参院選が始まった。石破総理は「与党で改選50議席を確保し、参院全体で過半数を維持すれば勝利」とする勝敗ラインを打ち出した。だが、この設定、あまりに甘すぎる。実際、自民党内からも「低すぎる」との批判が噴出している。
驚くべきは、そんな“超低空ライン”すら「割り込む可能性がある」と、自民党内で本気で懸念されていることだ。はたして、石破自民党に何が起きているのか。現時点での情勢から、政権の命運を左右するシナリオを読み解いてみたい。
「50議席」で勝利?あまりにも低い設定
今回の参院選では、補選を含めた125議席が争われる。与党(自民・公明)の非改選議席は75。したがって、与党が今回50議席を確保すれば、参院全体で過半数を維持できることになる。
しかし、この「50」という数字。与党の改選議席66から16も減らしてなお「勝利」とするのは、あまりに楽観的すぎる。立憲民主党の野田代表が「改選過半数の63議席」を勝敗ラインに掲げているのと比べても、石破氏の自己防衛的な姿勢が透けて見える。
とはいえ、その「50」すら危ない。どういうことか。自民・公明がどれほど厳しい戦いを強いられているかを、各ブロック別に検証してみよう。
公明党、10議席割れの可能性も
まずは公明党。前回は13議席を獲得したが、今回は苦戦が予想される。創価学会の高齢化が進み、都議選では象徴的な落選も続いた。政党支持率では、れいわ新選組や参政党にすら追い抜かれる場面も出てきている。
選挙区では7議席を固めてきたが、今回はそのうち1つを失うと仮定して6議席。比例では前回の6から1議席減の5と仮定すると全体では計11議席。さらに厳しく見て比例が4となれば、10議席の可能性すら出てくる。
この場合、自民党は単独で最低40議席を確保しなければ、石破氏の掲げる「与党で50」ラインに届かない。
通常なら「自民40」は楽勝である。でも今回は危ないというのだ。
自民党の比例・中選挙区も楽観できず
自民党自身の得票動向を分析する。
比例区では、前回18議席を獲得したが、2007年の第一次安倍政権下では14、過去最低は12議席に沈んだこともある。今回も旧安倍派の裏金問題や、農村部の反発を受けて、過去最低水準に落ち込む可能性は否定できない。
複数区では、大阪で候補者擁立が出遅れた、盤石とは言い難いものの、1議席ずつ確保できると仮定すれば13議席。これに比例12議席を加えれば、計25議席。
この時点で、あと25議席を得るには、残る32の1人区で15勝17敗が必要になる。これは前回の28勝4敗に比べれば大幅後退だが、可能性としては十分ありえる。
ここまで負けても「勝敗ライン」をクリアするのだ。
農村部の反乱。1人区が大波乱の予兆
ところが今、1人区の風向きはさらに怪しくなってきている。
内閣支持率を押し上げたとされる小泉進次郎農相の「コメ改革」。消費者には受けが良いが、コメ農家や農協関係者が多い地方では反発が根強い。自民党が得意としてきた農村部での組織戦が機能不全に陥る可能性すらある。
実際、自民党内の選挙情勢調査でも「劣勢」や「接戦」の報告が続出。
筆者が現時点でまとめた分析によれば、自民党は1人区で:
- 劣勢:岩手、宮城、秋田、山形、長野、愛媛(6県)
- 接戦:青森、福島、新潟、山梨、三重、徳島・高知、香川、長崎、大分、鹿児島、沖縄(11県)
- 優勢:残り15県
と、6敗11接戦という構図になっている。
接戦11区で全敗すれば、自民15勝17敗。「石破勝敗ライン」の与党で50議席にピッタリ一致する。
優勢選挙区で番狂せがひとつでも起きれば、勝敗ラインを割り込むことになる。全国的な逆風が吹けば、予想外の番狂わせが起きる。それが1人区の恐ろしさだ。
石破政権、黄信号から赤信号へ
「与党で50議席を確保すればいい」という石破総理の勝敗ライン。確かに数字上は低い。だが、その甘さにすら届かない可能性が出てきた。
自民党の歴史的大敗はあるのか。政権交代は視野に入るのか。焦点は、やはり1人区での農村票。そして、その争点は「コメ改革」に絞られてくる。
石破総理が設定した「低すぎる勝敗ライン」。その“最低限の防衛ライン”をも下回る事態になれば、内閣の求心力は一気に崩れる。果たして、この夏、日本の政治地図は塗り替わるのか。注目の投開票は目前に迫っている。