自民党総裁選が22日に告示される。立候補を表明したのは、小泉進次郎、高市早苗、林芳正、茂木敏充、小林鷹之の5人。与党内の主導権争いにとどまらず、日本政治の針路を決める大一番である。
今回の総裁選には4つの大きな争点がある。減税、連立相手、石破政権への評価、旧安倍派の裏金事件。この4点を軸に、各候補の立場と戦略を見ていこう。
減税か給付か ― 財政規律と民意のはざま
最初の焦点は減税だ。夏の参院選では、自民党を除くすべての政党が減税を公約に掲げた。自民党だけが減税を拒み、国民ひとり当たり2万〜4万円の現金給付を打ち出したが、これが有権者の反発を招いた。非課税世帯への上乗せ給付が「高齢者優遇」と受け取られ、現役世代の不満が爆発。結果、国民民主党や参政党に票が流れた。
総裁選に臨む候補の中で、減税を明確に打ち出したのは高市早苗と小林鷹之だ。高市は食料品の消費税をゼロに、小林は所得税減税に加え、将来の消費税減税を選択肢とした。減税を掲げなければ支持層の期待を裏切るリスクがあり、後退は許されない構図だ。
一方、本命とされる小泉進次郎は慎重姿勢を崩さない。後ろ盾の森山裕幹事長や加藤財務相ら財務省寄りの人脈が小泉陣営を固めているからだ。林芳正も財務省寄りで減税に否定的。茂木敏充も当初は国民民主党と減税で歩調を合わせていたが、ここにきて慎重に転じた。その代わりに数兆円規模の「特別地方交付金」を公約に掲げ、副首都構想を条件に連立入りに傾く維新との接近を模索する。
連立相手 ― 維新か、立憲か
次の争点は連立相手だ。衆参両院での安定多数を取り戻すために、どの政党と組むかは最大の政局テーマとなる。
小泉は日本維新の会との連立を想定する。後見人の菅義偉は維新とのパイプが太く、小泉自身も吉村洋文代表と盟友関係にある。吉村を大阪府知事のまま総務相に起用して副首都構想を主導させる人事構想も浮上している。
だが、維新一本に依存すれば、連立離脱をちらつかせて譲歩を迫られる危険も大きい。そこで森山は立憲民主党とのパイプを温存し、財政規律派の安住淳幹事長と協議。立憲の持論である「給付付き税額控除」を話し合う協議会を自公立3党で立ち上げることで合意した。維新と国民を外しているのがミソだ。
林は立憲に近いが、維新との接点もつくり、どちらに転んでも生き残れるよう布石を打つ。茂木は国民民主から維新へと軸足を移し、YouTubeでの共演相手も玉木雄一郎から藤田文武に切り替えた。高市や小林は明確な連立相手を描けず、弱点となっている。
石破票の行方 ― 林への期待と進次郎への流れ
3つめの争点は、石破茂前総裁の支持層の行方だ。
石破は前回党員票で2位につけたが、今回は出馬を見送った。石破支持の党員は小泉を「若すぎる」、高市を「右すぎる」として選んだ層が多く、林に流れる可能性が高い。林自身も石破内閣の官房長官として路線継承を掲げており、党員票の獲得に意欲を見せる。
もともと石破に近い岩屋外相や赤沢経済再生担当相らは林支持に動くとみられる。一方で「高市阻止」で石破を支えた岸田文雄前総理や森山幹事長らは進次郎に流れ込む。いずれにしても、石破路線そのものが全面否定されることはない。
茂木、高市、小林は石破政権で非主流派だったため、石破票を取り込む余地は小さい。総裁選の帰趨は、林が石破票をどこまで固められるかにかかっている。
旧安倍派との距離 ― 政治とカネを問えるのは誰か
最後の争点は、裏金事件で批判を浴びた旧安倍派との関係だ。
小泉は挙党一致を掲げ、安倍派のシンボル的存在である加藤財務相を選対本部長に据えた。結果として、裏金問題の幕引きに傾く公算が大きい。高市や小林も旧安倍派の若手を支持基盤とするため、強く切り込むのは難しい。茂木は裏金発覚時の幹事長であり、なおさら動きにくい。
唯一、切り込む余地があるのは林だ。地元山口で安倍晋三と激しく対立してきた経歴を持ち、安倍派からは「親中派」として警戒されてきた。
ただし、林は実務型で、政治とカネを前面に掲げて支持率を稼ぐタイプではない。結果として、5人の誰が勝っても「旧安倍派切り崩し」には至らず、静かな処理に終始する可能性が高い。
日本政治の次の針路はどこへ
減税か給付か、維新か立憲か、石破路線の継承か否定か、旧安倍派の処遇か。
自民党総裁選は、政策論争というよりも「誰がどの勢力と組むか」をめぐる権力闘争の様相を呈している。
有権者の目から見れば、肝心の「政治とカネ」の改革は後景に退き、民意との距離を縮めるかどうかが曖昧なまま。日本の針路は、5人の候補の思惑と党内力学のせめぎ合いに委ねられている。