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山尾志桜里の「左旋回」が首都決戦に投じた波紋──参院選・東京選挙区の行方は?

2025年参院選の東京選挙区は、過去最多クラスの32人が出馬する大混戦となった。そこに突如として現れたのが、山尾志桜里氏の「無所属リベンジ出馬」である。

かつて「保守系論客」への転身を試みた山尾氏が、選挙戦では一転して「リベラルの原点」へ回帰。その選挙戦略が、すでに混沌としていた首都決戦の情勢を大きく揺さぶっている。

本稿では、山尾出馬の背景と影響を分析し、東京選挙区の当選ラインを再予測する。


■ 山尾志桜里の“左旋回”と玉木代表との決裂

第一声の舞台は、山尾氏のホームタウンである武蔵野・吉祥寺駅前。ここは菅直人元首相の地元で、リベラル勢力が根強い地域でもある。

山尾氏は演説で、古巣である国民民主党を名指し批判。「中道を誓い合ったはずが、選挙を前に右旋回した」と指弾し、リベラル有権者への再接近を図った。

もともと山尾氏は、民主党政権誕生の2009年に初当選。当初は枝野幸男氏らリベラル派のひとりとして頭角を現したが、幹事長内定直後の不倫スキャンダルで失脚。表舞台から退いた後は国民民主党に参加し、改憲や対中強硬姿勢を前面に打ち出すことで“保守転向”を印象づけた。

しかし、こうした転身は「中途半端な右派」として、安倍支持層などの保守からは信用されず、結果的に玉木代表の「山尾切り」へとつながった。山尾氏自身は「リベンジのつもりはない」と語るが、今回の無所属出馬はどう見ても、捨てられた古巣への痛烈なアンチテーゼである。


■ 当選ラインの低下がもたらす波乱要素

東京選挙区は今回、補欠がひとつ加わって当選枠が7つとなる。32人が立候補し票が割れることから、当選ラインは50万票を下回る可能性が高い。これは、組織票に強い政党にとっては有利に働く。

前回の予測では、都議選直後の情勢をもとに、以下のような構図を描いていた:

  • 公明の川村氏と共産の吉良氏は盤石。
  • 国民の牛田氏は中道無党派の支持を背景に有力。
  • 自民・立憲ともに現職(武見氏・塩村氏)が安定。
  • 残る2枠は、自民新人の鈴木大地氏、れいわの山本ジョージ氏、参政党のさや氏で競合。

では、山尾氏の出馬でこの構図はどう動いたか。


■ 国民民主に走った「逆風」、参政党に吹いた「追い風」

もっとも明確に打撃を受けたのは国民民主党の牛田茉友氏だろう。元NHKアナとして知名度は高いが、山尾氏の「国民批判」によって、女性有権者を中心に共感を集めた票が流れる懸念がある。

さらに玉木代表の「山尾切り」や、「うちの政策は難しくて女性には理解できない」との失言も重なり、女性票の離反が進んでいる。とはいえ、党として牛田氏に一本化すれば、なんとか当選圏には踏みとどまれる可能性もある。

一方で勢いを増しているのが、参政党の“さや”氏だ。都議選での躍進により注目を集め、保守層の多くが自民や国民から流れている。

山尾氏とは支持層がまったく異なるため、むしろ「アンチ山尾」の受け皿として票を集める構図ができている。上位当選の可能性も視野に入る勢いだ。


■ 残る2議席──自民2人とれいわが争う最終盤戦

残る2枠を争うのは、自民党の武見敬三氏・鈴木大地氏と、れいわの山本ジョージ氏の3人が中心だ。

自民党は都議選で21議席と大きく後退し、支持率も長期低迷が続く。それでも、過去2回の参院選では、東京で2人当選を維持してきた。今回も2人で合計100万票を確保できれば、どちらか1人、あるいは両者当選も視野に入る。

ただし、「共倒れ」のリスクも否めない。組織票をどう割り振るかが鍵を握る。

一方のれいわは、支持層が都市部に集中し、東京では安定した基盤を築いてきた。しかし、ここにきて参政党の急浮上により、存在感がやや埋没している印象は否めない。山本ジョージ氏が50万票に届くかどうかは、山本太郎代表の巻き返しにかかっている。


■ 終盤情勢と展望

現時点で当選圏とみられるのは以下の6人

  • 公明・川村氏
  • 共産・吉良氏
  • 国民・牛田氏
  • 立憲・塩村氏
  • 参政・さや氏
  • 自民・武見氏(あるいは鈴木氏)

残る1枠を、れいわん山本氏と自民の2人目が争う構図だ。特に自民が2人当選にこだわると、票の割り方次第で「共倒れリスク」が現実になり、山尾氏ら他候補にもチャンスが訪れるかもしれない。