来年の自民党総裁選の対決構図が見えてきた。「麻生太郎副総裁が担ぐ茂木敏充幹事長」vs「 菅義偉前首相が石破茂元幹事長」vs「安倍支持層が推す高市早苗経済安保担当相」の三つ巴の戦いとなる様相だ。
憲政史上最長の安倍政権を牛耳った3人〜安倍首相、麻生副総理、菅官房長官〜がそれぞれの代理人を担ぐ最終決戦といえるかもしれない(安倍氏は逝去したので安倍支持層だが)。
それぞれの立場から分析してみよう。
🔸麻生太郎
岸田文雄首相は内閣支持率が続落し、国民から総スカンを喰らっている。自民党の「選挙の顔」になりえず、来年秋の自民党総裁選で再選を果たすのは絶望的な状況だ。衆院解散・総選挙を断行できないまま、来年秋の総裁選までに退陣する公算が強まっている。
問題は、退陣の時期だ。
来年秋まで続けると、任期満了による正規の総裁選となり、党員投票が行われる。
岸田政権の後ろ盾である麻生氏は麻生派・茂木派・岸田派の主流派体制を維持するため、岸田政権から茂木政権に移行したい考えだ。岸田派の上川陽子外相を担ぐと流布しているが、これは「本命・茂木」への警戒感が急速広がることを避けるためのブラフの可能性が高い。
茂木氏は国民人気も党員人気もない。マスコミ世論調査の「次の首相」では、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル担当相、小泉進次郎元環境相の3人(通称「小石河」)」が世論全体でも自民党支持層でもトップ3を独占している。茂木氏は大きく水を開けられており、党員投票では勝ち目はなさそうだ。
岸田首相が来年秋の自民党総裁任期の満了まで居座り、そこで総裁選不出馬を表明すると、党員と国会議員が同じ票数を持つ正規の総裁選となる。それでは茂木氏は不利だ。
そこで来春の予算成立後に岸田首相を電撃辞任させ、緊急の総裁選を実施するシナリオが浮上している。来春までに予定されている岸田首相の国賓待遇での訪米が「花道」になる展開が現実味を帯びてきた。
総裁が任期途中で辞任した場合の緊急の総裁選は党員投票を行わず、国会議員と都道府県連の票だけで新総裁を選出するのが自民党のルールだ。世論の人気よりも永田町の派閥の数の力で勝敗が決することができる。茂木氏には有利だ。
とはいえ、第二派閥・麻生派、第三派閥・茂木派、第四派閥・岸田派だけでは過半数に届かない。鍵を握るのは最大派閥・安倍派の動向だ。
安倍派は5人衆(萩生田光一政調会長、西村康稔経産相、松野博一官房長官、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)が後継会長の座を譲らず、集団指導体制に入っている。いざ総裁選になれば、安倍派内で総裁候補を絞り込むのは相当困難な情勢で、派閥分裂に発展する可能性もある。
菅氏は、安倍派に影響力を残す森喜朗元首相が推す萩生田氏と連携を強めてきた。これに対抗し、麻生氏は世耕氏と連携している。さらに岸田内閣の閣僚である西村氏や松野氏も萩生田氏への対抗意識から、菅氏よりも麻生氏ら主流派に近い。安倍派内の「萩生田包囲網」を後押しして茂木支持へ引き寄せるのが、麻生氏の基本戦略となろう。
安倍派の多くを取り込むことができれば、主流3派とあわせて過半数を超え、茂木政権への道筋がみえてくる。
🔸菅義偉
菅氏は安倍政権下で麻生氏とナンバー2争いを繰り広げた。菅政権の退陣に伴う前回総裁選は、自らの後継者として河野氏を擁立し、石破氏や小泉氏も味方につけて戦ったが、麻生氏が担ぐ岸田首相に敗れ、岸田政権では非主流派に甘んじてきた。
世論調査の「次の首相」でトップだった河野氏はその後、マイナンバーカード問題などで失速し、トップの座を石破氏に明け渡している。前回総裁選は国民人気トップでも国会議員票で大敗して岸田首相に敗れたのだから次の総裁選で勝てる可能性は低い。小泉氏はキャリア不足だ。残る選択肢は石破氏しかない。
石破氏は安倍政権下で冷飯暮らしが続き、党内基盤は弱体化して前回総裁選には出馬もできず、石破派は解体に追い込まれた。だが、国民人気は根強く、河野氏の失速と入れ替わるように世論調査の「次の首相」トップに返り咲いた。安倍政権と対峙したことから野党支持層や無党派層での人気が高かったが、ついに自民党支持層でトップに立つ世論調査も出始めている。
菅氏にとっては石破氏の党内基盤が弱いことも「言いなりになる」という意味で担ぎやすい。二階俊博元幹事長や森山裕総務会長らと連携し、石破氏擁立で非主流派をまとめていく考えだ。
岸田首相が来春にも電撃辞任して緊急の総裁選になれば、党員投票が行われず、石破氏にとっては痛手である。麻生氏ら主流派に総裁選の時期を一方的に決められてしまうのが、非主流派の弱点だ。
とはいえ、ポスト岸田派次の衆院選や再来年夏の参院選に向けて「自民党の選挙の顔」を選ぶ戦いとなる。やはり国民人気は無視できず、国会議員票が石破氏に雪崩を打つ展開を菅氏は狙っている。
ポイントはやはり安倍派だ。
菅氏は森元首相や萩生田氏との距離を縮め、安倍派を取り込む布石を打ってきた。次の総裁選で萩生田氏が安倍派をまとめて石破氏に乗って勝利すれば、そのまま石破政権で萩生田氏を幹事長に起用して「萩生田派」への移行を後押しする戦略だ。仮に萩生田氏への反発から一部議員が安倍派を離脱しても、石破氏優勢の状況さえつくれれば、安倍派の多くは「勝ち馬に乗れ」で萩生田氏に追従するだろうとの読みもある。
麻生氏が公明党を毛嫌いしているのに対し、菅氏は創価学会・公明党とのパイプも強い。自民党の外からも自民党議員に働きかけを強めて総裁選の主導権を握りたい考えだ。
🔸安倍支持層
麻生氏が担ぐ茂木氏、菅氏が担ぐ石破氏の激突に、第三極から挑むのが高市氏だ。
高市氏は無派閥ながら前回総裁選で安倍氏に担がれ、安倍支持層の熱狂的な支持を集めた。安倍氏が他界したも安倍支持層の期待を引き寄せている。
一方、安倍派にはもともと安倍氏が高市氏を担いだことへの不満がくすぶり、安倍氏が他界した後、高市氏は自民党内で孤立感を深めることになった。総裁選出馬に必要な推薦人20人を集めることができるかが焦点だ。
高市氏は勉強会「『日本のチカラ』研究会」を旗揚げし、推薦人確保へ動き出した。世耕氏らは現職閣僚が総裁選への準備を公然と始めたことを激しく批判したが、高市氏とすれば推薦人を確保しないことには何も始まらない。初回会合には13人が参加。安倍派からも山田宏参院議員ら3人が参加した。
高市氏が総裁選で勝利する可能性は低いが、麻生・茂木vs菅・石破の対決構図のなかで第三極としてキャスティングボートを握り、どちらが勝ってもその後の政権で要職にとどまる狙いだ。さらに総裁選で安倍派が分裂すれば一部を取り込んで「高市派」を結成し、党内基盤をつくる思惑もあろう。
作家の百田尚樹氏が旗揚げした日本保守党は安倍支持層の熱狂的な支持を集め、各地の演説会では大勢の聴衆を集めている。高市氏との連携を期待する声もある。
麻生氏は連合、菅氏は公明や維新との連携を強める中で、高市氏は日本保守党との連携をちらつかせながら自民党内での発言力を強めたい考えだ。
🔸総裁選の行方
今後の焦点は、岸田首相の時期だ。来年3月に予算が成立した後、政局は緊迫する。「来春まで」に予定される岸田首相の「国賓待遇の訪米」がいつセットされるかが大きな焦点だ。それまで岸田首相はなんとか粘り続けることができるが、裏を返せば、この訪米を「花道」にする圧力がますます強まっていくだろう。
訪米は遅くてもゴールデンウィークまでには実現するだろう。岸田首相の退陣時期は3月〜5月の可能性が高く、ただちに緊急の総裁選が行われるというスケジュールになる。
勝敗を決するのは、安倍派の動向だ。麻生氏と菅氏のどちらが安倍派の体制を引き寄せることができるかが最大の焦点となる。