自民党内に突如として姿を現した巨大議員グループ――。
その名は「国力研究会」。表向きは、高市早苗総理を支えるための政策集団だ。しかし、その実態をよく見ると、そこには別の構図が浮かび上がってくる。
真の主役は、高市総理ではない。
この議連の頂点に立つのは、85歳になった政界のキングメーカー、麻生太郎元副総裁である。
しかも、この議連の政治的意味は「誰が参加したか」以上に、「誰を排除したか」にある。
来年秋の自民党総裁選をにらみながら、麻生氏は巨大な“新派閥”をつくり始めた。その狙いは、高市政権の安定だけではない。ポスト高市をめぐる主導権を完全掌握し、宿敵勢力を封じ込めることにある。
発端は、高市側近の山田宏参院議員による提案だった。自民党内で政治基盤の弱い高市総理を支えるため、議員グループを立ち上げる。そこへ旧安倍派の萩生田光一幹事長代行や、官邸の中枢を担う木原稔官房長官らが賛同した。
議連の略称は「JiB」。高市氏が総裁選で掲げた「Japan is Back」に由来する。まさに“高市応援団”として構想された組織だった。
ところが、ここで麻生氏が介入する。
「高市色を強く出すな」
そう注文をつけたうえで、メンバー選定の主導権を握ったのである。
結果として、議連は「高市支持グループ」から、麻生氏主導の“挙党体制”へと変質した。
発起人には、高市総理と総裁選を争った茂木敏充外相、小泉進次郎防衛相、小林鷹之政調会長が並んだ。さらに参院側からは松山政司議員会長に加え、高市陣営の重鎮である中曽根弘文元外相、麻生派の有村治子総務会長らが加わる。
旧安倍派からも萩生田氏や西村康稔選対委員長が参加し、党執行部と主要閣僚がズラリと並ぶ布陣となった。
この構図を見る限り、麻生氏が描くシナリオは明快だ。
来年秋の総裁選で、高市総理を無投票再選に持ち込み、自らを頂点とする支配体制を完成させる――。そのための巨大な“受け皿”を先回りして作ったのである。
永田町では今、「この流れに乗り遅れるな」という空気が急速に広がっている。
逆に言えば、この議連に加わらない議員は「反高市」「反麻生」と見なされかねない。そんな警戒感すら漂う。
会費は月300円。永田町では破格だ。
現在の自民党所属国会議員は衆参合わせて417人。このうち、すでに半数超が参加の意向を示しており、最終的には300人規模に膨れ上がるとの見方が強い。
もしそうなれば、自民党議員の4人に3人が所属する“超巨大派閥”が誕生することになる。
背景には、派閥解消後の不安定な党内事情がある。裏金事件で旧派閥が崩壊し、さらに今年2月の総選挙で大量当選した新人議員たちは、政治資金、人事、選挙、政局情報を得る拠点を失った。
誰かの庇護下に入りたい――。
そんな議員心理を、麻生氏は巧みに吸収したのである。
そして、この議連の最大の意味は、「ポスト高市候補」を事実上、麻生氏の管理下に置いたことにある。
進次郎氏も、小林氏も、茂木氏も、今後は自分の意思だけで総裁選出馬を決めることが難しくなる。300人議連の意向、すなわち麻生氏の意向を無視できないからだ。
まさに“身柄を預けた”状態である。
では、この議連で最も重要な「排除された人物」は誰か。
それは、林芳正総務大臣である。
前回総裁選の有力候補のうち、林氏だけが外された。
林氏は旧岸田派・宏池会のナンバー2。その背後には、宏池会のドンとして影響力を残す古賀誠元幹事長がいる。
古賀氏と麻生氏は、同じ福岡を地盤とする長年の宿敵だ。
2021年総裁選で、麻生氏は岸田文雄前総理を支援する条件として、「古賀氏との決別」を求めた。岸田氏はこれを受け入れたが、林氏はその後も古賀氏との関係を維持してきた。
麻生氏にとって、林氏だけは許せない存在なのである。
進次郎、小林、茂木を取り込み、林だけを孤立させる。
もし来年秋、林氏が総裁選に出馬しても、300人議連を背負う高市陣営に勝てる可能性は極めて低い。出馬断念に追い込むか、惨敗させるか――。そこに麻生氏の狙いが透ける。
さらにもう一人、麻生氏が警戒する人物がいる。
武田良太元総務相だ。
武田氏も福岡を地盤とし、麻生氏と対立関係にある。しかも、菅義偉元総理、二階俊博元幹事長に近く、中国・韓国人脈や公明党パイプも引き継いでいるとされる。
武田氏は最近、旧二階派を受け継いで20人規模の新グループを立ち上げ、高市総理にも接近している。今年秋の内閣改造・党人事で幹事長などへの起用を狙っているとの観測もある。
つまり麻生氏は、「林・武田ライン」が高市政権に接近する前に、巨大議連で包囲網を築こうとしているのである。
一方の高市総理にとっても、この議連は苦渋の選択だ。
今年1月の解散総選挙後、高市氏は“麻生離れ”を模索していた。しかし、政権内部では不満が噴出し、官邸情報のリークも相次ぎ、政権運営は不安定化した。
そこで再び麻生氏と手を結び、政権基盤を立て直す――。
今回の議連には、そんな政権防衛の意味もある。
ただし、その代償は大きい。
麻生氏と和解する以上、高市氏の「麻生からの自立」は遠のく。武田氏ら反麻生勢力と組み、新たな高市体制を築く選択肢は閉ざされるからだ。
今回の巨大議連は、高市政権を守る“救命ボート”なのか。
それとも、麻生太郎による“新たな支配体制”の始まりなのか。
永田町は、再び「麻生政治」の時代へ動き始めている。