、国民民主党が補正予算案に賛成した。

維新が補正予算案への賛成を決めたのは、岸田政権と国民民主党の接近に「取り残されたくはない」との焦りもあるとみられる。落ち目の岸田政権は、維新と国民を張り合わせて引き込む野党分断工作でかろうじて延命している格好だ。

国民民主党内で玉木氏の岸田内閣への接近を批判して維新との連携を強化している前原誠司元外相は、国民民主党が補正予算案に賛成する場合は離党する意向を固めたと報じられた。いったん新党を結成し、その後に維新に合流するとの見方も広がっていた。

だが、維新が補正予算案に賛成することを決めた後、前原氏は離党報道を否定した。離党と維新入りの大義名分を失ったためとみられる。

大阪万博を最優先して補正予算案賛成に転じた維新の決断は、世論の反発を招いて政党支持率の低下を加速させることに加え、野党再編の主導権を失うマイナス効果をもたらすだろう。

維新が政権批判票を束ねて野党第一党にのしあがる道筋は「大阪万博」によってかなり厳しくなってきたのではないだろうか。大阪万博への風当たりは地元・大阪でも強いが、全国ではなお強い。大阪から全国に支持基盤を広げて全国政党へ脱皮するシナリオも大きく狂ってきたというほかない。


 

 

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